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第5話 速攻

武闘大会予選編開始です。

『さあさあ、フェクダレム帝国武闘大会の始まりだ!』


 闘技場内にマイクで拡声された女性の声が響き渡る。

 同時に闘技場で観戦していた人々の歓声も響き渡る。


『実況は、あたくしマルセラが行います』


 闘技場が見渡せる場所に赤毛の女性が立っていた。

 その隣には眼鏡を掛けたインテリの白髪男性が席に座っている。


『解説は、フェクダレム帝国の参謀であられるヘクター様にお願いしたいと思います』

『よろしく』


 参謀のヘクターが微笑むと会場内から先ほどとは少し違う黄色い歓声が響き渡る。


 今回の武闘大会は特別ではあるものの定期的に5年に1回開催されているもので国の運営によって行われているとは聞いていた。それが、まさか軍の参謀まで出て来るとは思っていなかった。


『今回の大会は定期的に行われているのとは違いますが、どのように考えられていますか?』

『たしかに前回の開催から2年、と開催期間は短かったものの前大会時から2、3年後には開催されるだろうと予想されていましたので皆さんベストコンディションに仕上げてくれていると思います。ですが、開催通知から半年もなかったことを運営側として謝罪させていただきます』


 急な開催だったらしいが、準備不足で出場するような選手はいない。

 今も闘技場の中央にある舞台の上には19人が気合に満ちた表情で……いや、何人かはリラックスした状態で立っているので全員ではない。俺も特に気負いすることなく舞台の上に立っている。


『それにメグレーズ王国から参加予定だった方々には申し訳ないことをしてしまいました』


 メグレーズ王国を拠点にしている冒険者は現在、国に駆り出されて魔王軍との戦場にいる。

 武闘大会に出場するような高ランクの冒険者は冒険者ギルドや国から様々な恩恵を受ける代わりに危険な事態が発生した時には協力しなければならないという決まりがある。

 今回も武闘大会申し込み直前に呼び戻されてしまった者が何名もいるらしい。


『運営側としては、可能ならば勇者も招待したいところでした』


 げっ、それは止めて欲しいところだ。

 勇者の中には顔見知りもいるし、勇者が来るとなれば付き添いで騎士や国の運営する大会ということで国の重鎮も呼ばれる可能性が高い。


 俺たちが異世界の勇者だと知られれば色々と動きにくくなる。


『ですが、今大会も腕に自信のある者が307名も集まっていただけました。出場選手のみなさんは是非とも健闘してください』


 闘技場の視線が一気に舞台へ集まる。

 舞台の上には既に予選の第1試合である予選Aブロックの選手が立っている。


『では、これより予選を開始したいと思います! 予選のルールは簡単。全参加者307名を16のブロックに分け、選手のみなさんには戦ってもらいます。最後まで舞台の上に立っていた2名が本選へ出場できるようになっております』


 真っ白なタイルで造られた円形の舞台の上には19人の出場選手が外周部にズラッと並んでいる。


 全員が一斉に戦い出す為に不公平がないように運営側から立つ場所については細かく指示を受けている。立っている場所から全員の顔を見ることができ、どんな選手が参加しているのか分かるようになっている。


『現在、舞台の上に立っている19名は厳正な抽選の結果選ばれた選手たちです。ですが、中でも最も注目される選手は白い槍を手に持つ『白槍』の二つ名を持つクライブ選手でしょう』


 名前を呼ばれて俺の左に立っていた男が観客席に向かって手を振る。

 観客席から返って来るのは女性の黄色い歓声だ。


 真っ白な服に白い槍、騎士のような甘いマスクと出で立ちによって女性からの人気が高かった。さらに前回の大会で準決勝まで勝ち残っている成績もあって実力もきちんと評価されている。


