第7話 賭け
観客席で予選の様子を見ていたショウたちに合流する。
「おつかれ、それより最初の攻撃って……」
「その辺も含めて説明する」
魔族が紛れていたこと、俺のスキルを誤認させる為に派手な風を巻き起こしたことを説明する。
「魔族が……ここからだと全く分からなかったけど?」
「本当の話だ。魔族って言っても見た目は人間と全く変わらないし、俺も魔族との戦闘経験があるから近くに行ってようやく分かったレベルだし」
おまけに試合前ということで魔力を滾らせていた。
そのおかげで同じ舞台の上にいるという状況で初めて気付けた。
「怪しい奴とかいないか?」
「魔族がこんな場所に紛れているなんて初めて知ったんだから警戒しているはずがないでしょ」
一般的な参加者が相手なら負けるとは思えない。
しかし、魔族が相手となると何かがあるかもしれないから警戒しておいた方がいい。
「俺も魔族を探れ、なんて言うつもりはない。ただ、そんな相手が闘技場内には紛れているから試合中だけじゃなくて普段から気を付けておいた方がいいっていう話だ」
全員が頷いてくれる。
これだけ多くの人が入り乱れている場所では警戒のしようもないかもしれないが、心構えをしておくだけでも違う。
それに俺が来たことで注目を集めてしまった。
先ほどの試合で優勝候補以上に目立ってしまった選手が観客席に現れれば観客の視線を集めてしまうのも仕方ない。
「お、ちょうどCブロックの試合が始まるところだったんだな」
マルセラの実況で出場選手の紹介がされていく。
とくに優勝候補になるような人物は紛れていないらしく、あっさりとした紹介の後で試合開始の鐘が鳴る。
Cブロックの試合は、Aブロックの時とは違って隣にいる選手と自然な形で戦いが始まっていた。
「この調子だとCブロックには紛れていないみたいだな」
あまり特出した力を持っている者も紛れていないようなので魔族はいないかもしれない。
「ソーゴさんは他にも魔族が紛れていると考えているんですか?」
「あの二人だけで終わりではない可能性の方が高い」
何か目的があるとしたら優勝者に与えられる特権だろう。
魔族に軍などへの士官に目的があるとは思えない。それよりも帝国の宝物庫にある物に用事があると考える方が自然だ。
試合が終わると闘技場が沸き立つ。
「どうやら1番人気のある人とフェクダレム帝国の騎士の人が残ったみたいよ」
舞台の上では騎士服を着たイケメンが観客席に手を振っていた。
対照的に斧を持った男が面白くなさそうな顔をして立っていた。
「二人とも下馬評だと人気のある選手だったみたい」
「賭けていたのか?」
武闘大会では賭けが普通に行われる。
予選の場合は、誰が勝ち残るのか予想し、的中すれば賞金が得られるというものだ。
「ギャンブルなんて不確実なものはよくないわ」
ただし、賭けを全くしていないわけではなかった。
「あんたのおかげで稼がせてもらったわ」
「賭けはよくないんじゃなかったのか?」
「それは、誰が勝つのか分からない時の話よ。今のCブロックの試合だって人気通りに勝ってくれたからよかったけど、中には全くの無名の選手が優勝候補を脅かすほどの実力を持っているのかもしれないじゃない」
いったい、どこの誰の事でしょう?
けど、ハルナの言いたい事も分かった。
「つまり、確実に勝てる実力を持った人物が紛れているなら賭けるのも問題ない」
「その通りよ」
アイテムボックスから金貨の詰まった皮袋を取り出して中身を見せてくれる。
「全くの無名選手だったおかげで倍率が凄くよかったわ」
中には100枚近く詰まっている。
それがアイテムボックスの中には他にもあるらしい。
「……どれだけ俺の倍率は高かったんだ?」
「倍率が高かったこともそうだけど、持っていた小遣いを全部賭けているんです」
「おいおい……」
思わず開いた口が塞がらない。
ハルナがさっき言ったように中には無名の選手でも実力を持っている場合がある。
それは俺に限った話ではない。
だから、全財産を賭けるような真似は止めて欲しい。
一応、パーティ全体での生活資金は俺が預かっているので無一文になった末に奴隷となるようなことはないが気を付けておいて欲しい。
「大丈夫よ。あたしたちが出る試合では相手の情報も考えて賭けるつもりだけど、あんたが出る試合は全てあんたの勝利に一点賭けだから」
「さすがに、それは……」
「優勝するつもりなんでしょ」
「当然」
俺たちの目的を考えれば優勝以外には興味がない。
そして、優勝するという事はトーナメントになっている本選で最後まで勝ち続けるということを意味している。
俺に賭け続ければ賞金を手にすることができる。
「分かった。もう止めない」
優勝すれば問題ない話だと気付いた。
「二人は賭けなかったのか?」
「いや、当然賭けたけど」
ショウが当然のように言う。
けれどもハルナのような全財産を賭けるような真似はしなかったので皮袋1つで済んだ。
「わたしも自分の試合には賭ける自信はありませんけど、ソーゴさんの勝利にしっかりと賭けさせてもらいました」
ずっしりとした重みのある皮袋を掲げるレイ。
「……俺も賭けておけばよかったな」
最初の試合ということで時間的に余裕がなかったので賭ける暇がなかった。
「ショウの試合では俺もしっかりと賭けさせてもらうよ」
「止めて下さいよ」
プレッシャーになったらしく後退っていた。
しかし、緊張感を持ってもらわなくては困る。
「さっきも言ったように魔族が紛れている」
俺の真剣な表情に唾を飲み込んでいた。
「魔族に限らず危険な参加者もいる」
優勝候補のクライブがそうだ。
俺にも到底及ばないが、アイテムボックスによるステータスアップに頼っているショウたちにとっては強敵になるのは間違いない。
「途中まで実力を隠して戦うのはいいけど、本当に危険な相手がいるようなら即座に全力で戦った方がいい。それでも勝てないような相手がいた時は棄権して欲しい」
真剣な表情で頷いてくれる。
優勝することも大切だが、それ以上に仲間の命の方が大切だ。
最終的に俺が優勝することができれば何も問題ない。
それに試合中に誰かが取り返しのつかないことになった時には切り札を切るつもりでいる。
『それでは、これよりDブロックの選手が入場します』
Cブロックの出場選手が全員退出し、代わりに舞台の上へDブロックの選手が入場してくる。
中でも一番目立っているのが先頭を歩く大男だ。
『Dブロックの中でも注目されている選手がフェクダレム帝国軍の将軍を務めますバラル将軍でしょう。彼の持つハルバートは、まさに生き物のようにハルバートとは思えないほど軽やかに動きます』
出場選手の紹介をして行く度に観客席が沸き立つ。
「――いた!」
舞台の上へと上がって行く選手を確認していると見つけた。
「いた? 誰か知り合いでもいたんですか?」
[Dブロックの中に魔族が紛れていた]
ここからでも分かる異質な魔力を放っていた。
「どうしますか?」
「どうもできない」
正規の手順で参加申し込みをしているなら出場を取り止めさせるのは難しい。
また、相手が魔族だと証明する手段がない以上、言い掛かりでしかない。
「すみません。試合の観戦についてはお任せします」
「どうした?」
「僕の試合はFブロックなので、そろそろ行かないと間に合わないんです」
出場選手は、観客席で観戦していてもいいが、前の試合が行われる時には控室で待機していなければならない決まりになっている。
Eブロックの試合が始まる前に控室にいなければならないのでDブロックの試合をのんびりと観戦しているような暇はない。
「分かった。こっちで警戒しておくことにする」




