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第2話 勇者の噂

 メグレーズ王国の南方に位置する帝国――フェクダレム。

 元々は帝国の中央にある広大な鉱山の利権を巡って争いの絶えない地域だったらしいが、初代皇帝となるフェクダが周囲の有力者を纏め上げ、今から500年前に建国された国。


 中央に鉱山を構えていた事もあってフェクダレムは鉱業が盛んだった。

 特に初代皇帝の頃には武器の開発に力を入れていた。


 それと言うのも初代皇帝は自分が亡くなった後の事を気にしていた。

 これまでの傾向からして自分の寿命が尽きて亡くなった十数年後には魔王が復活することになる。

 その頃には、自分はいない。


 将来に不安を抱いた初代皇帝は、自分の国が生き残れるよう武器の開発に力を注いだ。


 その甲斐あってフェクダレムには武器を持った屈強な男が多かった。


「いらっしゃいませ」


 食事の為に店へ入るとウェイトレスが迎え入れてくれる。

 普通のレストランみたいな外観の店に入ったはずなのだが、中には屈強な男たちが多かったせいで酒場のような雰囲気に思えた。


 新しく店に入って来た人間を確認する為に昼間から酒を飲んでいた男たちの視線を集まる。


 視線を集めてしまったせいで隣を歩いていたハルナとレイが俺とショウの後ろに隠れてしまう。

 ステータス的には負ける事などあり得ないはずなのだが、やはり男からの視線を集めてしまうと緊張してしまうらしい。


「5人なんだけど、いいかな?」

「はい、大丈夫ですよ」


 茶髪をポニーテイルにした笑顔のウェイトレスの案内に従って店まで連れて来てくれた男性に付いて行く。


 俺とショウが隣に座り、正面にハルナとレイの女子が座る。

 男性――情報屋のフィンレイが俺とハルナの隣に座る。


「改めて自己紹介をしておこうか。俺の名前はフィンレイ。フェクダレム帝国の都である帝都タンバーグへ初めて来た連中を相手に小遣い稼ぎをしている情報屋……というよりは観光の案内人に近いな」


 ウェイトレスの持ってきた水が俺たちの前に置かれる。

 フィンレイもコップを手に取って注文する。


「日替わりの定食を人数分。それからお酒をお願い」

「あ、お酒は一人分だけでいいです」


 異世界に来ても飲酒の年齢制限は守るつもりでいる。


「かしこまりました」


 報酬としてここでの食事代のために銀貨を10枚渡す事にしているので、金額を気にせず注文している。


「ごちそうになって悪いね」

「いえ、きちんと情報を貰える事になっているので問題ありませんよ」


 帝都どころか帝国を訪れたのすら初めての俺たちでは土地勘がない。

 最低限の情報を仕入れる為にも情報屋の方から接触して来てくれたのはありがたかった。


「どうして俺たちに接触して来たんですか? 言ってはなんですが、見た目は普通の冒険者ですよ」


 帝都の門で冒険者カードを見せて入場手続きを終えるとフィンレイの方から話し掛けて来た時にはビックリした。


「そうかな? たしかに君たちが持っている装備品は一級品とは言えない。駆け出し冒険者のような装備だ」


 変に注目を集める事がないように普段は一般的な装備をしている。

 帝都を訪れる前にもいくつかの街を訪れたが、特に不審に思われるような事はなかった。


「でもね、僕の勘が君たちは優秀な冒険者だと言っている。その装備品はフェイクで、本当の装備品はアイテムボックスにでも入っているんだろう」


 鋭い。

 俺たちがメグレーズ王国から貰った時はポンッと簡単に貰う事ができたが、アイテムボックスそのものが高価な代物だと後から知った。アイテムボックスを持っているだけで優秀な証拠だと言える。


「そうですよ」

「アイテムボックスを持っているだけでも優秀な証拠だ。君たちに話を持ち掛ければお金になると判断した。現に報酬を提示した時、少し迷う素振りをしただけだったよね。本当に駆け出しの冒険者なら銀貨を10枚も出すような余裕はないよ」


