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第24話 挟撃

 戦場が近付いて来るにつれて激しい音が聞こえるようになる。

 砦からは弓や魔法が次々と迫りくる軍勢へ撃ち込まれており、遠距離攻撃手段を持たない者は投石器による攻撃の手伝いをしていた。


 しかし、魔物側もただ攻撃されているわけではなく後方に控えた弓矢を扱えるゴブリンアーチャーや魔法を使えるオークメイジが遠距離から砦へ向けて攻撃を繰り返していた。魔物の軍勢の前方には盾を装備した屈強なオーガといった魔物が砦の攻撃から守っていた。


 つまり、パラードと戦う為に離れており、後方から迫っている俺たちにとっては守られているゴブリンアーチャーやオークメイジは狙いたい放題。


「作戦は?」

「特になし。好きなように戦って下さい」

「シンプルでいいじゃねぇか」


 走りながら尋ねて来たサンジェスさんに伝える。

 こんな混戦状態では下手な連携しか取れない即席のパーティで協力しても成果はたかが知れている。なら、好きなように戦わせた方がいい。


 俺の言葉を受けたサンジェスさんが突っ込んでいく。

 ゴブリンアーチャーが近付く俺たちに気付いたが、その頃にはサンジェスさんが軍勢の中央へ突っ込んだ後だった。


「うりゃあぁぁぁ!」


 魔物が派手に空を飛んで行く。

 体が小さなゴブリン種の魔物は殴られた衝撃で吹き飛び、体格の大きいオークやオーガといった魔物は近くにいる小型の魔物を巻き込みながら倒れて行く。

 サンジェスさんの活躍が目立っているが、パーティメンバーの二人も必死に付いて行ってサポートをしている。


「僕たちはどうする?」

「……好きに動く事にしよう。こんな乱戦状態じゃあパーティ内でも連携をするのが難しい」

「たしかに」


 ショウが左側へ向かって走って行く。

 腕輪に姿を変えているシルバーが嬉しそうに体をプルプルと震わせている。


「じゃあ、あたしはあっち側ね」


 ハルナがショウの向かった方向とは反対側へ向かう。


「大丈夫でしょうか?」

「危険なようなら俺たちの方でサポートをしよう」


 その為にもすぐに向かえる場所で待機している必要がある。


「さ、好きに暴れていいよ」


 ショウの腕からシルバーが離れる。

 スライム姿で軍勢の中心に姿を現したスライム。


「スライム?」

「見た事のない色のスライムだが、所詮はスライムだ」


 騎士のような甲冑に身を包んだオークとマントを来たオーガが呟いていた。


「……魔物の中には人語を理解できる者もいるって聞いていたけど、本当に遭遇するなんて」


 オークとオーガの言葉はしっかりと認識できていた。


「魔物とはいえ、賢い者ならば言葉を話す事もできる。魔物同士なら意思を伝える分には問題ないが、言葉として伝えた方が齟齬もない。俺も将軍――オーガジェネラルの言葉を間違えることなく聞く事ができる」

