第4話 参加受付
2日後。
帝都の中心地区にある闘技場を訪れる。
闘技場は、円形の建物でテレビなどでしか見たことがないがコロッセオのようなイメージだった。
入口のところに冒険者と思われる武器を持った男たちの行列ができており、何人もの女性が受付として忙しく対応していた。一応、国の兵士と思われる兵士が受付の後ろに立っているが、列を成している冒険者の方が強そうなので受付の女性は不安そうにしていた。
事実、武闘大会に参加する冒険者の方が強い。
兵士がいるのはあくまでも問題行動を起こした冒険者を確認するため。
冒険者の方もそれが分かっているからわざわざ自分から騒ぎを起こして出場権利を失うような真似はせず、大人しく列に並んでいる。
俺たちも列に並んで1時間ほど待つと順番がやって来る。
「武闘大会に参加したいんですけど、いいですか?」
「では、こちらに記入をお願いします」
受付が俺たち4人の前にそれぞれ紙を出してくる。
紙には名前と職業、使用する武器やスキル、これまでの功績を書く欄があった。
名前はそれぞれ書けばいいし、職業も冒険者で問題ないはずだ。
しかし、使用する武器まで書くのは躊躇われた。
「これって全てを記入しないといけないんですか?」
「そんな事はありません。ここに書かれた内容は試合時に参加者の紹介の為に使用させていただく為です。参加者の中には自分のスキルを隠しておきたい方もいらっしゃいます。なので、伝わっても問題ない内容だけでも問題ありません」
とりあえず名前と職業を記入する。
スキルには【収納魔法】。使用武器は色々。
功績については迷ったが書かないことにした。紹介で使用するならドラゴンや最強の魔族を単独で討伐した、などと言っても笑い者にされるだけだ。
ならば、特にメリットもないので黙っていることにする。
俺が書き終わると仲間も書き終わっていた。
「ええと……」
俺たちの書いた用紙を見た受付の女性が困っていた。
「なにか……?」
女性の反応を見たレイが首を傾げる。
召喚特典のおかげで文字を書くことにおいては問題がないはずだ。
「本当にこのスキルで間違いはありませんか?」
だが、女性が気にしていたのは俺たちのスキルについてだった。
「そうです」
「あの、冷やかしなら帰っていただけますか」
「なぜ!?」
「どのスキルも戦闘には向かないスキルばかりです。本大会は本物の実力者でなければ勝つことはできません。参加費用も掛かるので帰られることをお勧めします」
そう言えば最近ではすっかり忘れていたが、俺たちの手に入れたスキルは戦闘には向かないハズレスキルだった。そのせいでメグレーズ王国から捨てられ、後腐れなく離脱することができたので特に悲観するようなことはなかった。
だが、これまでに多くの参加者のスキルを見て来た女性からすればハズレスキルで武闘大会に参加するのは無謀に見えたらしい。
「大丈夫ですよ。戦闘には向かないスキルですけど、それを補って余りあるステータスを持っていますから」
嘘は言っていない。
「……武闘大会は自己責任となっています。その辺を踏まえていただけるなら参加を認めます」
4人とも頷く。
試合では、自分の普段から使っている武器――相手を斬ることのできる剣や槍が実際に使われるので場合によって命を落とすこともある。
もしものことがあって最大戦力である俺が負けてしまう可能性もある。
なので、本当なら女子の2人には辞退してほしいところだったのだが、話し合った結果、4人とも参加することになった。
「分かりました。では、簡単に注意事項の説明をさせてもらいます」
本物の武器が使われるため命に関わること。
試合中に問題があっても大会運営側には一切の責任が生じない。
上位入賞者には賞金が出される。
参加費用として1人、銀貨10枚が必要になる事を告げられる。
「では、参加費用です」
収納から参加費用の銀貨40枚を女性の前に置く。
女性は何もない場所から大金が現れたことに目を丸くしていたが、すぐに冷静さを取り戻していた。
「こちらで参加費用を受け取った後は、参加を取り消して返金するなどといったことができませんが本当によろしいですね」
「問題ありません」
本当にしつこい人だ。
だが、ハズレスキルを所有している俺たちを嘲笑っているわけではなく、危険のある武闘大会へ参加させることを本当に心配していることが表情から分かるので怒るわけにもいかない。
しかし、こちらは既にしっかりと意思を表明している。
受付の女性が参加費用を受け取ると手続きが受理される。
「みなさんは4人のパーティですよね」
「はい」
「では、こちらから1つだけ引いて私に見せて下さい」