 う……自分が大金を持っているせいで、その辺の感覚が鈍くなっている。

 これからは気を付けた方がいいかもしれない。


「おい、メグレーズ王国の噂聞いたか?」

「ああ、大変らしいな」


 自分の迂闊な行動を恥じて顔を俯かせていると近くの席で会話をしている男たちの話し声が聞こえて来る。


 メグレーズ王国と言えば俺たちを召喚した国で、今も同じ学校に通っていた人たちがいるので気にならないわけではない。


「なんでも魔王軍が攻めて来ているみたいだぞ」

「3日後には接触してしまうらしいが、異世界から召喚された勇者がいるから問題ないらしいぞ」

「ハッ、勇者を抱えている国は気楽でいいね」


 既に召喚されてから2カ月が経過している。

 勇者のレベルもそれなりに上がり、実力のある勇者なら魔物を一蹴できるだけの力を身に着けているらしい。

 召喚したメグレーズ王国を拠点に活動しており、少し前にデュームル聖国の聖都であるウィルニアが襲われるかもしれない、という事態があったため王都に集結していた事もあって勇者全員が魔王軍へ向かうことになった。


 他にも騎士が引率のような感じで何人か付いて行っており、臨時で雇った冒険者も報酬が出ることもあって参戦するらしい。


「気になるかい?」

「いえ、そういうわけでは……」

「国から多額の報酬も出るらしいから他の国では戦場へ向かう冒険者が多くいたらしいね」


 フィンレイは他人事だ。

 フェクダレム帝国にいる冒険者の多くは、魔王軍との戦いになる戦場へは向かわなかったらしい。


「ここから戦場までは馬を飛ばせば4日で辿り着ける。上手くすればギリギリ間に合うか、戦いの途中で参戦できるかもしれないから報酬を貰う事はできるかもしれないね」


 馬で4日。

 車がある俺たちなら3日以内には辿り着ける。


「……わたしとしては騎士や兵士が戦場に行かないのが気になるんですけど」


 レイの疑問はもっともだ。


 異世界の勇者や冒険者にばかり戦わせてメグレーズ王国の正規の戦力である人たちは何もしないのはなぜなのか?


「その辺には国としての思惑が関わって来るのさ」


 勇者は魔王と戦う為の戦力。

 その戦力を召喚した国だからと言って他国を侵略する為に、侵略された側だからと言って自国を守る為に利用するような事があってはならない。


 だからメグレーズ王国は、魔王軍との戦いで自国の戦力が弱ったところを侵略される事がないように騎士や兵士を温存する必要がある。

 そのため無謀とも思える戦力差の戦いに勇者を投入する事になった。


「なんですか、それ」


 説明を聞いたレイが呆れている。


 もしかすれば自分もそんな立場に立たされていたかもしれないのだから今の状況に安堵していた。


 当事者の俺たちからすれば国を守る騎士が仕事をしていないように思える。

 しかし、勇者に守られる事が当たり前だと思っている世界に住んでいる人々にとって勇者が魔王軍と戦う事に疑問はないらしい。


「君たちも急げば参加できるかもしれないよ」

「いえ、結構です」


 キッパリと断る。


「どうしてだい?」

「このタイミングで帝国を訪れたのは完全な偶然なんですけど、観光案内をしているフィンレイさんには不要な説明ではないですか?」

「やっぱり君たちの興味は武闘大会の方にあったんだね」


 フィンレイがニコニコとしている。


「それで、君たちは参加者かな? それとも観戦者?」

「目的は優勝です」

「なるほど。追加料金さえ貰えれば現段階で分かっている出場者の情報も含めて詳しい情報を教えようじゃないか。あ、さっきの報酬だけでも大会の簡単な情報ぐらいなら渡してあげるよ」


 レストランの壁へ視線を向けるのでそちらを見てみる。

 壁にはポスターが貼られている。


『帝国武闘大会』


 開催は5日後。

 明後日と明々後日のみ受付をしており、参加者は本人が受付を申請し、必ず帝都にいなければならないらしい。


 俺たちなら魔王軍と戦う勇者の戦場へは間に合う。

 しかし、救援へ駆け付けていては武闘大会へ参加する事ができない。


「俺たちの目的を叶える為にも武闘大会に参加する必要があるので、報酬を欲しさに戦場へ行っている暇はないですね」


というわけで第5章は武闘大会編になります。

え、窮地の勇者と宰相の思惑?

武闘大会に参加するので完全スルーです。

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