「ご高説ありがとう」


 ショウが収納から槍を取り出して投げる。


「こんな物……」


 騎士甲冑を来たオークに掴まれる。


「掴めるんだ」

「オレはオークナイト。騎士の実力をそこいらにいるオークと一緒にしないでもらおう」


 奪い取った槍を構えるオークナイト。


 魔物に配備された槍はそれほどの性能ではない。

 自分へ向けて投げられた槍が自分の持っていた槍よりも高性能だと判断したが故に槍を奪う事を決めていた。


 槍を構える姿は、まさに騎士と呼べる立派なものだった。


「それは悪手だ」

「……なに?」


 ショウの言葉にオークナイトが眉を顰めて訝しんだ表情をする。

 魔物なのに随分と表情豊かだ。言葉を話せるほど賢くなっているということは、表情を豊かにできるほど感情的になっているということみたいだ。


「ぐわあぁぁぁ!」


 魔物の生態について考えている間にオークナイトが雄叫びを上げていた。


 理由は、奪い取った槍にあった。

 槍には予めショウの魔力が浸透されており、ショウの意思一つでスキルを使う事ができるようになっていた。


 つまり、意思一つで形を変える事ができる。

 両手でしっかりと握られていた槍は、形状を変えて全体から棘を生やしていた。


「もらい」


 手の痛みから蹲ってしまったオークナイトの頭部に槍の先端を包丁のような刃物に変化させた物を突き刺していた。

 パックリと割れる頭部。


「オークナイト!」


 オーガジェネラルが叫んでいるが、オークナイトが反応する事はない。


「貴様ら……! 何をしている! 数はこちらの方が上なのだから取り囲んで攻撃しろ!」


 ゴブリンアーチャーの護衛の為に控えていたゴブリンたちがショウを取り囲む。

 しかし、その前に立ちはだかるのはメタルスライムのシルバー。


「先ほどのスライムか。見た事のない色のスライムだが潰せ」


 ゴブリンの向こうから赤い肌をした鬼のような魔物のオーガが飛び出してくる。

 スライムとの対格差があり過ぎる。大人と子供では済まされない。


 オーガがシルバーを踏み潰す為に足を踏み出す。

 普通のスライムなら重量に負けてペシャンコにされていただろう。しかし、オーガが相手にしているのは最強を目指すスライム。


 シルバーが跳び上がってオーガの体を斬り裂いて行く。体の一部を刃に変形させればオーガの屈強な体も斬り裂ける。


 為す術もなく地面に倒れたオーガは血に塗れていた。その上でシルバーは嬉しそうに体を揺らしていた。

 オーガを倒せた事がよほど嬉しいらしい。


 そこへゴブリンやコボルトが20体一斉に飛び掛かる。

 魔物から見ればオーガという強敵を倒したばかりで余裕を見せているように見えたらしい。


 しかし、飛び掛かった魔物の1体も近付く事ができていない。

 体中から何本も生やしたシルバーの棘によって串刺しにされていた。


「ば、バカな……」


 呆気なく倒された魔物の姿にオーガジェネラルが驚いている。


「将軍なら驚いているよりも部隊を準備させておいた方がよかったね」

「な!?」


 シルバーの活躍に驚いている間にショウが隙を突いてオーガジェネラルに近付いていた。

 そのまま強度を増した剣を頭に突き刺している。


 将軍が絶命した事で兵士たちに動揺が広がる。


「さ、このまま倒していこうか」


 倒した魔物から棘を引き抜いて近付いて来たシルバーに言う。

 シルバーも大量にいる魔物に怯えることなくショウと一緒に向かって行く。


「あっちは大丈夫そうだな」


 ハルナの方を確認する。

 それよりも先にレイが声を上げた。


「あ、レベルが上がりました」

「なんで!?」


 レイは俺の隣にずっといる。

 戦闘をしていないレイのレベルが上がる理由が分からない。


「実は、ハルナさんにはわたしの作った毒薬を渡してあるんです。たぶん、毒を塗った短剣で無双しているから……」

「レイが戦った事にもなってレベルが上昇した」


 自分以外が使ったとしてもレイの毒で倒せばレイの経験値になるなら色々とできる事がある。


 レイから毒薬の入ったボールを受け取る。

 防犯に使われるコンビニなどに置いてあるカラーボールを模した容れ物だ。


 それを味方のいない魔物の中心に投げる。


 地面に落ちた事で弾けて広がって行く毒。

 毒を受けた魔物が次々と倒れて行く。


「凄い威力だな」

「先ほど渡した毒は即効性の強い毒です。ただし、空気に触れていると効果が薄まっていくので軍隊に使うには向かないんです」

「それでも効果はあるみたいだぞ」


 軍隊の中心にポッカリと空いた穴。

 そこを狙うようにして砦から攻撃が続けられる。


「あ、またレベルが上がりました」


 毒によって100体以上の魔物が倒れた事でレイのレベルが3上がった。


「これで30体目!」


 自分のステータスを【強化魔法】で上げて戦っているハルナ。

 レイに比べれば小さな戦果だが、魔王軍の数を削っている事には変わりない。


「奴から狙え!」


 オークナイトともオーガジェネラルの声とも違う声が響き渡り、俺の方へとゴブリンアーチャーやオークメイジの攻撃が俺へと向けられる。

 後方で待機しているばかりで動かない俺を戦力外と判断したか。


 戦力的に脅威となるショウとハルナを動揺させる為に俺から狙ったみたいだ。


 一斉に放たれた矢と魔法が押し寄せる。


「大丈夫だから近くにいろ」


 逃げ出そうとしていたレイの体を左手で掴んで傍にいるよう言う。

 同時に右手を攻撃へ向け魔法陣を出現する。

 魔法陣に触れた瞬間、矢や魔法が一瞬にして消える。


「馬鹿な!」


 突如として消えた攻撃に指揮官らしきローブを纏ったゾンビが声を上げている。


「あれがリッチーかな?」


 死してアンデッドとなった魔法使い。

 生前よりも魔力が強くなっているので注意が必要だと聞かされた。


「ま、関係ないけどな」


 攻撃をしてきた相手に向かって駆け出す。


「何かの間違いだ! 総員、再度攻撃」


 再び放たれる矢や魔法。

 通用しなかった攻撃を再びしても意味がない。


「収納」


 魔法陣にさえ触れれば全ての遠距離攻撃を収納できる。

 収納から取り出した剣でゴブリンたちを次々と斬って行く。


 ――バシン!


 正面から放たれた電撃の弾丸が肩に当たったことで足を止められる。

 収納魔法の魔法陣はしっかりと正面に展開されている。


「ハハッ、どんな方法で防いでいるのか分からないが、私の魔法は防ぐ事ができないみたいだな」


 魔法を放ったのはリッチーみたいだ。


 ――収納する事ができなかった?


 収納魔法が不発に終わったわけではない。今も矢や魔法を収納している。

 リッチーが特別なのか使われた魔法が特別なのか分からないが、何らかの要因によって収納する事ができなかったのは間違いない。


「この程度なら問題な、い……?」


 肩に当たった魔法によって火傷を負っていた。

 しかし、再び見てみると傷が塞がっていた。


「これも考えるのは後だな」


 塞がった傷を気にする事を後にして次々と斬って行く。


「化け物が!」

「お前みたいな魔物には言われたくない」


 リッチーの首を刎ねる。

 動揺している間に魔法使いの間合いの内側に入っていた。


「さて、せっかくの経験値の宝庫なんだからしっかりと稼がせてもらおうか」


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