第14話 錬金術師の戦い方
僕の1回戦の対戦相手はゴライムという名前の剣士。
先ほどソーゴさんが戦った直心流の後継者。そのライバルの剣士。
ゴライムさんは舞台に上がって来るなり気合の入った目付きで僕のことを見つめて来る。
「……何か?」
「気を悪くしたなら申し訳ない。単純に気合が入っているだけだ」
「はぁ」
「実況の紹介を聞いたなら分かっていると思うが、私とライバルのゴドフリーは武闘大会に自分の人生を賭けて参加している。奴が本選早々に敗れてしまった以上、私が1度でも勝つ事ができたなら私こそが後継者だと師範も認めてくれる」
自分が後継者と認められるかどうかという戦いだから負けられず、気合が入っている。
僕にはそこまで重い物は背負われていない。
けど、相手が全力で戦いを挑んでくると僕も全力で応えるのみ。
『――試合開始』
「参る!」
ゴドフリーさんと同じように試合開始直後に踏み込んでくる。
槍と剣では槍の方が間合いが長い。
ゴライムさんの攻撃範囲に入る前に槍を突き出して攻撃する。
けど、横へ跳んだゴライムさんの服を掠めるだけで通り過ぎて行く。
気付けば僕の右肩に向かって剣が振り下ろされている。
「……っ」
――キン!
咄嗟に槍を無理矢理持ち上げて剣の前に掲げる。
無理な体勢で受け止めてしまったけど、体は問題ない。
「なるほど。驚異的な力だ」
「どうも」
「だが、それだけだ。その体に技術は身に着いていない」
そう頼れるのはステータスの強さのみ。
それと自分のスキル。
「申し訳ないですけど、まだ負けるには早いので僕が勝たせてもらいます」
剣を受け止めている槍を思いっ切り持ち上げる。
下からの勢いに押されてゴライムさんがバランスを崩している。
そこへ向かって槍を投擲する。
「行け!」
「愚かな!」
バランスを崩していてもさすがは剣の達人。
転がるように移動しながら槍の投擲を回避していた。
同時にゴライムさんから距離を取る為に後ろへ跳ぶ。
「戦いの場で武器を失う、というのがどういう事なのか認識するといい」
僕にだって武器を持たない事がどれだけ危険なのか分かっている。
素手で剣を受け止める事はできない。
無防備な姿を晒している僕に向かってゴライムさんが駆け抜ける。
お互いの距離はそれほど離れていない。10歩もあれば剣が届く距離。
けど、ゴライムさんが4歩目を踏み出した瞬間……
「ぐふっ!」
何かに躓いてしまったせいで大きく転んで舞台へ顔から突っ込んでいた。
気付けば僕が1歩踏み込めば蹴られる位置に倒れている。
「えいっ」
倒れたゴライムさんの体を蹴ると場外ギリギリの場所まで舞台の上を転がりながら吹き飛ばされていた。
『えっと……』
実況のマルセラさんもこの状況には困惑していた。
師範の座を賭けた戦いに挑んでいるゴライムさんが簡単に転ぶとは思えない。試合はもっと激しい剣と槍の攻防になると思い込んでいた。
けれども、その前提として対戦相手が前衛職である必要がある。
「どうして、あんな所に穴が……」
ゴライムさんが呟いたように転んだ場所には、いつの間にか溝がいくつもできていた。
『おっと前の試合の修復忘れか!? 運悪く舞台にできた溝に転んだみたいだ』
マルセラさんが言うようにゴライムさんは溝に足を引っ掛けてしまったせいで転んでしまっていた。
『いえ、修復忘れというわけではありません』
『ですが、舞台には穴ができていますよ』
『試合が始まる前に大会運営によって修復されている事は確認されています。だから試合前に穴が残されている事はありません』
魔法によって修復された舞台。
前の試合による影響など残さないようにするため全ての試合が終わる度に魔法による修復が行われている。
『ですから、あの穴は試合中に造られた穴です』
『え……?』
『おそらく彼は槍に関するスキルを持っている「槍士」みたいな前衛職ではなく、舞台の修復を請け負っている人たちと同じ「土魔法使い」のような後衛職だったのでしょう』
僕の職業を敢えて言うなら『錬金術師』。
ステータスも本来なら前衛向きではない。
「……!」
解説を聞いてゴライムさんが驚いている。
僕の槍と向き合っていた彼にしてみれば前衛職にしか思えない力をしていた。
