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第12話 ハルナの予選

「ごめんなさい。負けてしまいました」


 観客席にいる俺たちの下へ戻って来たレイは真っ先に謝った。


「いや、何をしたかったのかは分かっているから問題ない」


 観客席から試合を見ていた多くの人は気付かなかっただろうが、レイが毒を所有している事を知ってい

る俺たちにはいきなり血を吐いて倒れた魔族のウィンディアが毒によって倒れた事を知っている。

 勝ち残っていれば真っ先に反則負けとされていた。


 そんなルール違反をしてまでもレイは彼女を倒したかった。


「そんなに気にしないで。こっちはソーゴとショウ。この後であたしも勝てば3人も本選に進めるんだから」

「……はい」


 ハルナが言うように彼女の今のステータスを思えばレイと同じように魔族と同じ試合でもなければ負ける可能性は限りなく低い。

 1人でも多く本選へ進んでほしいところだが、3人も本選へ進めれば十分だ。

 本選で戦う事になる危険性を考えればレイの判断は間違っていない。


 それでもレイは納得できないでいた。

 やっぱり武闘大会に出場したからには勝ち残りたかったみたいだった。


「ほら、他の試合を見ていましょ」

「うん」


 ハルナが話題を変える為に試合へ集中するよう言う。

 彼女の試合までまだ時間があるため余裕があった。



 ☆ ☆ ☆



 予選Oブロック。

 それまでの試合では大番狂わせが起こるような事はなかった。その予選ブロックで一番強いと思われる者が勝ち残り、賭けによって小銭を稼いでいた者が喜んでいた。


 そして、ハルナの出場する試合が始まる。

 Oブロックは腕に自信のある冒険者を集めたような感じになっており、革鎧などの動きやすい装備を身に着けた男が多かった。


 中でも注目したのはハルナの隣に立つ大男。

 横にも縦にも大きく、隣に立ったことでハルナの2倍以上はあるように見える。

 他にも冒険者らしい筋骨隆々とした男が多い。


「……大丈夫でしょうか?」


 ハルナが戦う事になる相手を見て不安そうな心情を一切隠せていないレイが呟く。


「大丈夫、だと思います」


 不安そうにしているのはショウも同じだ。

 ここまで来た以上、ハルナを信じるしかない。

 幸い、魔族のような脅威になる相手は紛れていない。


『――試合開始(ファイト)


 試合が始まる。


 すぐにハルナの隣に立った男が両手を広げながらハルナに掴み掛かろうとする。

 男にしてみれば真っ先に弱そうなハルナに狙いを定めたつもりなのだろう。


 だが、男の手は空振り何も掴めない。

 男の内側へハルナが潜り込んでいたことで両手を空振ってしまっていた。

 そのまま上へ跳び上がると男の喉元に鞘に納められたままの短剣を押し当てる。


「ぐふっ」


 気道に衝撃を受けた男が後ろへ倒れる。

 気絶しているらしく起き上がる様子はない。


「どうやらちゃんと手加減ができているみたいだな」


 倒した男を一瞥しただけで舞台の上を駆け回り始め、思い思いに戦っていた他の選手を次々と短剣で叩いて気絶させて行く。


 剣や槍による斬撃が飛び交う中で起こる攻撃を器用に回避し、接近する。


『す、凄い! ハルナ選手、圧倒的な速さで舞台の上を駆け抜け、次々と他の選手を打倒して行きます』

『彼女は敏捷に特化した選手なのでしょう』

『ええ、他の選手よりも圧倒的に速いですね』


 たしかにハルナは敏捷の方がステータスの伸び率が高かった。

 4人の中で比べてもステータスの伸び方には個人差があり、それぞれの特性なんかが影響していると思われた。


 だが、そんなものは大した影響にはなっていない。

 俺たちのステータスは俺とショウで造ったアイテムボックスの影響が大きく、今では全ステータスが3000上昇するように設定してある。


 個人的な特性によるものなのか速さを活かした戦い方を本人が好んでいるだけだ。


『あたくし、レイ選手とウィンディア選手の戦いを見てから全女性選手の情報を全てチェックさせてもらいました。彼女は冒険者らしく、各地を転々としながら旅をしているそうです。それにしても強いですね』


