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第3話 武闘大会概要

 デュームル聖国の聖都ウィルニアにある冒険者ギルドに勤務するアルバンさんから齎された情報。


 ――帝国の帝城にある宝物庫の中には数えきれないほどの宝物があるらしい。


 所詮は都市伝説レベルの噂だったが、行く宛などない俺たちはアルバンさんの情報を元にフェクダレム帝国へと向かう事にした。


 帝国へ入って最初に立ち寄った街で聞いたのが武闘大会の噂。

 優勝者には皇帝陛下から宝物庫にある品を一つだけ下賜されるとのこと。


 宝物庫に用事のある俺たちにとってこれ以上の話はない。


「まず、武闘大会ではどのような事をするんですか?」


 情報屋を自称するフィンレイに訊ねる。

 ウェイトレスの運んで来た酒を飲みながらフィンレイが答える。


「武闘大会は5年に1回開催される事になっているんだけど、帝国だけじゃなくて他の国からも腕自慢の連中が集まって覇を競うんだ。参加資格はなくて、騎士や兵士に限らず、冒険者や傭兵なんかも身分を問われることなく参加している」

「覇を競う、って言いましたけど具体的な方法は?」

「武闘大会は毎回何百人と参加する。予選と本選に分かれて開催されるんだけど、予選は数十人ぐらいに分けて行われるバトルロワイヤル。本選の方は1対1で行われるトーナメント形式だね」


 漫画でもあった方式だな。

 イメージとしては初期の頃の天下〇武道会と同じ形式か。


「賞品の方はどうなっていますか?」

「上位に入賞した人には賞金が出るようになっているよ」


 ポスターにはそこまで詳しい事は描かれていなかった。

 帝都に来るまでも色々と情報を集めてみたが、今年は特別に開催されるから帝国に住んでいる人はみんな楽しみにしているとしか分からなかった。


「参加者の多くは賞金よりも戦う事そのものに興味があるんだけどね」

「……どういう事ですか?」


 レイがおっかなびっくりに訊ねる。

 一応、全員で参加するつもりだったので参加者が全員戦闘狂の類ではないかと想像して委縮してしまっている。


「武闘大会は、国のお偉い連中――それこそ大会の最後には皇帝陛下から表彰されるから皇帝陛下も見ている。他にも帝国以外の貴族や大臣なんかも観戦している。冒険者みたいなその日暮らしの生活をしている連中にとっては自分の力をアピールする場でもあるんだよ」


 優秀な成績を納めれば国にスカウトしてもらえるかもしれない。

 そういう意味で腕に覚えのある連中は真剣に参加している。


 だが、俺たちにとっては士官(仕官)なんて興味がないし、金にも困っていないので賞金もそれほど必要ではない。


 大切なのは優勝者への報償だ。


「優勝者には宝物庫にある宝物を一つだけ選んで貰う事ができると聞きました。これは本当の事ですか?」


 これが全くのデタラメだった場合には武闘大会に参加するメリットがなくなる。

 そもそも名が知られたくない俺たちにとっては本選を勝ち進むだけで名前が知られてしまう武闘大会への参加はデメリットでしかない。


「本当だよ。2年前に開催された時も優勝者が城の宝物庫にあった聖剣を下賜されていたよ。これは武闘大会の会場で多くの見物客がいる前で行われたから武闘大会を見ていた人なら誰もが知っているね」


 きちんと宝物を下賜する事によって武闘大会をアピールする場として活用されているのだろう。

 それだけ多くの目撃者がいるなら優勝すれば宝物庫の品を貰えるのは間違いない。


 ただ、聞き逃せない事を言っていた。


「武闘大会は5年に1回の開催ですよね。2年前にも開催されているんですか?」

「ああ、そうだよ。普通なら3年後まで開催されないはずだったんだけど、魔王復活に合わせて国が今年も開催する事にしたんだ。国の方でも魔王軍から守る為に優秀な人を必要としているからね。武闘大会の開催はまさに打って付けだったという訳だよ」


