悪魔の昔語り
この話はヤシャ視点の昔話となります。
コータと出合ったのはオレがビビと呼ばれる妖精よりも小さくてなんの力も持っていない時。
あの時のことを、オレはずっと忘れないだろう。
悪魔の出来損ない。それがオレだった。体もなく、意思だけで他の生き物に寄生しほんの少し、感情と魔力を糧にして漂う生命体。ただ、進化する可能性は残っていた。様々な種族と感情と魔力が溢れている地上界。
だからオレのような力ない悪魔は地上界で空気のようにさ迷っている。魔術を扱う生命に寄っていけば力を溜め込むことが出来るからだ。出来るなら人間がいい。あいつらの感情が一番オレら悪魔にとって美味しい。
いつものようにあの時はさ迷っていたと思う。そしたら急に壁が出来て進めなくなった、どうやら結界が張られたらしい。
ここはイヤだ。いたくない。こわい。チカラがあふれすぎて、ジブンというソンザイがうすれてしまう。ひきずりこまれて、きえてしまう。
周りを見れば自分と同じように逃げ出そうとしている出来損ないがいる。でもこの結界からどうしても抜け出せない。何度も体当たりをしていると、ふと、イイ匂いが漂ってきた。嗅いだことのないくらい濃厚で、甘い。思考がドロリと溶けるような匂い。
気づけば先程の恐怖など忘れて、匂いの元へとふらふら飛んでいた。
「なんかイイ匂い~」
その元へ辿り着いた瞬間、衝撃がきた。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ?!」
まるで丸ごと食べられたかのような、引き裂かれるかのような衝撃。それと共に流れ込んでくる力。あまりの力と量にぐんぐんと自分が変化、進化していくのが分かる。体が出来た。大きく、力強い腕が見えた。そして長く伸びる髪。キラキラとした銀の色を持った髪は強い力の影響なのか光り輝いて見える。実際1本1本にそれぞれ端まで力に満ち溢れている。
凄い。自分は今、オレは今なんでも出来る。そう確信した。
そしてそれを与えたのは、目の前にいる小さな人間だと。
?がっているからこそ分かる。この小さな体の中に世界に?がる何かが魔力を注ぎ込んでいることに。そしてその力の半分をオレに渡すという暴挙。オレが暴れだしたらどうするのかねぇこのご主人様は。
ああ、分かってる。そんなことをしたらオレはバラバラに砕かれるだろう。それほどまでにこの力は強く、オレをがんじがらめにする。それでもこの力と、体と、思考を手に入れた。何でも出来る。この人間が言えばなんだって捧げてみせよう。
「何を、望む?」
オレが叶えるより自分で叶えた方が早いだろう。それでも、オレに頼みたいことがあれば叶えよう。あんたの願いを聞きたい。聞いて叶えてどろどろに甘やかして。この濃厚で甘い魔力をすすりたい。
「場所と家だな。誰にも邪魔されない空間。本を多く保管出来る家」
願いに驚いた。それなら、今ここにある城を奪った方が早いだろうに。そう言えば人間の城は奪えば多くの柵が増えて大変なことになるらしい。誰にも邪魔されない空間には当てはまらないそうだ。悪魔は力こそ全てだから、そんな常識はいらない。だからこの地上界より魔界で用意しよう。そう決めて離れる許可をもらうと魔界へ飛んだ。
魔界は地上界とはズレた場所に存在する。見た目はそこまで違いはない。ただ、空気が違う。地上界と比べて乾いている。魔力が含まれていないからだ。魔力がない空気はとても空虚で力が無い。そのせいで漂うことしか出来ない弱い者は、魔界で長く生きていけない。そして悪魔は欲望に忠実だ。だから魔界には悪魔かそれに属するものしかいない。魔界と呼ばれるようになったのはそのせいかのか。主人の知識の中にもその答えはない。
オレは真っ直ぐ魔界の中心にある巨大な城を目指す。溢れる力をそのままにして進めば、寄ってくる悪魔達。ひと撫ですればすぐ消し飛ぶほどの力の差は歴然としていた。それでも楽しそうに、物欲しそうに集まってくる。グシャリと潰す。プチリと潰す。なんだか楽しくなってきて手当たり次第暴れまくった。楽しい。凄く楽しい。初めての体、溢れる力、ああ、なんて心地良い。
快楽の酔っていると一撃で死なない奴らが出てきた。勿論オレの方が強いけど、戦い方が上手いというか力の使い方に慣れている。なるほど、戦うってのも面白い。城へ近づけば近づくほどそういった奴が増える。ああもっと、もっとこの力を試したい…!
