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第7話 決別

 目の前にいるライデンに向かって剣を振るう。

 自分に向かって剣を振られた軽く避けると剣を持っていた俺の右手を片手で持った剣で斬り付ける。


「剣をまともに扱ったことのない雑魚が」


 今までに聞いたことのないような低い声。

 俺が収納魔法というハズレスキルしか持っていないと聞いても親身になってくれた時からは想像もできない。


「もしかして、怒っています?」

「当り前だ。騎士として盗人を許すわけにはいかない」


 今度はライデンの方から襲い掛かって来たので左手から大盾を取り出して剣を防ぐ。


 ガン、という音がして大盾が地面に落ちる。

 筋力の低い俺では大盾を装備してもまともに扱うことなどできない。だから壁代わりに使用させてもらった。


「これは……」


 ライデンが自分で叩き落して少しだけだが傷を付けてしまった大盾を見て驚いている。


「王の盾じゃないか!?」

「そうなんですね」


 地面に落ちた大盾を見たまま呆然としていて隙だらけだったため王剣で斬り付ける。

 しかし、さすがは王国の騎士と言うべきか咄嗟に体を逸らしたせいで浅くしか斬り付けることができなかった。


「王剣とセットで宝物庫に置かれていたので王剣とセットにした方がいいかと思ってもらってきました」


 埃を被った宝物庫の中で一際存在感を放っていたのが王剣と王盾だ。

 もちろん宝物庫に侵入した時は、そんな代物だとは知らなかった。ただ、高価そうだったからもらってきただけだ。


「私に王盾を傷付けさせたな」


 騎士にとって最も守るべき存在は、王だ。

 その王だけが装備することを許された剣を敵にし、盾すらも自分の手で傷付けてしまった。

 守るべき存在が敵に回ってしまった状況だ。


「宝物庫から盗んだだけではなく、騎士に王と戦わせるか。このような罪まで犯すとは許せん!」

「何を正義面すらしているんだか」


 城にいる時もライデンは親身になってくれたし、王城で働く人々は良くしてくれた。

 俺と同じように召喚された連中は、その好待遇に気を良くしていたようだが、俺からすれば「だから?」と言った感じだ。


「あんたらは、どれだけ言葉を並べたところで異世界から子供を誘拐してきて自分たちの代わりに戦わせようとしている誘拐犯だ。しかも最初から帰す気がないときている」

「何を、言っている……」


 ライデンが俺の言葉の意味が分からず呆然としている。

 彼らは、俺たちを召喚していながら帰す方法が分からないと言った。魔王を倒せば帰れる可能性があるらしいが、果たしてその推論にどれだけの根拠がある。


「俺はな、ただ純粋に帰りたいだけだ。あの世界には一番大切な物を置いてきた。あんたたちは俺から大切な者を奪っただけじゃなくて、俺の最も大切な存在から俺を奪った大罪人なんだよ」

「だまれぇぇぇ!」


 俺の言葉に思うところがあったのか猛りながら剣を振るう。

 力を込められた剣は、荒々しく俺の握っていた王剣を叩いた。


「……っ!」


 俺の筋力を越える力で叩かれた王剣が俺の手から抜け、飛んで行った王剣が近くにあった岩に突き刺さる。


「貴様には分かるまい。勇者に頼らなければならないほど追い詰められてしまった私たちの想いが!」


 俺に剣を突き付けながら溜まっていた想いをぶちまける。


「私とて魔王が復活したと知らされた日からの3年間は必死に戦い続けた。だが、日毎に強くなる魔物。それらを統率する力を魔王から与えられた人間――魔族に追い詰められて仲間が1人、また1人と倒れて行った。その度に私たちは世界の理不尽に涙を飲んでいた」


