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第30話 魔王軍四天王

エピローグ、プロローグは一気に更新します。

 暗い蝋燭で灯されただけの部屋に一人の男が入って来る。

 部屋の中心には円卓が置かれ、4つの席が用意されていた。


「ようやく来たか」

「オレが最後か?」


 男が部屋の中にいる人物を見渡す。


「ロットの奴はどうした?」

「奴が会議に参加すると思うのか?」

「ああ、あのボッチが参加するはずがないよな」


 そう言って男――アクセルが自分の席に座る。

 正面には私――コンラッド。

 左には髭面の大男――ビルツがいる。


「で、ワシらをいきなり呼びつけた理由はなんだ?」

「パラードの件だ」

「ああ、奴か」


 この場にいる全員が困っていた問題パラード。

 メグレーズ王国の工作員の手によって封印を解かれた前回の魔王に仕えていた四天王の一人だったパラード。

 彼は、突如として私たちの前に現れるなり自分も迎え入れるように言って来た。


 しかし、今さら前回の魔族が現れても困る。

 戦力的には人手は少しでも欲しいところだったが、強すぎる力は組織内での不和を生む可能性が高かった。


 向こうも以前は魔族や魔物を率いる立場にあっただけに私たちの胸中を分かっていた。

 それ故に突き付けて来たのが軍勢を率いてグランノース砦を落とすというもの。


 あの砦の存在には私たちも困っていたので、本当に落としてくれるなら助かる話だった。封印を解いてくれた工作員とも繋がっていたらしく、グランノース砦の情報も手に入れていた。残念ながら自分だけで使うつもりだったらしく、私たちには一切の情報が開示されていない。