机の上に置かれる4つの箱。上の中心に手を突っ込める程度の小さな穴が空いているだけで中に何が入っているのかは分からない。置いた時にジャラジャラと音がした事から何かが入っているみたいだ。
とりあえず言われるままに手を突っ込んでみる。
箱の中には卵ほどの大きさの球体が入っており、取り出してみると『A』と描かれていた。
「それは予選の参加ブロックを示しています。Aブロックですので、当日は朝からの試合となりますので早めに闘技場へいらしてください」
「はい」
仲間のブロックを確認してみるとショウが『F』、ハルナが『O』、レイが『I』となっていた。
見事に分かれており、順当に勝ち進めば準決勝や決勝でなければ戦うような事にはならない。
これは偶然でもなんでもなく運営側による意思によるものだ。
運営としても試合を盛り上げて観客を楽しませたいと考えているので前大会で優秀な成績を収めた者を決勝や準決勝のような盛り上がる試合まで温存しておきたいと考えている。
そのため俺にはA~Dまでのどれかを掴むことになる箱を手渡す。
他のメンバーにも同じように手にする球の種類を限定することでバラツキを持たせた。仲間同士の試合が盛り上がった方が都合よかったからだ。
これで参加受付は終了となり解放される。
「この後はどうします?」
当日までは自由行動となっており、受付が始まっていなかった昨日は帝都の散策をしていた。
今日はどうやって時間を潰すか。
「ちょっと闘技場の方でも見てみようか」
武闘大会へ向けて闘技場は調整中となっている。
しかし、立ち入りが禁止されているわけでもなく、自由に出入りができるようになっているおかげで選手でも問題なく入れる。
闘技場の中には商魂逞しい商人の何人かが露店を出しており、何かの肉を焼く串焼きの匂いが流れて来た。
「1本ちょうだい」
思わず買ってしまった……
仲間からの視線が痛い。
「やっぱりもう3本ちょうだ……」
「わたしたちは朝食を食べたばかりなので必要ありません」
「朝から串焼きはちょっと……」
しかし、微妙な空気には耐えられない。
視線を闘技場内へ巡らせると飲み物を持った売り子の姿が見えた。
代金を支払うと3人へ果実を絞ったジュースを渡す。
「そんなに気にしなくてもいいんですよ」
「そうそう。事情は分かっているんだから」
「俺が居た堪れないんだよ……」
早く空腹を耐える自制心を覚えなければストレスで倒れてしまいそうだった。
以前にしたように収納内でステータスに反映されないようにできれば問題ないのだが、ここまでステータスを上げている原因になっているのはパラードの遺体だ。収納内の移動でも何らかの影響が現れた時の事を考えれば恐ろしく行動に移すことができない。あの時は、俺の収納について知らなかったから不意を打つことができたが、次も同じようにできるとは思えない。
「見て下さい」
ショウが闘技場の中心に造られた舞台の上を指差していた。
そこでは武器を持った人々が模擬試合を行っていた。
「もう、練習ぐらいならやってもいいんだな」
練習を行っておけば舞台の大きさや使い方に慣れることができ、試合を有利に進めることができるようになる。
だが、同時にデメリットも存在する。
こうして公開されている舞台の上で戦っていれば自らの手の内を晒すことになり、試合で不利になる。
それでも問題ない人物が模擬試合を行っていた。
「あれは、前回の大会で3位になった奴だよ」
観客席の掃除をしていたおじさんが教えてくれる。
その視線は舞台の上で白い槍と長い鉄の棒を打ち付け合っている2人の男性へ向けられていた。
「あんたたち武闘大会は初めてかい?」
「はい」
「だったら前回の戦いを知らないのも無理ないね」
舞台の上で模擬試合を行っている2人の男性は、今回で3回目の挑戦で初めて挑戦した時には予選を突破することはできたものの初戦で敗退。前回参加した時にはお互いに準決勝まで勝ち進むことができた。
前回の結果もあって今回の大会では優勝候補筆頭と目されていた。
「あれ、1位と2位の人は?」
当然、準決勝で敗退したのだから決勝へ進んだ者もいる。
「優勝した奴と準優勝した奴は国からスカウトされてそのまま部隊長職に就いているらしいよ。国に仕えている奴でも参加できるけど、よほどのことがない限り国に仕えている奴が出て来ることはないね」
念願叶って国に仕えることができるようになった者もいる。
もしもの場合が起こり得る武闘大会にわざわざ出場する必要もない。
「あの2人は準決勝敗退が気に入らないらしくてね。今回の大会でリベンジを果たしたいらしいから他国のスカウトも全て蹴って鍛錬に勤しんでいたらしい」
本当の実力者。
参加者の力を試すにはちょうどいい相手だ。




