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第19話 表彰

 決勝戦終了から1時間後。

 少し前まで試合が行われていた舞台で武闘大会の表彰式が行われていた。


 舞台の上にいるのは3名。

 優勝した俺、負けてしまったものの決勝まで進んだクライブさん、準決勝でクライブさんに負けてしまった3位のミラベルさん。同じく準決勝で俺に負けてしまった魔族のアクセルも同率3位なので表彰を受ける権利があるのだが、表彰式には現れなかった。


「今回も素晴らしい戦いであった」


 ロマンスグレーの壮齢の男性が俺の正面に立つ。

 彼こそフェクダレム帝国の皇帝で武闘大会の主催者でもあった。


「諸君の武功を称え、ここに表彰させてもらう」


 まず優勝した俺に皇帝が勲章を付ける。

 次に準優勝のクライブさん、3位のミラベルさん。


 もらった俺の勲章は2本の剣が交差した物だった。クライブさんがもらった勲章は剣が1本で、ミラベルさんの勲章は槍が彫られていた。

 順位で勲章の意匠も変わっており、この勲章を役所に行って見せることで賞金が貰えるようになっていると隣のクライブさんが小声で教えてくれる。


 換金の証明だけでなく、帝国内においては自分の強さを示す絶対の存在となってくれるので憧れる武芸者は多い。


「さて、優勝者への褒賞についてだが」


 あらかじめ宝物庫にあるどんな物が欲しいのか決めている優勝者ならこの場で皇帝に言ってしまってもいい。

 だが、宝物庫にどんな物があるかなど知らない者の方が多数だ。


「何か望みの物はあるか?」

「まだ、決めかねております」

「では宝物庫へ案内する事にしよう」


 武闘大会の優勝者なら強くなる事を望んでいる。

 優勝した現在以上の力を手に入れようとするなら今使っている武器よりも強力な武器を手に入れるのが最も手っ取り早い方法だ。

 帝国の宝物庫にはそれだけの財宝がある。


「余としては対魔王道具を手にしてほしいところだな」

「対魔王道具?」

「魔王や魔族に対して強大な力を発揮する事ができる魔法道具が宝物庫にはあるのだ。前回の魔王復活の際に開かれた武闘大会では、その槍が下賜された」


 対魔王道具を手にしたのは異界の勇者ではなかったものの対魔王道具の槍を手に魔王軍を相手に獅子奮迅の活躍をしたらしい。


 その後、異界の勇者の手によって魔王が討伐されると役目を果たした対魔王道具は宝物庫の奥へしまわれる事になる。

 魔王や魔族に対して強大な力を誇る対魔王道具だったが、普通の魔物に対しては通常の槍と同等……もしくは劣る程度の威力しか発揮してくれないらしい。


 魔王が復活した時のみ強大な力を誇る槍。


 現在の状況を考えれば使える人間は必要だ。


 だが、俺たちには必要がない。


「申し訳ございません。私のような者には過ぎたる物です」


 魔王軍に対して有効な道具だと言うのなら俺みたいに魔王と戦うつもりのない人間が持つべきではない。


 それに俺たちが必要としているのは元の世界へ帰る事ができる魔法道具。

 そんな槍を貰っても使い道がない。


「そうか。あの槍は持ち手を選ぶ。言い伝えによれば魔王復活直後に武勇を示した者でなければ扱う事ができないらしい」


 それで武闘大会を開催しているのか。

 数多くいる参加者。予選から始まり、トーナメントを勝ち上がって来たので全ての参加者に公平であると言える。

 武勇を示すには打って付けかもしれない。


「では、後ほど宝物庫へと案内する」

「パーティメンバーも一緒で構わないでしょうか?」


 俺一人だと気付かない事があるかもしれない。

 別の理由からも全員で一緒に行動していたかった。


「問題ない。仲間も連れて来るといい」


 皇帝陛下の許可も貰えたので問題ない。

 その後、皇帝陛下が武闘大会終了の言葉を述べて本当に武闘大会は終わった。


 クライブさん、ミラベルさんと一緒に舞台を後にする。

 後で宝物庫へ案内する為の役人が迎えに来るらしいので、それまでは控室で待つことにする。


「便利なスキルね」


 緊張のせいで喉が渇いていたので収納からティーセットを取り出す。


 仄かに湯気の立つ紅茶を飲む。


