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第13話 本選1回戦

『さあ、フェクダレム帝国武闘大会も本選の開始だ!』


 マルセラの実況に湧く闘技場。


 彼女が言うように3日目の今日は武闘大会本選の1回戦が全試合行われる。

 本選が開始される今日こそ本当の意味で武闘大会が始まる日と言っていいかもしれない。


 宿屋から闘技場へ向かうまでの間に帝都の様子を眺めさせてもらったが、街の大通りには貴族を乗せていると思しき豪華な馬車が走っていた。

 貴族のような身分の高い観客は俺たちが使っていたような多くの人が混ざっている観客席にはいない。専用の個室が用意され、安全に観戦ができるようになっているらしい。


 見世物になっているのは好ましくないが、必要な事だと割り切る。


『まずは第1試合! 最初に戦うのは予選でも最初の試合で優勝候補のクライブ選手と接戦を見せ、最後には圧倒的な風魔法によって舞台の上にいたクライブ選手以外の全員を吹き飛ばしたソーゴ選手!』


 紹介に合わせて舞台に続く廊下から姿を現す。

 どのように登場するのかは予め運営側から指示を受けている。これも大会を盛り上げる為に必要な事らしい。


『対するは帝国でも有名な剣術道場の次期後継者と目される人物の一人――ゴドフリー選手です』


 反対側にある廊下からゴドフリーさんが出て来る。

 ゴドフリーさんは30歳ぐらいの彫りの深い男性で刀のように長く相手を斬る為の剣を腰に差していた。


『次期後継者、というのはどういう事でしょうか?』

『彼の所属する直心流という剣術道場では現在、師範が後継者を決めようとしているようです。直心流では優秀な門下生が複数人おり、実力も拮抗している事から優秀な成績を収めた者を師範にするつもりでいるみたいです。プロフィールによれば本選に出場した直心流は二人いるみたいです』

『なるほど。師範の座を賭けた武闘大会、というわけですね』


 ゴドフリーさんが背負った物は分かった。


 だが、俺には関係がない。


 舞台の上を進んで中央まで進むと10メートルほどの距離を開けて対峙する。

 予選の時には多くの選手がいたおかげで狭く感じた舞台も二人しかいないと広く感じてしまう。


「君には悪いが勝たせてもらう」

「凄まじい自信ですね」

「君の予選は見せてもらった」


 俺もゴドフリーさんの予選は見ていたはずなんだが、勝ち残った選手の中にゴドフリーさんがいたことは覚えていても試合の内容は覚えていない。

 剣士のような近接戦闘だと大多数が入り乱れる試合では何をしていたのか記憶に残り難い。


「君が予選で最後に見せた強力な風の魔法。あれにさえ気を付けていれば問題ない」

「対策でも用意しているんですか?」

「もちろんだ。魔法だと言うなら魔力を練るような暇を与えなければいいだけだ。幸いにして私の直心流は速さと手数、何よりも研ぎ澄まされた心から放たれた鋭い一撃が特徴的な剣術。君には何もさせない」


 ゴドフリーさんが剣を正面に構える。

 俺も収納から取り出した銃を右手に持つ。


「変わった形の杖だ」


 この世界には銃がない。

 魔法を使ったように見せた時、俺の手には銃が握られていた。魔法を使う時に握られていた武器、ということで銃を杖だと勘違いしているみたいだ。


『――試合開始(ファイト)

「参る!」


 試合開始の合図と共にゴドフリーさんが右へ左へと小刻みに動きながら近付いて来る。妙な小細工もしているらしく残像ができていた。


 俺も距離を取る為に後ろへ跳ぶ。魔法使いなら魔法を使う為に距離が必要だ。


 しかし、何も遮る物がない空間。

 誰かに守られながらでなければ魔法使いは実力を発揮することはできない。


「遅い!」


 ゴドフリーさんが剣を振り上げる。


「あんたがな」


 振り下ろすまで2秒と掛からない。

 それでも一瞬だけ無防備な隙ができあがる。

 魔法使いの身体能力なら僅かな隙に対応することができなかったかもしれない。だが、申し訳ないが俺は魔法使いではない。


 銃を向けて特大の風の弾丸を浴びせる。

 特大の風の弾丸は長身のゴドフリーさんと同じくらいの大きさがある。


「うっ……」


 風の弾丸を受けたゴドフリーさんが仰け反りながら吹き飛ばされる。


「何もさせるつもりがないのは俺も同じだ」


 銃から10センチほどの大きさの小さな風の弾丸を連続で撃つ。

 風の弾丸が肩、腹、足……様々な場所に当たり後ろへと追いやって行く。


「な、なんだこの魔法は……!」


 鍛えているらしく威力を落として連射力を重視した弾丸の嵐に耐えていた。


「ここまで撃ち続けられる魔法、など聞いた事がない!」

「ああ、魔法は魔法でも『風魔法』だなんて俺は一言も言っていないぞ」

「……ッ! 私は勘違いを……!」

「恥ずかしがる必要はない。俺の目論見通り、俺の試合を見ていた全員が勘違いしていたはずだ」


 例外は実際に戦っていたクライブさんくらいだ。


 収納からもう1挺の銃を取り出して左手に持つ。

 右手に持った銃は弾丸を撃ち続けたままだ。


「じゃあね」


 予選で見せた風と同等の突風を左手に持った銃から放つ。


 突風に吹き飛ばされたゴドフリーさんが舞台から落ちる。

 どうやら舞台から落ちた時に打ち所が悪く、気絶してしまったらしいので起き上がって来る気配がない。


『じょ、場外です! ソーゴ選手、予選でも見せた風の魔法でまたしても場外へと吹き飛ばしてしまった!』


 マルセラさんの言葉に闘技場が沸き立つ。


 魔法による攻撃は派手だ。

 闘技場の舞台において1対1で戦うという大会のルールでは魔法使いが勝ち難い。


 そんな中、強烈な突風によって相手を場外まで吹き飛ばすという方法によって2度も勝った俺は人々の印象に残っていた。


『最後に見せてくれた大きな風も素晴らしいものでしたが、途中まで見せてくれた魔法も素晴らしいものでした』

『と言いますと?』

『魔法を使うには魔力を練りながら詠唱することによってイメージを明確にして発動させる必要があります。魔法の中には同じ現象を連続で可能にしてくれる魔法もありますが、それらは全て一つの魔法によるものです。彼が使っていた魔法ほど長続きさせる為には簡単ではありません。それを詠唱することなく発動させているとなると相当な魔法だという事が窺えます』

『なるほど』


 なんだか実況と解説によって俺が何かをしなくても誤解が勝手に広まって行く。派手な方法だったため次に戦う事になる相手は突風への対策を用意してくることになるはずだ。


 しかし、いつまでも続けられる方法ではない。


 ――残弾を考えると使えるのはもう1試合。


 弾丸として使えるほど強力な風は簡単に手に入るような代物ではない。

 帝国へ来るまでの間に立ち寄る事ができた渓谷。そこには突風が吹き付ける危険な場所があり、間違って迷い込んだ場合には人など簡単に吹き飛ばされ、渓谷の壁に叩き付けられて死んでしまう事もあるらしい。


 危険を承知で近付くと魔法陣だけを飛ばして突風を回収させてもらった。

 余裕を持って多めに回収しておいたはずなのだが、それを武器として使うと予想以上に消耗していた。

 今後の事を思えば残しておきたい。


「ま、なんとかなるだろ」


 次の試合の勝ち方を考えながら舞台を後にする。


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