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第17話 舞台を圧し潰す

 武闘大会5日目。


『フェクダレム武闘大会も準決勝! 今日が最終日となっております』


 試合開始が告げられると舞台へと向かう。


 反対側にある入り口からは予選で暴れた魔族――アクセルが姿を現す。


 歓声とブーイングが同時に巻き起こる。

 歓声は俺に対する物。ブーイングはアクセルに対してだ。


 いくら死が許容されている武闘大会とはいえ、アクセルは暴れ過ぎた。予選では皆殺しにする勢いで舞台を血で染め、1回戦と2回戦も対戦相手に致命的なダメージを与えて勝利している。3回戦に至っては優勝候補でもあったバラル将軍を殺してしまっている。

 これによって会場はアクセルにとってアウェイとなっている。


「随分と嫌われているな」

「俺には関係のない話だ」


 アクセルにブーイングを気にした様子はない。


「お前が魔族だからか」

「そうだ」


 あっさりと肯定した。


「人間にどう思われていようと元人間である俺には関係のない話だ」

「そんなお前がどうして人間の振りなんてしてまで武闘大会に出ているのか気になるところだな」


 他に出場していた魔族もそうだったが、魔族としての特性を使用していなかった。いや、俺が予選で落とした二人については使う暇もなく場外へと落とされていたので使えなかっただけかもしれない。


「こちらにも事情があるんだよ」

「事情、ね」


 気になるところではあったが、俺たち自身に危害が加えられるような内容でないのなら問題ない。


「それよりも武器はどうした?」


 今の俺は予選から所持していた剣や銃を持っていなかった。


「必要か?」

「余裕だな」

「余裕とは違うな。両手を使えるようにしておきたかったから開けているだけだ」

「は?」


 意味が分からずポカンとしているアクセル。


「俺のスキルは【収納魔法】だ。荷物持ちらしい方法で戦ってやるよ」

「……いいだろう」


 舐められている、とでも思ったのかアクセルの顔が歪んでいる。


『――試合開始(ファイト)


 しかし、既に試合の始まりを告げる鐘は鳴った。

 収納から巨大な金属塊を取り出して投げ付ける。


『おっと、ソーゴ選手! ショウ選手と同じ方法で先制攻撃を仕掛けた!』

『彼らはパーティみたいですから、戦い方を共有しているのでしょう』


 ショウは取り出した後で好きな形に変えていたが、俺にできるのは『どんな大きな物でも取り出せるだけ』。


 全長50メートルの四角い金属塊がアクセルを襲う。


「フッ、こんな物」


 正面から迫り来る金属塊に対して左へ駆けるアクセル。

 アクセルに当たることなく金属塊が場外へと飛んで行く。


『こ、これは……!?』


 マルセラの声がいつもより近くに聞こえる。

 いや、闘技場の中でも一番高い場所で実況しているマルセラのいる高さに俺が近付いていた。


「なに!?」

『ソーゴ選手、どこかから現れた岩を足場にして上へと駆け上がって行く!』


 収納から取り出した岩の破片を足元に取り出し、足場を蹴って上空へと駆け上がる。金属塊に視界を覆われて俺の姿を見失っている間に跳ばせてもらった。


 気付けば50メートル近く高い場所にいた。

 ここまで高い場所から下を眺めたことなんてなかったのでちょっと怖い。


『ソーゴ選手、一体何をするつもりだ?』

「悪いな。俺は【収納魔法】の使い手なんだよ」


 両手から下へ向けて魔法陣を展開させる。


 魔法陣から出て来たのは――家。


「はあ!?」

『ど、どこから出て来たのか分かりませんが、ちょっと古いですが、家が10軒以上出てきました』

『あれは【収納魔法】でしょう。スキルを使う時の魔力の反応が感じられました。ですが、ここまで大量の物を出し入れできるなんて聞いた事がない……』


 通常は倉庫ぐらいの大きさしか収納することができないと言われている。

 とてもではないが、俺が取り出した倉庫何個分なんていうレベルではない。


「何も遮る物がない舞台は魔法使いにとって不利な場所でしかない」


 魔法を発動させるまでの時間が稼げない。


 だが、一瞬で魔法を発動させることができ、舞台全体を覆うような攻撃が可能なら……逃げ場などない檻へと早変わりする。


 檻の中にいる相手を圧し潰す家。

 帝都へ来るまでの間に村があった。道に迷ってしまったので泊まれないかと覗いてみたのだが、魔物の襲撃でもあったのか家が牙で抉られていたり、怪力によって引き千切られていたりしていたので誰も住んでいない廃村になっていた。