「舞台に金属が一部でも使われていて助かりました」
大部分は石で造られているみたいだったけど、強度を補強する為の目的なのか金属が内部に僅かばかり使われていた。
金属部分の形を変形させることで舞台を僅かばかり陥没させることができた。
僅かな変化。
けど、僅かだったおかげでゴライムさんに気付かれることなく転ばせることができた。
「なるほど。この舞台全てが君の武器というわけか」
ゴライムさんが剣を構える。
勘違いは訂正しなければならない。
「なんだ、それは……」
「ただの金属片ですよ」
アイテムボックスから取り出した金属の塊を舞台よりも大きく変形させて持ち上げる。
非力な錬金術師のステータスでは持てない巨大な金属の塊でもソーゴさんのおかげで楽々と持ち上げることができる。
「せーの」
金属の塊を投げる。
舞台の縁ギリギリに立っていたゴライムさん。
正面から迫って来る金属の塊に対して左にも右にもできず正面から受け止めるしかない。
回避する以前に蹴られた時のダメージが残っていたらしく金属の塊を回避できるだけの余力なんて残されていなかった。
よろよろと立ち上がる。
『場外です! ゴライム選手、場外へと避難しておりました』
目の前から迫り来る金属の塊に対して彼が選んだのは安全な後ろ――場外へと退避する事。
『勝者、ショウ選手です』
舞台の上に放り投げられたままの槍と金属の塊を回収すると控室へと戻る。
☆ ☆ ☆
「お疲れ様」
控室へ戻るとソーゴさんが待っていてくれました。
今日の試合が終わった彼は自由に行動していても問題ないのですが、試合に出場する僕たちの為に待っていてくれました。
「ありがとうございます。けど、僕の戦いは剣と槍の戦いを楽しみにしていた観客にとっては不満だったんじゃないですか?」
「そうね。試合が終わった後なんてちょっとだけだったけどブーイングが起こっていたわよ」
もう一人、控室にいたハルナが試合が終わった後の様子を教えてくれる。
控室にはテレビモニターのような物が置かれており、試合の様子を見られるようになっていた。
魔法道具らしく見た目はテレビと変わらない。おそらく娯楽に飢えた過去にいた召喚された勇者の誰かが普及させた物です。ただエネルギー効率が悪いらしく一般には普及していないのでこのように試合の様子を控室にも伝える、みたいな使い方しかできないみたいです。
「僕のスキルは『錬金魔法』です。剣士みたいな前衛職の人たちと一緒にされては困ります」
「けど、次の試合はそうはいかないんじゃないか?」
「そうでしょうね」
テレビには次の試合が終わろうとしている光景が映し出されています。
そこには予選でソーゴさんと戦った優勝候補のクライブさんが相手選手を槍で圧倒している姿が映し出されていました。
僕の次の対戦相手は事前の予想通りにクライブさんになりそうです。
「本選トーナメントの対戦相手は予選のブロックに関係なくランダムに決められる」
ランダム、とは言いつつも盛り上げる為に予選で接戦を繰り広げた相手とは決勝まで戦わないように運営側で調整されています。
予選でのクライブさんの動きを見る限りゴライムさんにしたような不意打ちみたいな方法は使えないでしょう。
「たぶん僕の大会は次で終わります」
「随分と弱気だな」
「なので、次の試合は経験値を稼ぐ事を目的に戦わせてもらいますがいいですか?」
「あたしとしては勝って欲しいところだけど……」
ハルナは勝って欲しそうにしているけど、僕ではクライブさんには勝てない。
ソーゴさんに許可を求めると……
「いいんじゃないか?」
あっさりと了承してくれました。
「ま、勝つのはそれはそれで問題だしね」
トーナメント表を確認する。
順当に勝ち進めば予選で虐殺をした魔族と準決勝で戦う事になる可能性が高い。本当に戦う事になった場合には試合の出場を辞退する事も考えているけど、その時に相手がどんな行動に出て来るのか読めない。
「あたしも1回戦は勝ったし、ソーゴとあたしが2回戦も勝てば3回戦はあたしたち二人が戦う事になる」
その時は、適当に試合を終わらせてハルナが負ける。
順調と言える内に1回戦も終わりました。
3人とも1回戦は突破です




