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第19話 でっちあげ

「おまえ、メグレーズ王国の人間か」


 そう言われた瞬間、逃亡した兵士の顔が青褪めていた。

 まあ、せっかく身分を偽って潜入していたのにいきなり自分の身分を言い当てられれば青褪めてしまうのも仕方ない。


「どういうことだ? その短剣が関係しているのは私にも分かるが、普通の短剣にしか見えないぞ」


 短剣に身分を現すような装飾でもあればメグレーズ王国だと言い当てられたのも頷ける。


 しかし、短剣には葉の紋様が彫られているだけで特徴はない。

 ただの短剣にしか見えない。

 実際に俺もただの短剣にしか見えない。


「これは、メグレーズ王国で近衛騎士だった男が所持していた短剣です。この男がメグレーズ王国の関係者なら何かに反応してくれるんじゃないかと思って取り出してみたんですけど、一つ目で反応してくれましたね」


 そこから鎧、剣、認識票、さらにライデンの財布や身分証といった個人的な物まで収納から取り出す。


 短剣の時みたいな反応してしまうという失態を犯さないように装備を出した時には反応しないようにしていた逃亡兵士だが、個人的な物まで出されてしまった瞬間には反応せずにはいられなかった。


「お前がライデン先輩を殺したのか!?」


 身分証を所持している=俺が殺したと判断したらしい。


 いや、実際にその通りなので否定するつもりはない。


 俺が殺したと分かるや否や襲い掛かる為に立ち上がろうとした兵士だったが、拘束され屈強な騎士に囲まれた状態では叶わなかった。


「先輩って事は後輩なのか」


 慌てて口を噤む兵士だが、既に口にしてしまった言葉は取り消せない。


「……そうだ」

「この短剣にもメグレーズ王国の近衛騎士である事が認識できるような細工がしてあったんでしょう」


 俺たちにとっては普通の短剣にしか見えないが、何かしらの特徴があったのかもしれない。

 さすがにそこまで教えるつもりはないらしく再び口を閉ざしている。


 その間に散らかしてしまった道具を収納する。

 街に着いたら生活費の足しにしようと持ち帰って来た装備品とかだったが、機会がなくて売らずにいた事が思わぬところで成果を生んでくれた。


「というわけで、メグレーズ王国近衛騎士の後輩であるらしい」

「それは分かった」


 司令は重々しく頷く。


「お前は、このような場所で何をしている?」

「既に予想は付いているのでは?」

「あくまでも確認だ」

「確認……そんな事をしている状況ではないと思うが?」

「そうだ。本来なら砦にいる者は全員が慌ただしく動き回っていなければならない状況だ。それでもお前の件は無視できるものではない」


 だからこそ司令も会議室に戻ってきているし、時間の融通を付けられる隊長は全員が集まっている。

 状況を正確に把握する為には兵士から聞ける話は重要になる。


「お前が今回の事件を全て裏で引いていたんだろう」

「全て?」

「そうだ。魔王軍に砦周辺の地形を教え、魔族の中でも強大な力を持つパラードを復活させた」

「その通り、と言ったらどうします?」


 挑発するように笑みを浮かべながら言う。

 お願いだからそんな事を言わないで欲しい。今だって挑発を受けて近くにいた隊長たちが殺気立っている。中には今にも剣を抜いて斬り掛かりそうな者がいて……


「鎮まれ!」


 司令の一喝で抜きそうになっていた剣を収めていた。


「残念」


 兵士のその言葉を聞いた瞬間、彼の意図が分かった。

 さっきも捕まりそうになった瞬間に毒薬を口に含んだ事から死を望んでいる。正確には、工作員みたいなものだから自分が捕まる事によって拷問され国との繋がりが露見する事を避けようとしている。


 これだけ多くの人に迷惑を掛けていて何を考えている。


「たしかにあなたが言うように俺がパラードの封印を解いて偵察に来ていた魔物に少しばかりの情報を持たせて帰らせる事で魔王軍の信頼を得たところで砦周辺の地形を教えた。凄く簡単な任務だった。天然の大岩の奥にあるせいで辿り着くのは大変だったが、封印なんて言っている割に封印そのものは地面に描かれた魔法陣を破壊すれば解放される物だったし、偵察をしている魔物も俺のスキルを使えば簡単に見分ける事ができた」

