第三十六話
「山岸さん、珍しいですね。拍手の中ではこの声は聞こえないのに。」
「まっすぐ。」
小川のサインに頷く山口。
「やはり、暑さに耐え気持ちに耐え、先輩達の信頼が得たからこそ、このような起用をされるんですよね。」
「茜君、試合見て。」
右足の軸を止めながら、カウントワンボール、2ストライクの後。
「バッター空振り三振!!坂下高校、春夏通じて甲子園出場!」
選手がマウンドに集まってくる前に、先輩に敬意を表し、山口はキャップを外した。
電光掲示板を見ると、141キロという数字が出た。中高共に全国大会出場である。
「山口、よく頑張った。やったな。」
先輩が声を掛ける。
「はい。」
演奏陣も音楽が止まる・・。試合終了の合図だ・・。
そう、高校野球・・。そんな場面でアルプスは校歌が流れるのを待っているように見えてきた・・。
「さっ仕事だ。俺もグランド行って取材しよ。じゃ、茜くん。」
「さっぱりしてるわね。一言もらうチャンスだったのに・・。」
「今回の談話に僕は必要ではない・・。」
山田はスタンドを去った。
「校歌の斉唱を行います。」
選手が横一列に並ぶ。
「坂下高校―。」
「わー。」
選手達が応援席に全力で走る。
坂下高校、春夏連続、夏の甲子園大会出場である。
「やったぞ康太。」