 ライデンたち騎士も苦労していたようだ。

 その言葉を聞いて増田が眉を顰めて考え込んでいる。


 しかし……


「それで?」

「それで? だと私たちには勇者には頼るしか……」

「それで『誘拐』? この世界の事情なんて別の世界にいた俺たちには関係のない話だろ」


 ライデンの手から力が抜ける。


 チャンス。

 武器も防具も手からは失われてしまったのでライデンの顔面目掛けて拳を振るう。


「この程度……!」


 元の世界では喧嘩すらしたことのない俺のパンチでは相手に当てることすらできず、顔の横を通り過ぎてしまう。

 そのままライデンが逆に俺の顔面を殴る。


「勇者召喚は古来より行われて来……がっ!」


 顔が痛い。


 殴りながら何かを言おうとしていた突然首の後ろに走った痛みに悶える。

 首の後ろに手を当ててみると手に大量の血がベットリと付着していた。


「あんたも城にいた連中も自分たちが勇者に助けられるのは当然のことだと思っていた。俺からすれば反吐が出るような話だ。どうして無関係な俺たちがこの世界を救わないといけない」

「その短剣は……」


 俺の右手には刃に血が付着した短剣が握られていた。

 この血が誰の物であるかなど状況を少し考えれば分かる。


「収納魔法を使える俺が何も持っていないからと言って安心したらダメでしょう」


 拳を握って攻撃したが、ライデンの横を通り過ぎて死角に右手が移動したところで収納魔法を発動させて短剣を握る。

 そうとは知らないライデンが殴って後ろへ吹き飛ばした。

 俺は慣性に従って後ろへ引かれた。同時にライデンの後ろに出現した短剣も一緒にライデンの方へ向かって行ったので簡単に首を斬り付けることができた。


「あ、ああ……」


 首から大量の血を流すライデンが地面に倒れる。


「あんたらが俺を切り捨てるような真似をしなければ、もう少し穏便な方法で逃げ出してもよかったんだけど、先に強硬手段に出てきたのはそっちだ。あんたは命令されただけかもしれないけど、最終的に従ったのはあんた自身なんだから、この結果があんたの選択した答えだ」

「騎士、である私が盗人なんかに……!」


 王剣と王盾。

 王国においてこれほど貴重な物はないだろう。


 だが、俺がもらってきたのはこれだけではない。


「分かりやすく見せてやるよ」


 手を地面に向けて収納魔法を発動させるとジャラジャラと音を立てて大量の金貨が落ちてくる。

 教養授業の時に教えられたが、この世界の通貨単位には金貨や銀貨といった硬貨が使われている。それから色々な物の値段を参考にした結果、金貨には約10万円の価値があることが分かった。


 そんな金貨が何万枚とある。


「日本円で考えれば数十億ってところか?」

「それは、いざという時の為に、蓄えられていた……」


 おそらく災害などがあった時に備えて用意しておいたものだろう。

 だけど、魔王復活により勇者召喚までした状況になっても手が付けられていない金だ。まだまだ非常時の金に手を付けるほど追い詰められていないという証拠だ。


「俺は、これから元の世界に帰る為の方法を独自に探させてもらう。そうなるとどうしても活動資金が必要になるんですよ」

「それは、国民の……!」

「きちんと元の世界に帰す方法ぐらい用意してなかったあなたたちの落ち度です」

「あぅ……」


 既にライデンは息も絶え絶えになっていた。


「こんなことをすれば国が黙って……」

「もちろんこの後で俺たち全員が死んだように偽装します。そうですね、俺たちは魔王復活の影響で突然現れた凶悪な魔物に全員食べられて遺体すら残さなかった。後には5人分と思しき大量の血の跡だけ」

「私をどうするつもりだ?」

「実は、図書室にあった本で収納魔法についても調べたんですけど生物を収納することはできないけど、死体になると生物と見做されないのか生物でも収納できるみたいなんです。あなたの死体は俺がしっかりと持ち去らせてもらいます。あ、鎧や武器の装備品も換金して活動資金にさせてもらいますよ」

「きさま……!」


 騎士としてそんな最期を許せないのか死力を振り絞って起き上がる。

 しかし、最期の力すら使い果たして血の海の上に倒れる。


「怒っているのは俺の方だ。勝手に誘拐しておきながら大した力を持っていないから切り捨てる? 切り捨てさせてもらったのは俺の方だ」


 倒れた時には大量の血を流して死んでいた。


 増田たち3人の方を見ると初めて見る死体に戸惑っていた。いくら自分たちを殺そうと襲い掛かって来た相手でも死体を見れば、あのようになるのが普通だ。

 彼らの今後もあるし、巻き込んでしまった以上はどうにかしなくてはならない。


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― 新着の感想 ―
相手の意図を見越して、返り討ち!良いですね。
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