 他にも2人名の知れた選手の名前がマルセラから呼ばれるが、クライブの時ほどの歓声はなかった。


「よろしく」


 試合開始を待っているとクライブが俺に向かって手を振って来た。

 俺も手を振り返す。


「君は今回が初めての参加かい?」

「そうです」

「やっぱりね。若いけど、前回の大会は2年前の開催だったから連続で参加している可能性だってある。けど、見覚えがなかったから初めての参加だと思ったんだ」


 ニコニコとした笑みを浮かべながら話し掛けて来るクライブ。

 意図が分からない。


「君、相当強いよね」


 しかし、次に発せられた言葉には凄味が含まれていた。


「どうして、そう思うんですか?」

「惚けなくてもいいよ。僕たちレベルになれば対峙しただけで相手の実力を計ることができる。僕の勘が今舞台に立っている選手の中で君が一番危険だと告げているんだよ」


 ステータスが高くなれば相手の実力をなんとなくだが計ることができるようになる。

 正確に計る為にはお互いの間に圧倒的な差が必要になる。そのため、俺にはクライブも含めて全員のステータスを計ることができる。


「お互いに全力を尽くして健闘しようじゃないか」

「ありがとうございます」


 クライブにお礼を言って視線を正面に向ける。


『優秀な選手が参加してくれて私としても嬉しい限りです。それでは、早速試合を開始しましょう』

『――試合開始(ファイト)


 マルセラが前に置かれた鐘を鳴らす。


「先手必勝!」


 隣に立ったクライブが槍を伸ばしてくる。

 お互いに距離を開けて立っていたが、踏み込んで槍を伸ばせば届く距離。


 だが、必殺の一撃は空振ることになる。


「なに!?」


 クライブの驚く声を置いて正面へ駆け抜ける。


 まだ、戦闘開始が告げられたばかりでクライブと俺以外は誰も動いていない。ほとんどの人物が自分と偶然同じブロックになった仲間以外は敵という状況で様子見をしていて動けずにいる。


 即座に動いた俺を呆然と見つめる選手を無視して反対側にいた二人へ近付く。


 その二人は、自分以外は敵にならないと判断してなのか駆け抜ける俺を気にも留めていなかった。


「どうする?」

「まずは、他の連中が潰し合ってくれるのを待つ」

「そんな暇は与えねぇよ」


 二人とも周囲を最低限警戒していて舞台の縁ギリギリに立っていた。ここなら後ろから攻撃されるようなことはない。

 しかし、同時に落ちやすい場所でもある。


 右側に立っていた男の胸を押して舞台の上から落とす。


「え……?」


 落とされた男は訳が分からず呆然としていた。

 場外には安全面を考慮して芝生が敷かれているので舞台から落ちても怪我らしい怪我をしていなかった。そのせいもあって自分が場外へと落とされてしまったことが信じられないのだろう。


「この……!」


 落とした男の仲間と思しき男が拳を振りかぶって来る。

 身を低くして攻撃を回避する。顔スレスレをガントレットが装備された腕が通り過ぎ、風圧が襲い掛かって来る。一般人なら顔に当たっていれば顔面が陥没するような威力と勢いだ。


 襲い来る攻撃に臆することなく胸に剣を叩き付ける。

 剣の腹で叩いたこともあって男が身に着けていた革製の防具が凹むだけで大きな怪我もなく場外へと叩き飛ばされる。


 参加者全員が死を覚悟した武闘大会とはいえ、死者が出てしまうのは忍びない。

 もっとも場外に飛ばしたばかりの男2人に関しては気にしない。


『じょ、場外――!? いきなりの場外です! あっという間の出来事で何があったのか分かりませんが、開始早々二人の選手が場外へと落とされた!』

『わあああぁぁぁぁぁ!』


 場外へ落とされたばかりの時は、観客もいきなりの事態に戸惑っていたがマルセラの実況に速攻で場外へ落とされた、と認識する。

 そうすれば闘技場は一気に盛り上がる。


 俺としては闘技場を盛り上げるつもりなど全くなく、クライブよりも危険な男が2人も混じっていたので早々に退場してもらっただけだ。


「まったく……どうして魔族なんかが混じっているんだか」


 場外へ落とした2人を見ながら呟いた声は落とされた本人たち以外には、誰にも聞かれなかった。


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