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悪魔と契約した日



「ねーなんかキラキラしたのあったよー」


 ナナに見張られながら必死に執筆していると、ビビが何かを抱えてやってきた。居候となったからには働かざるもの食うべからず。本や書類の整頓を任せたわけだが、面倒と適当にしかやらないので毎度報酬に蜂蜜を用意しなければならない。まぁ妖精だし量が大したことなにのが幸いか。

 だが自分が興味を持ったものにはまっしぐら。今回も目先の欲に囚われたらしい。


「お。えっらい懐かしいもん持ってきたなー」

「ギャー!いやぁエッチ!離せ悪魔ぁぐえっ」


 そして持ってきた何かを妖精ごと捕まえたヤシャがそれを懐かしそうに目の前に持っていった。鷲掴み…ビビがぐえぐえ言ってるけど大丈夫か?訝しげな顔をしていたらビビごとパスされた。


「ちょっとぉー!レディは優しく扱いなさいよ!」

「レディとして扱うか?…まぁオレ様のは無理でも楽しめるか」

「いやぁぁぁ!!コータ助けてー!!」

「はいはい。へぇ、確かにこりゃ懐かしい」


 ビビが持ってきたもの。キラキラと光るそれはグラディーグルスという名の王国の継承者の者に配られる耳飾だった。何処仕舞った忘れていたが、こんなもんもあったな~というか…。


「継承者…?コータ王様なの?」

「王様じゃないよ。一応それを受け取りはしたけど実質継承されることは在り得なかったし」

「そうそう。んで、オレ様と契約したんだよなー」


 そうだなぁ…と俺はこの世界に生まれた日のことを思い出した。






**






 トラックに轢かれた。そう思った瞬間俺の口から飛び出したのは悲鳴だった。

 助けを求めるように叫べば、そこに1人の外人の女性が顔を覗き込んできた。年配の涙目になった女性。俺を見ながらも誰かに話しかけているようだ。救急車を呼んでくれるのか?ふと、自分の体が酷く鈍く動くことしか出来ないことに気づく。腕を伸ばして―…目に映った小さな手に固まった。

 どういうことかと思考を始める前に、頭の中で何かが弾けた。それと共に物凄い量の情報が流れ込んできた。いやだ、やめてくれ!痛いっ!バラバラになってしまいそうな激痛に俺は絶叫して、意識を失った。


 そこからハッキリと意識が戻ったのは確か3歳の頃だ。急に意識がクリアになったというか、頭の中の整理がついた感じだった。あの賢者のじーさんは自分の膨大な知識を俺の魂に転写したんだ。それを異世界に渡し、更に生まれ変わりとして体を適切なものへと作り上げ魂を壊さないようにと非常に面倒なことをやってのけたわけだ。そりゃ定着するのに時間もかかる。


 それからはようやく自分の置かれている状況が理解出来た。俺は事故で死んで、賢者のじーさんに魂を拾われ知識を託されこの世界の王国の1つ、グラディーグルス王国の第三王子として転生したことを。


 なんでよりによって最高権力者の下に転生させたよ?!と頭を抱える三歳児。意識がハッキリするまでの3年間、俺が泣いたのは生まれた時だけ。後は虚空を見つめてボーっとしており、乳を飲み、排泄し、眠り、また虚空を見つめ一切喋らない。さぞ気味が悪かっただろう。実際呪われているのではないかと王妃の子でありながら乳母に押し付け離れの塔に隔離されていたのだ。


 じーさんの望みは自身の持つ知識を世界に浸透させ残すこと。だからこそその伝える方法を本として俺が選ばれた。だから転生させる時に『本を作れるほどの財力がある血筋』となったわけだが…これ書ける状態じゃないよな?

 更に厄介なことに俺の体には多すぎるほどの魔力があった。これは魂の問題と呪い。おかげで俺の意識がハッキリとした時には乳母が衰弱していた。この量の魔力をほぼ毎日浴びていたらそりゃそうなる。呪いって言われるはずだ。


 なので俺は知識を掘り出しほんの数秒で魔力の制御をマスターすると魔力をしっかり体の中に収める。そして乳母を全快させた。ごめんな、苦しい思いをしながらも彼女は俺を育ててくれた。感謝しきれない。気を失っている彼女に3歳の体でよいしょと毛布を必死に運ぶ。そっと被せたことでこれからのことを考えた。

 今は魔力を完全制御しているからいいが、今後体が大きくなるにつれてまた増えていく。大丈夫だとは思うんだが…そっと乳母さんを見る。このように衰弱する人が出てきたら嫌だからなぁ…どうにかするか。とりあえず彼女は2日くらい起きないだろうからそれまでにどうにかしよう。