 ミラベルさんやクライブさんも疲れていたようなので紅茶を差し出す。


「褒賞は何にするの?」

「まだ決めていません」

「そうね。宝物庫にどんなお宝が眠っているかなんて私たちみたいな冒険者には分からないわよね」


 人目がなくなるとミラベルさんが絡んでくる。

 絡んでくる……というよりは絡み付くように接触して来ていた。


「ミラベルさんはこれからどうするんですか?」

「すぐにでも国へ帰るわ」


 これから大規模なスカウト合戦が始まる事が予想されるので別れる前に聞いておきたかった。

 武闘大会で優秀な成績を収めた者にはフェクダレム帝国の重鎮などからスカウトの声が掛かる。他にも他国から招待された重鎮や貴族もいるので国の威信に懸けてスカウトは激しくなる。


 ミラベルさんは、そういったスカウトを全て辞退するつもりでいる。


「アタシは誰かに仕えて安定した生活をするよりも冒険者として自由気ままに生きている方が性に合っているからね」


 冒険者は危険な仕事ではあるものの武闘大会で優勝できるほどの実力を持つ一流の冒険者なら下手な役人よりも安定して大金を稼ぐ事ができる。


 彼女にとってフェクダレム帝国は生まれ故郷ではない。

 そんな場所で国に仕えるぐらいなら地元で生きていた方がいいのだろう。


「あなたもスカウトは受けるつもりはないんでしょう?」

「ないですね」


 宝物庫の中をゆっくり確認した後は別の国へ移動するつもりだ。

 国に仕える理由など俺たちにはない。


「ただ、国へ帰るのは明日以降にしてもらえませんか?」

「どうしてかしら?」

「そう言えば僕にも言っていたね」


 クライブさんも話に混じって来る。

 だが、本当の理由を言う訳にもいかないので適当にはぐらかすしかない。


「今日の夕食でも奢らせてもらえませんか?」

「いいの?」

「その代わり冒険者として色々な情報を教えて欲しいんです。何分、冒険者になって1カ月なので素人なんです。少しでもベテランの人から情報を手に入れておきたいんです」

「……そういうこと」


 明らかに俺の言葉を疑っている。


 クライブさんも俺の言葉を考えているようだった。


 彼女たちのように強く、安定して稼げる先輩冒険者を敵にするべきではない。だが、何かあるのだと察して受け入れてくれた。


「それで、何か欲しい物でもないの?」

「一応、求めている物はあるんです」


 自分たちが異世界から来た事。

 元の世界へ帰還する為に色々な国を廻っている事を説明する。


 先輩冒険者なら何か知っているのではないかと思っての質問だったがあまりいい返事は得られなかった。


「ごめんなさい。さすがに異世界へ渡る方法は知らないわ」

「同じく」

「そうですよね」


 最初から期待などしていなかったので落ち込む事もない。

 だが、有力な情報が得られた。


「もしかしたらエルフの長老連中なら何か知っているかもしれないわね」

「エルフ?」


 不老不死に近いほどの長寿で、若い姿を人間よりも長い期間保つことができ、そういった特性から美男美女が多い種族の事だろうか?


「エルフが長寿って言っても普通は2~300年ぐらいが限界らしいわ。それでも稀に突然変異で1000年ぐらい平気で生きられる者が現れるらしいから魔王復活を何度も経験している者がいるのよ」


 当然、同じように勇者召喚を何度も体験している。

 直接の関わりがなかったとしても何らかの情報を得ている可能性が大きい。


「もしかしたら、その長老が何かを知っているかもしれない?」

「不確かな情報でごめんなさい」

「いや、助かりました」


 フェクダレム帝国の宝物庫がダメだった場合の次に行くべき場所が見つかった。


 ただ、ミラベルさんはエルフの長老がどこにいるのか知らないらしく、まずはエルフの長老がいる場所から調べる必要がある。

 それでも貴重な情報には変わらない。


「よろしいでしょうか?」

「あ、はい」


 貴重な情報が得られたところで文官の男性が俺を呼びに来た。

 途中で待っていたパーティメンバーも拾って文官の男性に案内されながら帝城にある宝物庫へと向かう。


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