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第18話 決勝戦

『さあさあ、武闘大会も次の試合で最後! 泣いても笑っても決勝の舞台に最後まで立っていた人物が優勝者だ』


 マルセラの実況を聞きながら舞台へと向かう。


『まずは、大会が始まる前から優勝候補筆頭のクライブ選手。前回大会でも好成績を収めた人物で期待通りに決勝まで勝ち進んでくれました』


 舞台に上がると目の前にいるクライブさんを見る。

 クライブさんは真剣な表情で目付きを鋭きしていたものの雰囲気はどこか楽しむようなものが感じられた。


『対するは期待の新人ソーゴ選手。彼は全くの無名ではありますが、予選ではクライブ選手を相手に健闘し、その後の本選でも凄まじい攻撃方法で勝ち上がって来ました』


 予選で戦った二人が決勝で再び戦う事になった。

 闘技場内はこれまで以上に盛り上がっていた。


 二本の剣を収納から取り出して自分なりに構える。

 クライブさんも同様に槍を構えていた。


「二本の剣。それが君の本当の戦闘スタイルというわけか」

「そうですね」

「予選で使っていた杖は?」

「あれは【収納魔法】をより使い易くする為の物で、接近戦をするならこっちの方がいい」


 適当に持たされただけの剣だったが、今では槍や槌のような他の武器を使うつもりにはなれなかった。


『――試合開始(ファイト)


