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第6話 舞台を一掃する風

 武闘大会参加者の中に魔族が紛れていた。

 魔族の目的や能力については全く分からないが、同じ舞台の上に立てば相手の魔力を確認することができる。


 俺が落とした2人から感じられた魔力はスタークやパラードに似ていた。

 似ていただけで確証はない。


 しかし、落とした2人にだけ聞こえるよう呟いた声に反応してしまっている。


 間違いなく2人は魔族だ。


「……!」


 後ろから気配を感じて体を捻る。

 すぐ横を白い槍が通り過ぎ、芝生の上に突き刺さる。


「そこまで恨まれるような覚えはないんですけど」


 槍の飛んで来た方を見ると隣にいた時と変わらない表情のクライブがいた。

 表情は穏やかなのだが、感じられる気配が穏やかではない。

 静かに怒っている。


「……どうして、さっきの2人を先に落とした」

「ああ」


 クライブが怒っている理由が分かった。

 彼は隣にいた俺の事を警戒しており、危険度が高いと判断して速攻を仕掛けた。しかし、当の俺がクライブを無視して別の人物を攻撃する為に駆け出したことから自分の存在が無視されたと判断されてしまった。


「俺を警戒していたあなたなら分かるんじゃないですか?」


 クライブが俺を警戒していたように、俺は魔族2人を警戒していた。


「そうかい? ちょっと変わった魔力をしているみたいだけど、そんな人は冒険者を長くしていれば稀に会う。僕には彼らが危険なようには思えないね」


 魔族は魔王が復活した時代でなければ生まれない。

 そのため魔王が復活してから時間があまり経っていない現状では、たとえ強者であっても魔族との遭遇経験のない者がほとんどだ。

 だから魔族だと気付けない。


 ここで相手が魔族だと教えるのは簡単だが、証明する方法がない。

 なにより変な疑いを掛けられた、と落とした2人から色々と言われると困った事態になってしまうかもしれない。


 今は、とりあえず反対側にいた2人を速攻で落とした、と思わせておいた方こそ都合がいい。


 ――それに最悪の事態は他にも危険な存在がいた場合だ。


 落とした2人の実力は、よくて魔族になったばかりだったスタークよりも少し強いぐらい。

 もしも、この場にパラードのように強い魔族が紛れていた場合、厄介な事態になる可能性がある。


 魔族の企みを潰しつつ、注目は集めない方向で進めたい。


「俺には、あの2人こそ危険に思えた。それに比べてあなたの評価はずっと下げないといけないみたいです」

「どうしてだい?」

「せっかくの武器を手放して場外に落としているじゃないですか」


 場外に突き刺さった槍。

 あれを回収する為には舞台から下りなくてはならない。


 しかし、俺の指摘を受けたクライブは笑っていた。


「そう言えば、君は僕の戦いを見たことがなかったんだね」


 クライブが横に手を掲げると何も持っていなかった手に白い槍が握られる。


「は?」

「これが『白光の槍』が持つ能力。持ち主と認められれば、槍とどれだけ離れていても念じるだけで瞬時に持ち主の手へ戻ることができる」

「なるほど。だから誰も攻めて来なかったのか」


 槍を手放したクライブ。

 一目で無防備だと分かるはずなのに周囲にいる者は誰も攻撃しようとしていなかった。


 それは、前回の大会を観戦していた者なら誰もがクライブは武器を失ったわけではないと知っていたからだ。


「予選から、こんなに面白い相手と巡り会えるなんて思いもしなかったよ」


 槍が何度も突き出される。

 クライブの攻撃を剣で叩き逸らして行く。


『す、すごい! 速攻で冒険者2人を場外へ落とした冒険者! クライブ選手の攻撃を悉く逸らして耐えています!』


 実況の興奮した様子の声が聞こえて来る。

 剣の扱いとかは素人なんで集中力が切れるような真似は止めて欲しい。こっちは圧倒的な力で適当に槍を殴りつけているだけだ。力の差がありすぎるせいであらぬ方向の飛んで行って逸らしているように見えるだけ。