 今も5人目の相手を昏倒させたところで真剣な目付きで他の選手の下へと向かう。

 その段階になってようやく他の選手もハルナが危険人物だと認識したらしいが、既にハルナのギアはトップに入っている。


『彼女は【強化魔法】のスキルを使えるとの事です。彼女を見れば自分の体にスキルを使用している痕跡がありますね。スキルによって身体能力を向上させているのでしょう』


 スキルを自分の体に使っているのは間違いない。

 だが、ハルナがしているのは攻撃の威力や防御力を強化するような真似ではない。【強化魔法】によって攻撃が当たる瞬間に手加減する力を強めている。

 近接戦闘で手加減ができなければ俺たちのステータスは相手を簡単に殺してしまう。


 懐から抜き取ったように見せながらアイテムボックスから取り出した2本のナイフがハルナに隙ができるのをずっと伺っていた男たちの胸に突き刺さる。致命傷ではないが、血が流れ続けているので早急な治療が必要だ。


「随分と器用に当てられるな」

「それはそうです。ハルナはずっと色々な練習をしていましたから」

「いつの間に……」

「デュームル聖国にいた時の魔物狩り。あの時も狩りの成果よりも練習に時間を費やしていたそうですよ」

「あの時か」


 砦へ行く為に必要な許可を貰う為に手っ取り早く実力を示す必要があった。

 数を稼ぐ為にバラバラに行動していたので個人でどんな事をしていたのかは自己申告でしか知らない。


「本人から聞きましたが、初めての魔族との戦いで役に立てなかったのが悔しかったみたいです。あたしも役に立ちたい、って言っていました」

「そんな事……」


 気にしなくてもいい。


 けれどもレイがそうだったようにハルナも俺に頼りっぱなしの現状に悔しい思いをしている。


 そんな時に出場する事になった武闘大会。

 この大会なら俺以外の選手を倒せば必ず役に立てる。


 剣を持った男二人がハルナの左右から同時に斬り掛かる。

 身を低くしながら駆けたハルナが左から攻撃して来た男の顔を蹴り上げる。そのまま振り向く事もなく右から攻撃して来た男に向かって途中で拾っておいた舞台の破片を投げ付ける。激しい戦闘にも耐えられる強度を誇る舞台の破片は当たった男の意識を一瞬の内に刈り取る。


 すぐに次の相手へと向かう。

 どうやら舞台の上にいる全員を相手にするつもりらしい。


「どうして、わざわざ自分で倒すつもりなんでしょうか?」

「それは……あいつにとって予選は練習なんだと思います」

「練習?」

「はい。魔物狩りや帝国へ来るまでの間に遭遇した魔物と戦ってそれなりに戦う術を身に着けました。ですが、僕たちがこれまでにした対人戦闘はデュームル聖国で遭遇した盗賊との戦いだけです」


 この世界は、普通に歩いて旅をしていたなら途中で盗賊が襲い掛かって来てもおかしくない治安をしている。


 だが、俺たちの旅は基本的に車による移動だった。

 知能の低い魔物なら得体の知れない乗り物が相手でも襲い掛かって来る事もあるが、恐怖心を持つ人はこの世界にないはずの車を見れば真っ先に逃げ出すか関わらない事を選ぶ。


 そのため人を相手にした経験が少ない。

 魔物との戦闘には慣れたが、人を相手にした時も全く同じという訳には行かない。

 相手の行動を予測し、自分の行動が読まれている事まで予測して攻撃を仕掛けなければならない。


「そろそろ終わりそうだな」


 舞台の上にはハルナと二人の男が残されていた。

 二人の実力を見る限り、ハルナがどちらを落とすかで本選へ進む方が決まりそうだった。


 だが、ハルナの足が止まる。

 何かを二人の男に言っているらしく、ハルナの言葉を聞いた二人の内の一人が槍を突き出す。

 二本の短剣を器用に使って槍を後ろへ受け流すと引っ張られるように前へ出た男の背中を蹴って場外へと叩き落とす。


『予選終了です! 凄まじい健闘を見せた選手に拍手を』


 会場の至る所から拍手が起こる。

 それを受けたハルナが笑顔で手を振っている。

 武闘大会で女性でありながら無双したハルナの人気は凄まじい事になっていた。


「最後、何を言っていたんだと思う?」

「……たぶん、『あたしが倒してしまうと不公平だから二人で戦って残り一つの椅子を奪い合って下さい』とかそんなところじゃないですか」

「それは怒り出すな」


 完全に下に見た言葉。

 だが、その言葉が正しかったから攻撃を仕掛けた男は簡単に落とされていた。


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