第23話 消えた再生魔族
「おっと……」
頭がクラッとして倒れそうになる。
収納によるステータスの大幅変動が原因だ。
今回、パラードを収納した事でステータスが10000も上昇していた。その状態からハルナのステータス増幅による倍増。そして、ステータス増幅の効果が切れて事でステータスが半分に減少してしまった。
ステータス変動にはそれなりに慣れたつもりだったが、今回の場合は上昇と減少の幅が大きすぎるうえに一瞬の間に起こってしまった事で体に大きな負担が掛かってしまったらしい。
「勝ったな」
「ああ」
駆け寄って来たショウとハイタッチする。
「なんだか辛そうだけど、大丈夫?」
「ちょっと疲れているだけだから問題ないよ」
「少しでも辛ければ言って下さい。すぐに最適なポーションを用意します」
「ありがとう」
ハルナとレイも俺の心配をして近付いて来る。
その向こう側、焦った様子のサンジェスさんがいた。
「待て待て! 一体何があったんだ!?」
「どうしたんですか?」
何を慌てているのか分からない。
せっかく戦いが終わったのだから少しはゆっくりさせて欲しい。
「奴――パラードはどこに行ったんだ!?」
「ああ、その事ですか」
パーティメンバーには言っていたが、サンジェスさんにはパラードの再生への対処方法を全く説明していなかった。
「これを見て下さい」
「これ?……って、パラードの生首じゃないか!」
収納から取り出した物を見て驚いている。
サンジェスさんが言ったように俺が取り出したのはパラードの頭部。
「さっき斬り落とした首はそこに落ちたままだな。ということは……」
「はい。昨日の戦いで落とした方の首です」
首を斬り落とした直後、失った頭部の再生を終えて攻撃されたせいで離れざるを得なかったが手を伸ばせば届く場所に首が転がっていた。自分のステータスを上昇させる為に手の先から魔法陣を飛ばし、こっそりと頭部を回収させてもらった。おかげで上昇したステータスによって攻撃を受けても耐える事ができていた。
そうして、戦闘終了から時間が経って改めて収納した頭部を確認してみると気付いた事があった。
「切断面が再生している」
首を斬られたのだから斬られた部分からは血が流れ、赤い肉が見えていなければならないはずだった。
しかし、首の外側は周囲から肉が盛り上がって来たかのように真新しい肉と皮に覆われていた。逆に中心の方は再生が終わっていないのか光に覆われて再生が継続中だった。
そう、胴体の方だけでなく切断された首の方にも再生の力が宿っていたおかげで切断面の再生が行われていた。
これは死体――物体だ。
既に死体の収納が可能な事は確認している。
パラードの再生は、死体となっても『自動』で【再生】してくれる非常に強力な特性だ。
しかし、完全に生き返るまでは死体。
昨日の戦いで首を斬り落とした時も切断された首から肉が盛り上がって再生される光景に驚いてしまっていたが、動き出すまでの間に3秒の時間が存在した。
たった3秒。
言葉にすると短いように思えるが、触れて【収納】するには十分な時間だ。
「というわけで、パラードの体は死体のまま俺の収納内にあります」
「そんな方法があったのか」
収納魔法での攻略方法を説明するとサンジェスさんが感心していた。
「けど、これは俺でないとできない方法なんですよね」
再生が終わるまでの3秒の間に収納しなければならない。
自分以外の誰かに戦わせて離れた場所で倒されるのを待ってから近付いて収納しようとしていては絶対に間に合わない。
最強クラスの魔族を相手に近接戦闘をしながらタイミングを合わせる必要がある。
そういう意味で俺の特別な収納魔法は最適だった。
「それで、奴はどうなったんだ」
「収納内にあるので間違って俺が出してしまわない限り、死体のまま永遠に収納されている事になります」
ある意味、封印に近い形になったのかもしれない。
「お前が死んだ時にはどうなる? 収納されているパラードが解放される事になるのか?」
「いいえ、そういう事にはなりません。俺の収納にはちょっと人前には出せない貴重な代物も含まれるので、俺が持っている事を知られるぐらいなら永遠に葬り去る事を選びます。元の世界に帰るまで死ぬつもりなんて全くありませんけど、万が一の場合に俺が死んでしまったら収納してある物は全て亜空間ごと消滅するように設定してあります」
これで、ある意味封印されている事になっているパラードの解放を考えて俺の命が奪われるような事になってもパラードが解放されるという事態にはならない。
それに収納魔法を使っているとはいえ、魔族の死体を持ち続けるなど考えることすらない。
通常の収納魔法では死体を持ち続ける事のメリットがない。
せいぜい埋葬するまでの運搬手段だ。
「この後、砦に戻ったらパラードを倒した事を報告すると思うんですけど、倒し方についてはそれとなく伝えるだけにして下さい」
「……こんな方法を言ったところで信じてくれる奴の方が少ないだろうな」
不死なのでずっと持ち続けています。
ちょっと意味が分からない。
収納から取り出した瞬間に再生が始まってしまうのでパラードの体を取り出すわけにはいかない。
「こっちも回収しておくか」
今日の戦闘で斬り飛ばした頭部も回収する。
少しステータスが回復してくれたおかげで体のダルさが少し消えてくれた。
「今回、完全にお前たち子供に助けられる形になったな」
「それを言うなら僕たちだっていつも助けられていますよ」
サンジェスさんの言葉にショウが苦笑していた。
俺としては巻き込んだ手前、見捨てないようにしているだけなのだが、仲間であるショウとしては活躍できなかった事が悔しいらしい。
けれども、活躍できなかったなんてことはない。
「さっきの戦闘だって、お前が時間を稼いでくれなければ勝つことはできなかったぞ」
「そう?」
「それにハルナがステータスを上げてくれなければ腕を斬り飛ばされる事を警戒していたせいでステータスが足りなくて止めを差す事ができなかったし、レイだって色々と協力してくれただろ」
「まあ、ね」
「……あれぐらいは当然です」
ハルナとレイが笑っている。
彼女たちとしては、それほどの助けにはなれなかったと思っているのかもしれないが、俺としては十分助けられている。
だからこそパラードとの戦闘における戦果を独り占めしてしまう状況が悔しい。
「悪いけど、パラードの死体は収納から絶対に出すわけにはいかない。だから、奴のステータスアップは全て俺が貰う事になるけど、構わないか?」
「ま、それは仕方ないでしょ」
胴体を収納した事で俺のステータスが12000上昇した。
魔族最強と謳われたパラードのステータスを越えてしまっている。
これを何割かだけだったとしても渡す事ができたなら力になってくれたのは違いない。
幸い、腕や頭部にはこれ以上再生するような様子はないから渡しても問題なさそうだ。
『うおおおぉぉぉぉぉ!』
その時、砦のある方角から雄叫びが聞こえて来た。
砦から兵士が出て来たらしく戦いが始まっていた。
「こっちが終わったんなら俺は戦場へ向かう事にする。なに、砦からの攻撃に夢中で魔物どもがこっちに気付く様子はない。奴らにしてみればパラードが負けるなんて露ほどにも思っていなかったんだろ。後ろから叩くだけの安全な仕事だ。これぐらいはさせてもらわないと金が貰えないから戦わせてもらう」
ガン、と両手を合わせて魔物の軍勢へと向かって行くサンジェスさん。
「俺たちの方でも少しは手伝わせてもらうか」
レベルがあって困るような事はない。
魔物の軍勢を相手にすれば少しはレベルが上がるはずだ。