 車の中やテントの中で寝るよりはマシだろうという事で1泊だけさせてもらったが、翌日の朝には全ての家を回収させてもらった。


 何か使えないかと思ってもらって来た。


「荷物持ちは荷物持ちらしく持ち帰って来た戦利品を取り出すだけだ」


 重力に引かれて舞台へと落ちて行く家の上に立つ。

 舞台よりも広範囲に出された何軒もの家は舞台の上にいるならどこであろうとアクセルを潰す。少々ショッキングな光景になるかもしれないが、相手は既に闘技場内にいる観客からヘイトを集めまくっている。


 殺してしまったところで俺に非難が来るような事はない、はずだ。


「ハッ、舐めるなよ」


 アクセルの体に魔力が溜まって行く。


 ……あれはマズそうだな。


 魔力の反応だけを頼りに銃を撃つ。

 家の反対側に現れた魔法陣から直径1メートルの岩が弾丸のように襲い掛かる。

 魔力反応だけでは確実に当てられずアクセルの足元に当たるだけに終わるが、確実にプレッシャーは与えられている。


 後ろへ跳んで回避して行くので追い掛けるように弾丸を撃って行く。

 舞台の縁が近付いてくると舞台から跳び上がって家の縁にしがみ付く。


「ま、そうするよな」


 上から家が迫って来るというのなら助かるには自分も家の上に登る必要がある。

 最も簡単なのは端まで行ってから縁を掴む事。


「残念だったな」


 魔力を溜めて何をしようとしていたのか分からないが、俺の予想通りの行動に出てくれたので家を収納する。


「……は?」


 掴んでいた家だけでなく全ての家が消えた。

 そのせいで空中に投げ出されたアクセルが舞台の外へと落ちて行く。


 ――ズシン!


 場外で衝撃音が発生する。


「クソッ!」


 魔力を身に纏った状態で地面を殴って発生させた衝撃によって地面に叩き付けられてしまうのを回避したらしい。

 舞台の外に落ちてはしまったもののダメージは最低限に抑えられているみたいだ。


 対して俺は舞台の中央に立っている。


『ええと……アクセル選手の場外により、勝者ソーゴ選手』

「……」


 落ち着きを取り戻したマルセラの勝利宣言が闘技場内に響くものの会場からの反応は鈍い。


 彼らが目にしたのは突然舞台の上空に出現した何軒もの家。

 舞台の上にいたアクセルを圧し潰すと思われた家があっという間に消えた。


 何もない空間からアイテムを出し入れするのは【収納魔法】やアイテムボックスだが、俺が今見せたのは彼らの常識では考えられない規模のものだった。

 そのせいで思考がフリーズしている。


「こんな戦い認められるか!」


 アクセルが憤っているが、俺には関係のない話だ。


「これが俺なりの【収納魔法】の使い方だ。この武闘大会には【収納魔法】を使ってはいけないなんてルールは存在しない」

「それは……」

「俺は俺なりの方法で戦っただけだ。試合前にお前も承諾しただろ」

「……!」


 憤りながら控室の方へと戻って行くアクセル。

 あれは、何かして来る可能性があるな。


 しかし、観客席を見てみるとどこか納得していない様子の観客が何人かいた。彼らは剣や槍による命懸けのせめぎ合いを見に来ている。命の懸かった戦いである事には違いないのだが、彼らが楽しみにしていたのとは違ったのだろう。


 観客席に向かって声を張り上げる。


「安心して下さい。決勝では観客の皆さんが望まれるような戦いによう全力を尽くします。だから予選で付けられなかった決着を付けようじゃないか」


 挑発するように言ってから舞台を下りる。

 俺の挑発の甲斐あって会場が一気に盛り上がる。


「いいだろう」


 入れ替わるようにすれ違ったクライブが呟く。

 対戦相手であるミラベルさんとしてはつまらないかもしれないが、俺としても負けてしまったショウの仇を討ちたかった。


 ――結果、俺とクライブさんの決勝が1時間後に行われる事が決まった。


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