 武闘大会の話を聞いた時、都合よく開催時期に来ることができて良かったと喜んでいたけど、この時期に開催されているのは必然だったのか。

 国に自分の力をアピールしたい人にとっては申し訳ないが、優勝して宝物を貰う事にしよう。


「すいません、おかわりをお願いします」

「凄いね。もう2人分は食べているよ」

「ごめんなさい。ウチのリーダー燃費が悪いんです」


 俺の食事量に呆れているフィンレイにハルナが謝っている。

 食事の遅いレイは未だに1人前の食事をしているにも関わらず、俺は2人分の食事を食べ尽くしてしまった。


「別にいいだろ。帝都に来て最初の食事なんだから」


 少し早い夕食になってしまったが、帝都へ着く事を優先して昼食を抜いてしまったので空腹だった。

 そもそも誰かの奢りというわけでもないのだから迷惑を掛けているわけではない。


 水を飲んでまったりしていると3つ目のトレイが運ばれてくる。


「いただきます」


 3食目は、何の肉を使っているのか分からないが煮込んだビーフシチューのような物が運ばれて来た。


「しかし……文明レベルが中世並にも関わらず、この世界の食事は美味しい」

「それは勇者様の恩恵だね。大昔にいた異世界の勇者様が色々と知識を恵んで日々の食事を豊かにしたらしいよ。困っている人を見捨てられなかった勇者様には感謝しかないね」


 おそらく異世界に料理を広めた勇者は単純に自分が美味しくない食事をしなければならない事に我慢ができなかっただけだ。

 俺だって人以上に食事が必要な体質になってしまったのにマズい食事しかできないとなれば泣いてしまう。


「ま、当面の目標は決まったな」


 武闘大会で優勝して宝物庫にある宝物を得る。


 残念ながらデュームル聖国の時のような窃盗紛いの方法は使えない。

 俺の【収納魔法】では、収納したい対象のある場所と物を強くイメージする事ができなければ遠隔から収納する事ができない。


 今回、宝物庫の場所が分からなければ何を盗み……貰いたいのかも分かっていない。

 そのため堂々と宝物庫を出入りする理由が欲しい。


「君たち、優勝する気でいるみたいだけど、本気かい?」

「どういう意味ですか?」


 今のオールステータス2万を超えた状態なら大抵の相手には負けない自信がある。

 そもそも200年前には最強の魔族と言われていたパラードを倒した今となっては腕自慢程度ならサクッと倒せる自信がある。


「武闘大会にはけっこうな実力者が出て来る。けど、君たちには全く恐れた様子がない。いや、君たちのリーダーが勝つことを信じているって感じかな?」

「何が言いたいんですか?」

「ただの確認だよ。誰も自分には勝てないっていう自信が君には現れている。さすがは『異世界の勇者』だね」


 食事を進めていた手が止まる。


「どうして、そう思ったのか理由を聞いてもいいですか?」

「簡単だよ。さっき『この世界の食事は美味しい』なんて言っていたからだよ。どうして『この世界』なんて言葉を使ったんだい? 田舎から出て来たばかりの新人冒険者なら『都会』とか『帝国』とか使うはずだ。間違っても世界そのものに対して言ったりするはずがないよ」


 食事に夢中になるあまり、注意が疎かになっていた俺の不注意だな。

 正面に座ったハルナとレイはあたふたしているし、隣に座っているショウは俺を睨みつけている。


「その通り。俺たちは『異世界の勇者』です。それで、どうしますか?」

「どうもしないよ。君たちは本気で優勝する自信があるんだよね」

「あります」


 なぜ、そこまで確認してくるのか。

 そこが気になるので肯定して様子を見る事にする。


「別に君たちが不利になるような事をするつもりはないし、脅したりもしない。武闘大会では賭けも行われているんだ。全くの無名な冒険者な君たちなら倍率も高いはずだ。君たちが本当に『異世界の勇者』で実力にも自信があるって言うなら、僕の全財産を懸けるに値する。信じてもいいかな?」


 賭け。

 そんなものまであるとは予想していなかった。


「ちょっといいですか?」


 ショウが手を上げて質問していた。


「賭けは誰でも参加できるんですか?」

「うん。問題ないよ。大会は国が公式に運営しているもので、賭けも資金集めに国が請け負っている。賭け事をしたからといって咎められるようなことはないよ」


 日本人として未成年で賭け事をするのは躊躇われる。

 だが、生憎とここは異世界。年齢制限なんて存在しない。


「やっぱり、君たちに話を持ち掛けて正解だったみたいだね」


 フィンレイは優勝する確率が最も高い者の情報を得た。

 しかも帝国にいる者にはほとんど名が知られていない。

 これほどの大穴は他にいないだろう。


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