第十一話
「北海道、雪、イクラ、カニ。」
「さて、今日もゲッツーで振り向くところの腕の動きを確認するか。」
「野球だって、環境や美術、体育、計算、人気・・どれをとっても一番と俺は信じている・・。さっ帰ろう。マスター、お会計で。」
「大人だねえ、16歳とは思えないよ。」
「いやいや、マスター。」
「ごちそうさまです。」
「おう、また来な。夏場応援に行くからな。」
「彼は僕を支えてくれる仲間です。」
笑って山口は言った。
「二人とも頑張って。」
「はい。」
山口、茜は微笑んでそう答えた。
夏とはあっという間だが、結局のところ、テストのある学生は、思いのほか早く夏が過ぎる、束の間の思い出作りで精一杯なのだ。
「茜君、もう一杯ね。」
「はい、ブラック少し薄めでよろしいですか。」
「ああ、ありがといつも通り親切ないい茜君だな。」
茜は客のコーヒーの薄さは実家仕込みで新しい経験だ。それも進化を続ける・・。カップを温めるとは、味を分かっている・・。それを茜は感じていた・・。
それは紛れもない季節以上の努力をし、、その自覚を持っていた。だからこそ、ラーメン屋の息子で、定評の一年生をこうして客相手に話しをさせている。
このお客は田部と言って、この4月から来店を始めた。まだ、日の浅いリピーターだ。香りを確かめていない様子だから、他の店の経営者かもしれない。飲んでいる節々を見ながら茜はこの謎の人物について考えをまとめていた。
恐らく、遠くから来た初めてコーヒーを飲む人間ではないと思った。