「どうだい? これだけの猛攻を受けても僕の方が弱いかい?」


 クライブにとっては自分が取るに足らない存在だと思われてしまったことこそ許せなかった。

 だから自分こそが強いと認めさせたい。


「いや、さっきの2人よりあなたの方が強いですよ」

「へぇ」

「けど、俺が警戒していたのはステータスなんかじゃない」


 魔族には人を辞めた瞬間にそれぞれ特性が与えられる。

 どんな特性を持っていたのか知らないが、それを使われる前にリタイアしてもらうことにしただけだ。


「どうする?」

「あの『白槍』が苦戦するような相手だぞ」

「ここはどちらかが潰れるのを待った方がいいな」


 俺とクライブの手が同時に止まる。

 理由は漁夫の利を狙っている輩がいるからだ。


「気に入らないな」

「同感」


 せっかくのバトルロワイヤルなのに俺たち以外に戦っている相手がいない。


 片や優勝候補。

 そして、優勝候補と対等に戦っている人物。


 本選へ進めるのは最後まで立っていた2人なのだから俺とクライブが倒れた後でもう1人に残れば問題ない。


「あなたとの決着は本選にとっておくことにしよう」

「へ?」


 クライブが槍を振りかぶる。


 一番近くにいる男まででも10メートル近い距離があった。

 槍が届くような距離ではないが、クライブにとっては射程範囲内だった。


 いきなり伸びた槍が男の足を串刺しにし、槍を振るうと男が舞台の上に転がっていた。場外に落ちたわけではないし、致命傷というわけでもないが、敵の多い予選においてこれ以上戦い続けるのは危険だろう。


「奴のスキルだ!」

「10メートル以上離れろ」


 どっちに決着が付くのか遠巻きに囲んで見ていた男たちが一斉に離れて行く。


「戻れ」


 クライブの意思一つで槍が元のサイズに戻っていた。


「槍を伸び縮みさせるスキルか」


 使い処は難しいが、色々と役に立つスキルであるのは間違いない。

 再び槍を手にした他の選手に襲い掛かる。


「俺も参加させてもらうか」


 このままクライブが全員を倒すのは見ているだけでは遠巻きに眺めていた連中と同じになってしまう。


 収納から銃を取り出す。

 俺の銃は【収納魔法】の照準を定める為の補助的な道具であって銃の内部に弾丸を装填する必要はない。

 弾丸の代わりとなる物は全て収納内にある。


「風圧セット」


 あえて言葉にすることで収納から出す物をイメージする。


 銃を舞台の左側へ向ける。


「吹き飛ばされたくなかったら全力で防御してくださいね」


 俺の言葉に何かを感じ取ったのか3人目の男を場外へと吹き飛ばしたクライブが槍を構える。


 他の選手は未だに呆然としている。


 銃の引き金を引く。

 瞬間、収納の中にあった突風が大量に吐き出され、クライブの攻撃から逃れていた男が吹き飛ばされる。


 銃をそのまま右側へと扇状に動かして行けば突風が舞台上を席捲することになる。


『じょ、場外だ!』


 突風が通り過ぎた後には俺とクライブ以外は誰も立っていなかった。

 クライブは舞台に突き刺した槍にしがみ付く事で突風に耐えていた。


『これは意外な結果! いや、優勝候補と対等に戦っていたことから只者ではないと思っていましたが、風魔法によって全員が場外へと吹き飛ばされました』

「やっぱり勘違いしてくれたか」


 わざわざ俺が目立つように場外へと吹き飛ばした理由が勘違いさせること。


 まさかほとんどの選手を場外へと吹き飛ばした風が【収納魔法】によって生み出された風だと思うはずがない。

 すると、突風を見ていた誰もが【風魔法】によって引き起こされた現象だと勘違いする。


 1度しか使えない勘違いだが、本選で戦うことになる相手に勘違いさせることができる。


『え~、手元にあります資料によりますと【風魔法】を使った冒険者の方がソーゴ選手。ということでAブロック本選出場者は、クライブ選手とソーゴ選手に決定しました』


 実況に闘技場が溢れんばかりに沸き立つ。

 これ以上、舞台にいる必要もないので下りる。


「君は……」

「本選で戦うんですよね。楽しみにしていますから負けないで下さいね」


 何か言いたそうにしているクライブだけを舞台に残して消える。

 舞台に残ったクライブには観客の歓声に応えるような余裕はなかった。


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