 鐘が鳴ると同時にお互い駆け出す。


 突き出された槍を右手に持った剣で弾き飛ばし、無理矢理踏み込むと左手に持った剣を振り下ろす。


 だが、振り下ろされた刃は舞台を叩き砕く。

 槍を逸らされたクライブさんだったが、そのまま流れるような動きで俺の側面へと移動していた。


 体を回転させながら側面から繰り出されてくる槍。

 右手に持った剣を縦に構えて槍を受け止める。


 その間に左手に持った剣を投げ付ける。


「……!」


 目の前から迫って来る剣。

 即座に両手で持っていた槍から手を放すと舞台の上を転がるように回避していた。


 足元に転がっている槍。

 念の為に足で踏み付けて取り戻されないようにしようとしたが、離れたクライブさんが掴むように手を伸ばすと俺の足元から消え、クライブさんの手元へと戻っていた。


 瞬間移動能力を持った槍。

 だからこそクライブさんは簡単に自分の武器を手放す事ができた。


「行きます」


 一気に距離を詰め二本の剣を交互に叩き付ける。

 槍で弾き、受け流しているようだったが、その表情は苦悶に満ちている。


「くっ……! 重い」


 誤って殺してしまわないよう抑えているとはいえ、超人程度のステータスでは耐えられないレベルだ。


 それを技量だけで凌いでいるクライブさんが凄い。


 俺の連撃を受け流していたクライブさんだったが、咄嗟に槍を後ろに投げ捨てて2回の攻撃を回避に専念する。

 すると3回目の攻撃を空ぶってしまう。


 理由は、瞬間移動で離れた場所にある槍の下まで移動していたからだ。


 槍を再び手にしたクライブさんが構える。

 しかし、その額からは汗が流れていたし、呼吸によって肩が激しく動いていた。


「随分と余裕がないですね」

「そうか?」

「瞬間移動は便利な能力ですけど、相当な負担があると見ました」

「正確には人体の移動の方だ。そっちは使用者にかなりの負担を強いる」


 随分と簡単に認める。

 しかし、それとは別のところで余裕が失われていたからだった。


「それよりもその力はなんだい?」

「その力?」

「技術が伴っていないのは君の仲間と同じ。だけど、持っている力は彼の何倍……いや、何十倍もある」


 攻撃した時の感覚からお互いの間にある圧倒的な力の差を感じ取ってしまったらしい。

 そのせいで余裕が失われている。


「まるで壁を……大山を相手に攻撃しているような感覚に囚われている。どれだけ攻撃しても倒せるイメージが湧かない」

「それは、どうも」


 一応、誉め言葉として受け取っておく。


 クライブさんの身に魔力が集中する。

 魔力は魔法やスキルを使用する為に必要なエネルギーだが、身に纏うことによって身体能力の強化にも使える。


「はぁ!」


 気合と共に放たれる突きが何度も襲う。


 毎回、違う場所を攻撃されており、迎撃を難しくさせられている。

 だが、どこに攻撃が来るのか事前に分かっている俺は攻撃の来る位置に剣を叩き付けて行く。


「凄いな」


 クライブさんが素直に感心している。


 攻撃の手を止めて後ろへ跳ぶ。

 これまでにないほどの魔力を溜め込んでいる。


「勝負は一撃で決まるか」


 身体能力を強化したクライブさんが右手に持った槍を突き出してくる。


 二本の剣で弾こうとすると、こちらの力が受け流されて槍によって両方とも弾き飛ばされてしまう。


 だが、肝心の槍の方も衝撃に耐え切れず弾き飛ばされている。


 空へと飛んだ槍。

 目で追っているとフッと消える。


 クライブさんを見れば後ろに引いていた左手に槍が戻っている。


「もう武器はない!」


 槍が突き出される。


 一応、殺すつもりがないのか狙っているのは右の脇腹。

 それでも痛い事には変わりなく、槍が突き刺されば血が大量に流れる事には変わりない。


「ほっ」


 槍の先端を包み込むように両手を添えると槍に沿って体を滑らせていく。

 反対側まで行くとクライブさんの手から槍を抜いて放り投げる。


「残念。その程度の速度なら止まって見える」


 咄嗟に後ろへ回り込んだ俺に対処するべく振り向くが、首に二本の剣を交差するように当てられて動けずにいた。


 首に当てている剣は新たに収納から取り出した剣だ。


「持っていた剣を吹き飛ばして安心しましたか?」


 こっちには収納の中に無数の剣を忍ばせている。

 目に見えている武器が全てではない。


「どうしますか? できれば降参して欲しいところなんですけど」


 二本の剣と槍が場外に突き刺さる。


「……降参しよう」


 瞬間移動能力を利用すれば剣から逃れることはできる。

 しかし、移動先は槍のある場外。瞬間移動をした瞬間にクライブさんの敗北が決まってしまう。


 二本の剣を首から離す。


「君ならもっと簡単に勝つことができたんじゃないかい?」

「そんな事ないですよ」

「たとえば準決勝で見せた家で舞台全体を潰してしまう方法。僕に使わなかったのはどうしてだい?」


 そんなのは簡単だ。

 クライブさんほどのベテランになれば何らかの対策をいくつか考えていても不思議ではない。


 あんな意表を突いた攻撃方法は最初だから成功したようなものだ。


「優勝できなかったのに随分と嬉しそうですね」

「そうだね」


 試合前の真剣な表情とは違って自然と笑みが浮かんでいた。


「僕が武闘大会での優勝に拘っていたのは自分なりに納得の行く形で力を示したかったからだ。仕官しても鍛えられるけど、その程度の強さじゃ僕は満足しなかった。けど、君との戦いはどれだけ自分を鍛えたところで勝てる姿がイメージできなかった。僕もそれなりに満足しているんだよ」


 前回、準決勝で敗退してしまったクライブさんは最低でも決勝進出。もちろん優勝を狙っていた。

 決勝まで勝ち進めたので最低限の目的は達成したことになる。


 それに実力は決勝までで十分に示せたはずなので仕官を断る予定でいる優勝した俺に代わって準優勝のクライブさんに話がいくつも舞い込むはずだ。


「大丈夫です。実力を示すチャンスはありますよ」

「それは、どういう……」

「しばらくは街に残っていてください」


 これから起こる問題にクライブさんの力は必要になる。

 とりあえず、今は優勝者として振る舞う事にしよう。


 観客席に向かって手を振ると大きな声援が聞こえて来る。


『今回の武闘大会の優勝者はソーゴ選手に決定です!』


武闘大会は終わりですが、第5章の本番はこれからです。

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