 一応どうにかする方法は賢者のじーさんの知識の中にも多くあった。1日悩みまくって決めた。悪魔と契約することに。


 悪魔は対価と共に人に力を与えるとされているが、実際人に接触してくるのは弱い悪魔だ。弱い悪魔は人間から魔力や生命力といった力を貰い体を作る。そして人の願いを叶えるのだ。だからこそ小さい力だけを与えて願いを叶えてもらおうとすれば悲惨な結末にしかならない。そして魔力や生命力の大きさは魂の質で決まる。俺は異世界から来た魂だからこの大きさは例外だろうな。人を堕落させ魂を抜き去る悪魔もいるが、俺の魂を抜き取ることはないだろう。破滅するのは悪魔の方だ。

 だから俺の選んだ方法は悪魔と契約し繋ぎをつけて魔力を半分に分け与えるもの。元々上位の悪魔では俺の魔力の上乗せは危険なので弱めので。


 とりあえず塔の周りに結界張って、魔術で血を抜き出しそれで陣を描く。さて…なるべく俺と相性のいい奴を『なんかイイ匂い~』…あ。




 バチンッ


「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ?!」




 召喚と契約の両方を混ぜた陣を描いたんだが、マズかったらしい。

 フワフワ周りを飛んでいるような霊体でしかない悪魔が引っかかった。それが、ヤシャだった。


 俺の魔力を半分渡したせいで肉体を持ち一気に上位悪魔となった彼は大層喜び、契約を交わした俺に何が欲しいか聞いてきた。答えは1つ。


「場所と家だな。誰にも邪魔されない空間。本を多く保管出来る家」

「そんなんでいいのか?」

「そんなんって…結構難しいと思うぞ?」

「ふーん…オレ様心当たりあるからちょっと確保してくるわ」


 そう言って消えた。契約はしたから逃げたということはないし、魔力を繋げている為なんとなーく力使ってるなーとは感じる。いきなり体が出来上がったことだし遊んでくるのかな?と思った時期がありました。

 ちなみにヤシャが帰ってくるまで5日間ほどかかったわけだが、その間に改めて親子の再会をしてきた。これがまた大変だった…この話は長くなるからまた語る機会があるときにな。


 そして5日後。笑顔で帰ってきたヤツはとんでもないことを告げてきた。


「城落としてきた。今から使えるぞ」

「………はい?」

「なんだ、ちゃんと聞いてろよ。場所用意したからいつでもいけるぞー」

「そ、そうか。いや城っていう幻聴がしてだな…」

「城だぞ?魔王城だから人間の城なんかより凄くてデカイぞー?」

「………………」






**






「…え?ってことはこの屋敷ってまさか…」

「いや、流石に城を書庫扱いしたくないから大きめの屋敷を貰った」

「悪魔から?」

「悪魔から」

「タダで?」

「魔王には逆らえないだろうからな。上位悪魔から直々に」

「マオウ…って、まさか……」


 ビビが引きつった顔でヤシャを見る。ヤシャはニヤァと嫌な笑みを浮かべると軽く片手を上げてみせた。


「オレ様が現役魔王でっす」

「えええええぇええ?!」

「魔王になるつもりはなかったんだけど城落とす時に邪魔だった奴みんな殺したらその中の魔王が混ざってたみたいで、悪魔の世界じゃ強い奴が王だからオレ様になった」

「ウソだー!この顔だけ男がー!魔界終わったー!!」

「そしてこの屋敷のある場所も実は魔界です」

「通りで魔力操りやすいと思ったー!なんなのあんたらっ」


 そう言われてもついてきたのはそっちだしなぁ。

 魔界は地上界とはちょっとズレた場所にある。妖精界と一緒だな。悪魔でなければ限られた出入り口からか鍵がないと来れない場所。人間はいない。悪魔も全員ヤシャの手下となるので邪魔する者はいない。


「本の虫にはたまらない空間をプレゼントされて却下出来るはずがない」

「うわぁ…魔界に大革命起こしておいた人のセリフだとは思えない…なんか一番まともそうなコータが一番ヤバイんじゃない?」

「俺はただの知識の多い本好きの一般人だよ」


 ただただ本を読んで、気ままに世界を見ていたい。


「マスター、休憩は終了です」

「ゲ」


 たまには本を書いたり、昔話をしながら。



コータが王城でしたことはまたの機会に。

読んでくださりありがとうございます。

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