第五十八話
「この実況を聴いていないアルプススタンド、まだ何が起こっているのかわかっていない状況です。」
熱く語るアナウンサー。
「両チームともにアププスはどよめいています。」
「よく抑えた、山口。」
監督は言う。
「はい。」
山口が答える。
「すごいね、お兄ちゃん。」
中村の妹が言う。
「次の日からはアルプススタンドにラジオの実況が流れるかもな。」
中村は言った。
「上手い上手い。」
「いや、これは山口を褒めるしかない。」
「言えないけどね。」
中村は少し微笑んでいた。
「茜君、この試合終わったら時間ある?」
「えっ?」
「バスまで2時間も余るだろうから、甲子園見て回りたいなと思って。」
「・・いいよ、この暑さだからアイスノンを忘れず、20分ぐらいなら。」
「その代わり、あまり目立つようなことをしたら先生にも怒られるから。・・そう、そのラジオが壊れたことにしてせっかくだから何もわからず歩いていましたと、言ってくれればいいよ。」
「約束ね。」
茜は言った。
「約束よ。」
山岸は笑った。
「さて、ここで4回裏の守り、坂下高校を抑えられるか。」
「最高な形でBIOが見れるな。」
中村は言った。
「ストライクポイントが若干広く、相手は緊急登板を予測した不安材料としか見ていない。」
「まあ、そこではストライクポイントが広がり三振を取られる。」
「それは事実だ。」
「そして、緊急登板の後、抑えた場合相手の投手は先程のストライクポイントをさらに絞る投球をしようとする。」
「・・そこでホームベースに近づくのね。」
「それでホームベースに近づく。」
中村の妹、相馬の弟が言った。
「その通り。」
「通常の立ち位置に戻し、一気に走者を出し、少ない球数でチャンスに持っていき、投手戦を演じる。」
「次の試合に向かった場合、打線がいきつくように持っていくのがこの方法・・。」




