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第6話 使い捨て

 最初にスライムを倒してから1時間。


 山を奥へ奥へと進んで行ったが、出くわした魔物はスライムが2体。


 どうやら山に魔物が少ないというのは本当らしい。

 魔物が現れないという点では安全が保障されているが、山道が険しいので移動には適さない道だ。使い道があまりないということで放置されている。


 そんな山の中腹で休める広い場所を見つけたので全員で休憩中だ。

 装備も外して収納しておいた水筒を使って水分を補給する。重さを感じさせることなく移動することのできる収納魔法は、戦う力こそないが、やっぱり便利な能力だ。


「俺たちでも戦えるんじゃないか」


 スライムからダメージを受けることもなく倒せた。

 それがちょっとした自信になっていた。


「己惚れてはいけない。勇者様ならこの程度のスライムは一撃で簡単に倒せるし、他の方々でも1人で倒せるのが普通だ」

「そうですか」


 それを4人掛かりで倒せている俺たちでは戦える力としてカウントすらしてもらえない。


「だが、君たちの実力はよく分かった」


 ライデンさんが剣を鞘から抜く。

 そのままゆっくりと俺に近付くと剣を振り下ろす。


 ――ガンッ!


「危ねっ!」

「チッ!」


 攻撃を防がれたライデンさんが後ろへ跳ぶ。


「いきなり、何をするんですか!?」

「盾も剣も外した状態だったから簡単に倒せると思ったんだけどな」

「俺もこっそりと持って来ておいたよかったですよ」


 俺はいきなり攻撃してきたライデンさんに対して支給された盾とは別の盾を掲げることによってライデンさんの剣を防いでいた。スライムと戦う時に使っていた剣と盾は外してあるので、すぐに使える状況になかった。

 盾は、城を探索している内にカッコいいのがあったのでこっそりと拝借させてもらった。


「それは、倉庫にある騎士にのみ与えられる盾だ。そんな物を持ち出せる許可を出した覚えはないのだが?」

「別にいいでしょう。こっちはいきなり異世界に召喚された身だ」

「その言い方だと他にも倉庫にある物を盗んでいる可能性があるね」


 倉庫だけじゃない。


「この数日の間に備品のいくつかがなくなる事件があった。城内での犯行だから窃盗の可能性は低いと考えていたし、今は勇者を召喚したばかりの大切な時期だから騒ぎを大きくしたくなかった。まさか、君が犯人だったなんて……」


 ちょっと収納魔法の実験をしていただけだ。


 重量の制限。

 入れられる物の条件。

 最大容量の確認。


 結果、今までに入れた物の中に重量の限界がないことは分かったし、何でも入れることができた。容量の方もまだまだ余裕がある。


 俺の方は言わば能力の性能試験だ。


「で、そっちが襲い掛かって来た理由は何ですか?」


 俺が聞くしかない。

 少し離れた位置で見ていた増田たち3人はいきなりの凶行に呆然としていた。


「単純に命令だよ」

「命令?」

「宰相からの命令でね。騎士の中でも実力のある私が同行して君たちの力を見極める。そして、君たちの力があまりに使えないようなら処分するように言われていたんだ」

「処分って……」


 いつもは快活な櫛川さんが言葉をなくしている。

 天堂さんは何を言われているのか分かっていない様子だ。


「僕たちが何をしたっていうんだ!?」


 増田が取り乱しながら襲ってきた理由を聞き出そうとしていた。


「強いて言うなら強い力を持っていなかったことかな」

「え?」

「勇者召喚には触媒として貴重な魔法道具を使用している。魔王が復活した状況ではギリギリな予算だったんだよ。結果、勇者に相応しい力を持った者が現れた。彼は最初から持っていた力だけでなく、既に新しい力まで身に付けている」


 工藤先輩のことだ。

 彼の姿は初日の時以来見ていない。

 だが、ライデンさんの言葉を聞く限り着実に強くなっているらしい。


「それが、僕たちを襲うことに何の関係がある!?」

「関係はある。目的は、召喚された勇者たちの精神を鍛えることだ」

「どういう……」

「君たちの世界はよほど平和な世界だったらしい。あまりに危機感がなさすぎる。それではいざというときに死んでしまう。だからこそ、この世界が危険な場所であるということを勇者たちには理解してほしいんだよ」


