第21話 VSパラード―中編―
「さあ、この辺でいいだろ……」
戦場から離れる為に背を向けて走っているパラードに向けて引き金を引く。
銃の前に現れた魔法陣から飛び出してくる鋼鉄の弾丸。
――キンキン!
「やっぱりダメか」
「そんな攻撃でどうにかできると思っているのか」
放たれた2発の弾丸は、パラードの手刀によって弾き飛ばされる。
「いや、安全性を考えるなら遠距離攻撃でどうにかできるのがよかったから攻撃してみただけだ」
銃を収納し、改めて二本の剣を取り出す。
「仲間の奴らがどこまで戦えるのか知らないが、俺を楽しませてくれる事を期待している」
「ああ、期待してもらうのは結構だけど、お前が最期の瞬間を認識する事はできないぞ」
「そういう事は、俺の不死を打ち破ってから言え」
同時に駆け出す。
拳と剣――激突と同時に火花が散る。
押される力に負けないよう何度も剣を振るうもののパラードの拳に弾かれる。
「くそっ」
「いや、落ち込む必要なんてない。俺を相手にここまで戦えているんだから、それだけで誇れる」
パラードが地面を力強く踏みしめて拳を突き出してくる。
咄嗟に二本の剣を交差させて防御するものの二本の剣は粉々に砕け散ってしまい、剣を持っていた俺も吹き飛ばされる。
それと入れ替わるようにショウが槍を突き出す。
攻撃直後の隙を狙った攻撃だ。
「狙いは悪くない」
心臓へ突き出された槍は上体を逸らされた事で回避されていた。
「だが、俺たちレベルに攻撃するならもっと鋭く狙わないといけない」
「これで問題ない」
ショウの錬金魔法が発動し、槍が形を変える。
「なに!?」
そのまま鞭になると蛇のように絡み付く。
「このまま絞め殺す」
どんな外傷も再生させてしまうパラード。
しかし、生物である以上は呼吸をする必要がある。
そこに付け入る隙があった。
「甘い!」
パラードの体から蒸気みたいにエネルギーが溢れ出て絡み付いていたメタルスライムを弾き飛ばしてしまう。
弾き飛ばされたメタルスライムは細かくバラバラに弾けてしまう。
「可能性その2」
再度、ショウの錬金魔法が発動し弾け飛んだメタルスライムの体が先の鋭い針のようになってパラードへ襲い掛かる。
突然の予期せぬ攻撃に針の攻撃を全身で受けている。
「いくつか不死を破る方法を考えさせてもらった」
「それが、呼吸を封じる事と針の攻撃か」
全身を針で串刺しにされたパラードだったが平然としている。平然としていると言うよりも再生によって傷が塞がり、突き刺さっていた針が次々と抜け落ちて地面へと落ちている。
「身体のどこかには再生が及ばない場所があるのかと思ったけどダメだった」
「残念だったな。俺の再生に付け入る隙なんて……」
「なら、可能性その3です」
外から眺めているだけだったレイがボールを投げる。
予め告げられた攻撃に対してパラードが拳で撃ち落とす。
だが、それは悪手だ。
「これは……」
「あなたと同じ魔族が使っていた毒です。封印する事はできたんですから毒で動きを封じる事もできるはずです」
紫色の毒ガスがパラードの周囲を満たして行く。
たとえ息を止めていたとしても皮膚から体内を侵食する強力な毒で、少しでも吸い込めば無事では済まされない。
近くにいたショウだったが、レイの声を同時に後ろへと跳んでおり、バラバラになっていたメタルスライムも錬金魔法で回収している。
「悪いな。封印と違って毒も俺には通用しない」
「これもダメなの……?」
「俺の再生は、体の異常を元の状態に『再生』させてしまう。毒を受けたとしても正常な状態にさせてしまうんだ」
毒も通用しない。
「う~ん……あたしが考えた方法もサッパリ分からないわね」
「だから言っただろ」
全員が不死の攻略方法を考えていた。
ショウは絞殺と弱点。
レイは毒殺。
そして、ハルナは再生を促している核となる場所――おそらくパラードの魔結晶と思われる場所の破壊を提案していた。しかし、肝心の魔結晶がどこにあるのか分からない。スタークと同じ心臓へは既に攻撃をしているので別の場所にあると思われるが、見分ける方法も分からない。