 その功績を持って他の者たちにも自分の存在を認めさせるつもりでいた。


 しかし、伝承にあった通りに個人の能力が突出しており、集団行動には向かない人物だった。

 砦を攻める為の軍勢を準備している最中に舞い込んで来た『ちょっと偵察へ行ってきます』という書置きだけが残されていたという報告。


 勝手な行動に頭を悩ませながらも準備を進めているといつの間にか帰って来ていた。


 本人曰く、面白い人物を見つけたから準備を整える、との事。


 こちらの準備を手伝ってくれるのかと思えば部屋に籠ってしまった。


 そうして半日ぶりに現した姿には以前とは比べようもないほどの力に満ち溢れていた。

 その姿を見た誰もが『最強の魔族』という称号に納得していた。


「で、グランノース砦の一件を聞かせてくれるんだろ。だが、張本人の奴がいないのはどうしてだ?」

「奴が戻って来る事はない」

「はぁ?」


 アクセルは未だに分かっていないようだ。

 奴もパラードの【再生】については知っているから不死である人物が負けるとは微塵も思っていない。

 私だって何かの間違いだと信じたい。


「これを見ろ」


 私の前には大きな一つ目を持つ蝙蝠の魔物――映像蝙蝠(ピクチャーバット)が鎮座している。

 こいつには戦闘能力が全くない代わりに見た光景を映し出す事ができるスキルを持っており、パラードの行動を監視するよう言い付けてあった。


 何らかの裏切りをしない為の布石だった。

 それが、このような形で役立つとは思わなかった。


 円卓の中央でパラードの戦う姿が再生される。


 パラードと戦っているのは男2人、女2人の冒険者のようなパーティ。

 冒険者パーティはあの手この手でパラードを攻撃し翻弄していくが、圧倒的な力を持つパラードには及ばなかった。


 だが、圧倒しているはずのパラードに追い付いていける者がいた。

 それだけでも驚愕なのに首を斬り落とされた後でその人物が触れた途端、パラードの姿が消えてしまった。


 文字通りに消えた。


「……は?」


 アクセルも訳が分からずに呆けていた。


「これが奴の戻って来ない理由だ」


 戻って来ない、のではなく戻って来られない。


「不死身の奴を倒すには封印するしかない。最後消えたように見えたが、封印されてしまったのか」

「分からない」


 あの消えたようにしか見えない現象については全く分かっていない。

 映像蝙蝠(ピクチャーバット)は映像を再生するだけで、音声までは記録されていない。

 戦闘中も何か会話しているような様子があった。せめて会話の内容が分かれば、もう少し予想することができたのかもしれないが、映像だけでは情報が不足している。


「グランノース砦での作戦は失敗に終わった」

「失敗? 冗談はよすんじゃな」


 ビルツが私の言葉を笑っている。


「あれだけの戦力しか与えていないのに本気でグランノース砦を落とせると思っていたのか?」


 人類最後の壁。

 ビルツが言うように私は落とせると思っていなかった。


「心外ですね。彼なら1人でも落とせると確信していた。だから、万が一の場合に備えて数を減らしていただけです」

「お前さんの魂胆は分かっている。あの砦にいる者は強者ばかりじゃ。中には奴の不死をどうにかできるヒントを持った者がいるかもしれない。奴の存在はワシらにとっては鬼門みたいなものじゃったからな。後々にどうにかする方法を探るのは当然の事じゃな」


 ……ビルツが言うように将来脅威となるパラードをどうにかしたかった。

 だが、まさかどうにかできてしまう人物がいるとは思わなかった。


「それに、お前さんは作戦が失敗する事を前提に動いている」

「ええ、そうですよ」


 もう教えてしまった方がいいだろう。


「これから私はメグレーズ王国へ戦争を仕掛けに行きます。目的は勇者の間引きですね」

「間引き?」

「育ち切っていない内に勇者は倒してしまいたい。ですが、召喚されてから2カ月でも強い者が紛れているのが勇者です。こちらも強力な力を持った魔族の準備ができていない状態では全員を倒すのは難しいでしょう」


 倒せたとしても半数といったところだろう。

 魔族を何人も投入して全員で掛かれば勇者を全員殺す事は可能かもしれないが、『魔王』という不安定な存在を抱えた現状では魔族を無闇に減らしてしまうのは得策ではない。


「これから魔物2万を引き連れてメグレーズ王国へと向かいます」


 この数はパラードへ渡した軍勢の倍だ。

 最初からデュームル聖国への強襲は陽動。

 バラバラな行動をしている勇者を一か所に集めさせる為の作戦。今頃は非常時に備えてメグレーズ王国の王都にでも勇者は集結しているはずだ。


 メグレーズ王国が奇襲されているとなれば勇者が必ず招集される。

 魔王の軍勢と戦うのが勇者の役目。

 だから彼らは戦わなければならない。


 勇者という特級戦力を温存する為に国が総力を挙げて戦いを挑んでくる可能性もあるが、それならそれで忌々しいメグレーズ王国軍を殲滅できるので問題ない。

 いや、あの宰相なら間違いなく自国の戦力を温存させて勇者を向かわせるに違いない。


 奴には人の思いやりというものがない。


「じゃ、オレも仕事に戻るぜ」

「ワシもやらなければならない事があるんで失礼する」

「ああ、待ってくれ」


 まだ本題を言っていない。


「パラードと戦った4人を見つけたら戦いを挑むような事はせず監視に留めるように」

「どうしてだ?」

「どうやってパラードを倒したのか分からない。それだけじゃなく、奴と対等に戦えるような奴だ。四天王であるお前でも勝てるか?」


 アクセルに訊ねる。

 奴の戦闘能力は現代の魔王軍の中でも最強と言っていい。

 それでも完全に力を取り戻したパラードには及ばない。


「悪いが、オレはオレのやりたいようにやらせてもらう」

「アクセル!」

「オレたちは自分の願いを叶える為に人間である事まで捨ててしまうような連中だ。今さら自分よりも強いからっていう理由だけで逃げるような事ができるはずがないだろ」


 そうだ。

 私たちは自分勝手な願いを叶える為に魔王に忠誠を誓った。


「オレはオレの好きなように生きさせてもらう。もう、奴隷だった頃のように誰かに縛られながら生きるような真似はしたくないんだよ」

「ワシも同じじゃな。四天王とはいえ、役割が与えられているだけで協調する必要なんかないんじゃ」


 アクセルとビルツの二人が会議室を出て行く。


 身勝手な人たちだ。

 だが、それが魔族という存在だ。


 私たちは人の身では叶えられない望みを抱き、人である事を捨てる代わりに望みを叶える為の力を手に入れた。


「それでも仲間意識がないわけじゃないんですよ」


 私が注意を促したのは単純に仲間を失いたくないからだった。

 これぐらいの望みを抱くぐらいは許されてもいいだろう。


四天王はパラードよりも弱いです。

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