第22話 VSパラード―後編―
「いったい、なにが……」
急に強くなった事に戸惑っている間に接近し、剣を振るう。
パラードが咄嗟に立ち上がって腕を交差させて盾のようにして防御しながら後ろへ跳び上がっていた。
パラードの腕が切断されて宙を舞う。
たとえ切断されようとも数秒で再生させてしまうパラードにとっては腕なんて使い捨てにしていい道具のような物。
腕を犠牲にしてでも訳の分からない俺から離れるのは正しい。
「これに意味がなければ正しい行動だったんだけどな」
ボトッと二本の腕が地面に落ちる。
「無駄だ。俺はどんなダメージを負おうとも瞬時に再生させてしまう。腕の4本ぐらい好きにくれてやる」
「じゃあ、もらおう」
本人から許可を貰えたところで両腕を収納する。
「は?」
「凄いな1本の腕でステータスが2000も上昇している。ドラゴンとは比べ物にならない上昇の仕方だ」
全身からこれまでとは比べようのない力が溢れ出してくる。
今なら何でもできそうな気がする。
だが、そんな高揚感に身を任せて攻撃をしてはいけない。
まだ相手の方がステータスは高い。
「おまえ……」
「これで俺のステータスは20000になった。あと2本の腕を収納すればお前のステータスにも手が届くレベルにまで強化できるし、3本収納する事ができれば越える事ができるな」
「まさか、お前のスキルは……」
「俺の収納魔法は『生物だった物』を収納すると、自分のステータスを強化する事ができる」
「そんな強力な力に対して経験が伴っていないようなちぐはぐな感覚がしたのは、そのスキルのせいか」
「そうだな。努力して得たわけじゃない」
普通ならここまでの力を得る為には尋常ではない努力が必要になるはずだ。
それこそ生涯を強くなる事だけに費やす、元の種族を捨ててまで強さを求めるといった執念とも呼べる努力。
そんな努力を嘲笑うかのように力を奪い取るのが俺の収納魔法。
「理屈は分かった。ようは腕を斬られる事は俺にとってマイナスにはならないが、お前にとってはプラスになる」
「そうだな」
お互いの間にあった圧倒的な差が一気に縮まった。
パラードが拳を構える。
「だったら簡単な話だ。再生するからと言って驕るような真似はしない。ここからは昔のように全身全霊を賭して戦う」
全身に魔力を循環させて肉体を強化させて行く。
あれが本来の戦闘スタイル。
拳で相手を圧倒する。
「それに俺が本来求めていたのは、こういうギリギリの戦いだ」
追い詰められようとしていたのに笑っていた。
「自分と同等の相手との戦いこそ俺を強くしてくれる」
俺も剣を構えて迎え撃てるようにする。
「どうしてそこまで強さを求める」
「単純だ。ただ男として生まれたからには強くなりたい。俺は、その欲求が人よりも少しばかり強かっただけだ」
それだけで人である事まで捨てられるのは凄まじい。
「お前には感謝しよう」
「なに?」
「こんな感覚は久しく忘れていた。魔族になって再生能力なんて物を手に入れてしまったせいで俺には敵がいなくなってしまった。ここまでギリギリの戦いができた事で俺はさらに強くなれる」
「もう勝ったつもりか?」
「戦いで再生能力に頼るつもりはなくなったが、俺には『死』がない。だから絶対に『敗北』はない。その事を忘れているぞ」
忘れてはいない。
むしろ忘れているのはパラードの方だ。
「お喋りはここまでにしよう」
「ああ。後は拳と剣で語り合うのみ」
地面を蹴って駆け出す。
蹴り出した時の衝撃で地面が陥没するが構っていられない。
剣と拳が衝突した時に発生した衝撃が地面を吹き飛ばし砂塵が舞う。
「はぁ!」
「チッ」
パラードの拳を受け止めていた剣だったが、パラードが剣に押し当てている拳に力を入れた瞬間、剣が砕け散ってしまった。
「魔力にはこういう使い方もある。拳に乗せて相手に叩き込めば内部から破壊する事も可能。そして――」