「またで申し訳ないけど、ソーゴに頼るしかないのか」
「そこは安心しておいていい」
俺の提案した方法は既に実証実験を終えている。
仲間が考えた方法とは違って確実性がある。
「お前は自分が考えた方法に自信があるみたいだな」
「これは確実にお前を殺せる。けど、その為には一度お前を殺す必要があるっていう矛盾した方法なんだよな」
「だったら恐れる必要なんてないな」
パラードの姿が消える。
追えているのは俺だけ。
「左!」
ショウが左手を掲げながらシルバーを盾に変形させながら防御する。
昨日の内にパラードが追えない時には俺の指示に従って防御や攻撃をするように指示しておいて正解だった。
収納から短剣を取り出して斬り掛かる。
相手の速さを考えれば一撃の強さよりも攻撃を当てる事が重要だ。
「ははっ、どうやってこれだけの力を手に入れた?」
「俺たちの攻撃を全て回避している奴が何を言っている!」
俺とパラードの攻防にショウとハルナも加わる。
それでも全ての攻撃を回避して会話するという余裕を見せるパラード。
「きゃっ」
ハルナを蹴り飛ばし、俺の短剣とショウの槍を掴んでいた。
全く動かない……
「俺は単純だ。ただ力を求めていた。誰よりも強くなりたい。そんな想いを抱いて村の中で一番強くなり、街で開催された武闘大会でも優勝した。強い魔物も倒して国から褒章を貰えるほどにまでなった。けど、俺がなれたのはそこまでだった。魔王から軍を預かった魔族を相手に初めて負けた」
その話は既に救世主だったセイジが戦いながら聞いている。
聖典を読んでパラードが魔族になる過程を知っている俺だが、必要ないだろうとショウたちには教えていない。
「どうにか一命を取り留めた俺は、自分の無力さが恨めしくなった。人間の力では決して魔族という種族まで変わってしまった人間には単独で勝つことはできない。そんな存在に勝つことができるとしたら伝説の存在である勇者だけだ」
だが、自分はこの世界で生まれ落ちた人間。
決して異世界から召喚される勇者にはなれない。
だから決めた。
「俺の強さを求める心が瘴気を呼び込んでくれたんだろうな。圧倒的なステータスと死なない体を俺に与えてくれたよ。瘴気の塊である魔王には絶対服従という欠点も戦いを求める俺には関係がない。お前たちを倒せば、俺は更なる高みへと上れるはずだ」
力を一気に込めると俺の短剣とショウの槍が砕かれる。
「もっと俺を楽しませろ!」
「ぐはっ」
パラードの蹴りが腹に叩き込まれ、空中へと投げ出される。
胃の中から吐瀉物が出て来る。
「お前も特殊な使い方をしているな」
大ダメージを受けた事でパラードの興味が俺からショウへと移った。
昨日の戦いではショウは一切の力を見せていない。
メタルスライムであるシルバーと錬金魔法を組み合わせた変幻自在な武器による攻撃。それにステータスも低くない。パラードの興味を惹くには十分だった。
だから、少しの間とはいえ俺に背を向けている。
――斬!
収納から取り出した斧を重量に任せて振り下ろすと自分ごと地面へと落ちてパラードの左腕を肘から切断する。
「なんのつもり……」
「もう一発!」
斧を振り上げ右腕も切断する。
パラードが斧を持つ俺から離れて行く。
「分かっているはずだ。この程度の攻撃では俺にとっては何の問題もない」
すぐに切断された場所から新しい腕が生えて何事もなかったように立っている。
この程度の怪我ではパラードを殺す事は出来ない。
「それに完全復活した俺とお前ではステータスに差があり過ぎる。お前は、せいぜい俺を楽しませていればいい」
「いや、諦めるのは早い」
足元に落ちていたパラードの切断された腕を拾う。
「ステータスが足りないなら増やせばいい」
「そんな簡単に……」
強くなれるのが俺の収納魔法だ。
パラードに向かって駆け出す。
途中、落ちていた右腕も拾ってステータスを上げる。
「は?」
急に強くなったように感じた俺の強さに驚いている間に腹を殴る。
「これはさっきのお返しだ!」
殴られたパラードが地面を転がっている。
力が足りないなら相手の部位を斬り飛ばして強くなればいいじゃない