 なるほど。ライデンさん……宰相の意図が分かった。


「その為に俺たちには犠牲になってもらって、これ以上の犠牲を出さないように頑張ろう。そんな気持ちを持って欲しいんですね」

「正解だ」


 胸糞悪い話だ。

 もしも、俺たちに利用価値が本当はあるのだとしたら計画はなかったことにされていたはずだ。

 しかし、スライム相手にも4人で苦戦しているようでは使い物にならないとライデンさん……ライデンに判断されてしまったらしい。


「危機感を持って欲しいだけなら仲の良くなった騎士が犠牲になるとかでもいいんじゃないですか?」

「騎士の育成には国の予算が使われている。対して、君たちのように使い物にならない相手ならば国の懐事情が痛むことはない」

「そうですか」


 女子2人を守る為にライデンの前に立つ。

 俺の柄じゃないんだけど、こうなる事態を予測していなかったわけじゃない。ただ、俺の予想よりも早かっただけだ。


「あの爺さんも行動が早すぎるよ」

「爺さん……? 君が言っているのは宰相のことかな」

「そうですよ」


 収納から一冊の本を取り出して折目を付けておいたページを開いて見せる。


「これは城の図書室にあった人物名鑑です」

「そのページに書かれているのは、ウチの宰相だな」

「そうです」


 俺が開いたページには似顔絵と一緒にそれまでの功績や現在の地位について書かれていた。


 本が少し古いので今の白髪のお爺さんという姿よりも少しだけ若い白髪が混じった姿をしているが、顔は間違いなく本人だ。

 そう、俺たちが召喚された時に出迎えてくれたお爺さんだ。


「ここに書かれている内容によれば、魔法使いとして勇名を馳せた人物で第一線を退いた今では文官として仕えているそうではないですか」


 古い資料なので、今では出世して宰相になっているらしい。

 その辺りは、城を散策しながら噂していた兵士たちの話を聞いて導き出した。


「随分と狡猾な人みたいですね」

「そうだな。だが、この手法は過去にも行われてきた方法だ」

「ああ、過去にも召喚された勇者がいたんでしたっけ?」

「そうだ。君たちと同じぐらいの年齢で黒髪黒目がほとんどの勇者たちで、誰もが危機感のない甘ったれた思想をしていたらしい」


 これは、いいことを聞いた。

 いい加減考えておいたことを実行に移す段階かもしれない。


「宰相は俺たちを切り捨てた。それは、国の方針だと考えていいんですね」

「ああ、国王も渋々ながら過去にも行われてきた方法ならと納得してくれた」

「そうですか」


 収納から装飾の施された剣を取り出す。

 異世界に召喚される前なら持てなかった重量の剣だが、異世界に召喚されたおかげで筋力が強化されているのかしっかりと持つことができた。


「その剣は……」

「倉庫なんかじゃなくて宝物庫から昨日の内に拝借してきました」


 本当は、金に換金できるような物を、と考えて忍び込んだ宝物庫だったが俺に支給された武器と防具が適当な感じだったので宝物庫にあった強そうな剣などを拝借させてもらった。


「宝物庫は厳重に施錠されていたはずだ」

「ええ、鍵は掛かっていましたよ」


 ただし、収納魔法を手に入れた俺の前では幾重にも施された鍵など意味がない。

 鍵が施された扉ごと収納してしまえばいい。


「魔法による施錠だってされていたはずだ」

「そうなんですか?」


 何も問題なく収納できたけど。


「いや、それよりも王剣を持ち出してはいけない!」

「王剣ね」

「戦争時などに王だけが使うことの許された剣だ!」

「嫌だな。異世界になんて召喚されたんですから報酬の一部として先にもらっておきますよ」

「君は……」

「それにそっちが俺たちのことを切り捨てたつもりだろうけど、俺は最初からそっちを切り捨てるつもりでいたさ」


 ちょっと予定よりも早くなったし、近くにはパーティメンバーもいる。

 ライデンと対峙することになってしまったのは計画外だし、俺と同じように切り捨てられようとしている3人をそのままにしていけるほど冷酷な人間だと思っていない。


「使い捨てる為に襲い掛かるというのなら自分も使い捨てられる覚悟をして下さいね」


 城を抜け出すつもりではあったが、今の状況の方が都合いい。


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