酔って夢中になっていたらしい。気がつくと辺りが静かになっていた。全て殺してしまったのかと思ったが、自分を囲む影があった。多くの悪魔がオレに跪き頭を下げている。
「陛下、我らに力を与えてください」
「へいか?ああ、魔王のことか。オレじゃねーぞ?」
「いいえ、いいえ。今の魔王はあなたです」
今の?自分の足元にあるものを見る。これのどれかが魔王だったのか。なるほど。じゃあこの世界の頂点はオレってことになるな。ならこの城はオレの、オレ様の主人のものになるな。
あっさり手に入った場所に少々物足りなさを感じながら跪いている悪魔達を見る。力の差を強く感じたのだろうか。それともこれ以上城を壊されたくなかったのか。少し壊しちまったからな…。ともかく、オレ様の下につくほうが正しいと判断したようだ。頭の中まで忠誠を誓えとは言わないが正直手駒は欲しかった。あの主人は異世界からの転生者。?がったからこそ分かる。きっと大きなことを仕出かすだろう。なら面白いことには着いていって、面倒なことは任せる手駒が。
「オレには仕える主人がいる。それでも従うなら力をやろう」
さぁどうする?
オレの言葉に一瞬どよめきが起きたが立ち去るものはいなかった。
つまり表面上は従うということだ。よしよし。オレは近くに落ちていたナイフを拾い上げると髪を無造作にまとめてバサリと肩から切った。キラキラとした銀色がヒラリと風もないのに舞っていく。1本1本がそれぞれ悪魔の体へと溶けた。
「これは…!」
「凄い…力が…」
「満ち溢れるっ」
悪魔達が一気に強くなる。髪1本。それだけでもここまで力が上がるという事実に皆がハっと目を向けた。
目を細めれば、深く深く頭を垂れた。
「―…我々は魔王陛下に忠誠を誓います」
こうして魔界はオレ様の…主の領地となった。
主の所へ戻ると何やら騒動があった様子だが「問題ない。問題、ない、はず…」と言っていたので問題ないだろう。でも城はお気に召さなかったらしい。転移で連れて行けば顔を真っ青にして「元の持ち主に返してきなさい!」って言われたけどもう死んでるし。オレの持ち物になった、部下含めてと告げたら卒倒した。
オレ様の主は異世界の魂を持ち、溢れる魔力と膨大な知識を持った脆い人間。なんとも面白い。これ以上面白いってことはないだろう。オレはこの主と共に生きていく。
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と、まぁ昔のが可愛げというものがあったオレ様だが悪魔の嵯峨が強くなったのか面白いこと、快楽を得ることが1番となっている。いち時期サキュバスとの行為にハマったが、オレがこれからだって時に相手の方が気をやってしまう。どうやら魔力が強すぎると良すぎて気をやるらしい。サキュバスが夜な夜なオレの寝室に現れるようになったのはその快楽目的だがオレは不完全燃焼な為微妙な気持ちになる。好きだし、気をやってても終わるまで使うけど。
だから魔力が強い相手なら最高に最後まで気持ちよくいられると思うんだよなー。コータが相手してくれれば問題ないのだが「男は無理」と言われてしまった。絶対気持ちよくしてやれるのに。オレ様が女役でもいいけど。コータなら。
今はなんとかOKもらおうと日々過ごしている。何やらコータも次々と女を連れてくるんだもんなぁ。欲求不満ならオレが相手するのにな。…ま、分かってるけど。そういう意味ではないってことは。だからちゃんと構ってくんないと、寝込み襲いにいっちゃうぞと脅しておくか。
欲望に忠実な悪魔の話でした。
読んでくださりありがとうございます。