後ろへ跳んだ俺の方へ拳を突き出す。
拳の先から見えない衝撃のような物が飛んできて砕けなかった左手に持っていた剣で防御するものの衝撃に耐え切れずに折れてしまう。
「こうして飛ばす事もできる」
「なるほど。魔力の扱いに慣れればそういう事もできるようになるのか」
「さすがは日本人。すんなりと受け入れてくれたな。この世界の人間だと魔法への変換にばかり目が行ってしまってこういう使い方を受け入れてくれないんだけど、過去にいた勇者――日本人は少し説明するだけで受け入れてくれた」
その辺は、漫画の影響を受けている日本人らしいと言える。
今の説明を聞くだけでイメージは十分だ。
「できれば今後の為に何度も生えて来る腕を収納して仲間の実力の底上げをしておきたったんだけど、そうもいかなくなったな」
「そんな事を考えていたのかよ……」
俺の言葉を聞いて呆れている間に背を向けて後ろへ駆け出す。
「は?」
突然、逃げ出した俺の行動に2秒呆けてしまったが、すぐに追い掛けて来る。
相手のステータスが高い状況では、純粋な逃走では逃げ切れない。
「任せた」
だが、俺には頼りになる仲間がいる。
レイの投げた試験管が俺とパラードの間に落ちる。
「なん……」
地面に落ちて割れた瞬間、試験管の中に詰まっていた薬品が爆発を起こす。
爆発によるダメージはないだろうが、舞い上がった爆炎と粉塵がパラードの足を止める。
「今の内に」
「頼む」
「それほど長時間は持たないからね」
「奴に止めを差す時間さえ持ってくれれば十分だ」
逃げたわけではない。
離れた位置で戦いを見守っていたハルナの下まで戻っていた。
「この野郎!」
爆炎の向こうからパラードが姿を現す。
その前に現れるのは槍を構えたショウ。
「お前も戦い難いんだよ」
槍の間合いから横へ跳んで逃れたと思えば鎌に変形して襲い掛かって来る。
ショウには時間稼ぎしか頼んでいないから無茶な真似はしないはず。
「ステータス増幅」
ハルナの【強化魔法】が発動する。
対象のステータスを一時的に向上させる魔法。
本来なら最大でも100ほどの向上が限界の魔法だったが、俺と一緒に行動している内に限界を突破したハルナの【強化魔法】は限界を超えた効果を発揮した。
制限を設ける事によって増幅効果を上昇させる。
「今、ステータスを2倍に上昇させたわ。効果時間は1分間。その後は、ステータスが半分に落ちるから短期決戦で終わらせて」
「十分だ」
これで俺のステータスは40000。
収納から槍を取り出す。
「離れてろショウ!」
叫び声を受けたショウが離れるのを確認して槍を投擲する。
――ギュン。
一条の銀閃が走ったようにしか見えない槍の一撃がパラードの腹を突き刺し、後ろにあった岩へ串刺しにする。
一瞬の出来事に仲間が目を丸くしている。
「ははっ、凄いや」
けれども、投擲した本人が一番驚いていた。
「仲間の力を借りやがって」
腹に突き刺さった槍を引き抜きながらパラードが立ち上がる。
「俺は最初から4人で戦っているつもりだ」
「男ならサシで戦え」
「悪いけど俺には関係がない。お前の我儘に付き合うつもりはない」
パラードの傍へ跳ぶ。
突然、真横に現れた事に驚いているみたいだけど途中の移動に全く反応できなかった事から攻撃にも対処できない事は明白だ。
「じゃあな」
驚いた顔のままパラードの首を斬り飛ばす。
死体となるパラード。
負傷した事によって瞬時に再生が始まるが首から上を失うというのはダメージが大きい。再生を終えるまでは数秒ほど時間が必要になる。
再生を続ける死体に触れる。
「収納」
直後、魔族の中でも最強と謳われたパラードはどこからも姿を消した。
「忘れていたのはお前の方だ。お前の不死攻略を考えてあるって言っただろ」
再生魔族との戦いは決着です。