「スキル?」

「悪いが、そこまで教えるつもりはない」


 そこから先は言うつもりがないみたいだ。

 そんな風に言うのは自供したところで意味がないからだ。


「どうしますか? この者が言うようにメグレーズ王国の仕業であるのは間違いないのでしょうが……」

「我々はこの者が封印を破壊しているところを見たわけでもなければ魔物に情報を渡しているところを目撃したわけでもない」


 あくまでも砦から逃げ出そうとしていたところを捕まえただけ。

 ただ、怪しい人物がいただけ。


 今、兵士が利用していたと思しき部屋や持っていた荷物の整理を行っているものの証拠になるような物は出て来ないだろう。

 というか潜入工作員が自分の本当の身分に繋がるような物を持っている訳がない。


「どうやら状況が理解できたみたいだな。理解できたならさっさと処刑すればいい」

「お前は……!」

「俺は既に目的を達成している。砦から逃げ出そうとしたのは、可能なら生きて帰るように言われていたからだ。こんな明日には消えてなくなるような砦にはいつまでもいられないからな」

「この砦はデュームル聖国にとってだけではない! 人類にとって必要不可欠な砦だ! それを陥れるような真似をなぜする!?」

「俺みたいな下っ端には上の連中が考える政治的な判断は分からない。だが、昔から王国の一領地でしかなかった聖国が気に喰わなかったのは事実だ。その辺で滅んで欲しかったんだろうな」


 なんとも気に喰わない話だ。

 自分の利益ばかり追求して人類全体の利益の事を全く考えていない。


 そして、国民であるこいつも国の方針に何の疑問も抱いていない。

 俺たち自身の事情もあるが、こいつの態度が非常に気に入らない。


「お前がその気なら俺にも考えがある」

「へ、証拠なんてどこにもないぞ」

「証拠なんて必要ないさ」

「なに?」

「まずは、魔族パラードの封印を解いた者として死体となったお前を大々的に発表する。次に近衛騎士の装備、認識票なんかを持たせた状態で姿を晒させる。もちろんそんな事をしたところでメグレーズ王国の仕業だという証拠にはならない。けれども、王国と聖国の軋轢は他の国だって知っているはずだ。多くの国がメグレーズ王国の仕業だって信じてくれるだろうな。そうすれば、王国の信用はガタ落ちになるだろうな」

「そ、そんな事には……」


 俺の言葉を聞いて必死に否定しようとしているみたいだが、兵士の体が小刻みに震えていることから心の底では否定できないでいた。


「さて、国の信用がガタ落ちになったところで原因を作ったお前はどういう扱いになるかな?」

「どういうって……」


 こいつ自身はその時には死体になっていて何もできない。

 だが、周囲にまではそういうわけにはいかない。


「お前が国に残している家族はどうなるかな?」


 少なくとも捕らえられて奴隷のように扱われる。最悪の場合には殺される。

 他国に対してこんな行動に出られる国なら恥をかかされれば当事者にこれぐらいの事は当然のようにする。


「お前には人としての情がないのか!」

「うるさい。嫉妬心から何の罪もない多くの人がどうなってもいいと考える国、それを当たり前と考えるような連中に情について説かれる必要はない」

「せ、せめて兵士として最低限の誇りある死を……」

「こんな事をやらかしておいてそんな物が与えられると本気で思っているのか」


 こいつの言葉を聞いていて遠慮する必要はないので本当に頭を蹴って言葉を一蹴する。


「私も君の作戦に乗らせてもらおう」

「さっき取り出した近衛騎士の装備品なんかについては無料で提供しますよ」


 その結果、王国がどうなろうが俺の知った事ではない。


「ありがとう。だが、君の作戦を決行する為にはこの男を生きている、死んでいるに関わらず聖都までは運ぶ必要がある。今はこの男を護送しているような余裕はないから明日を乗り切らなければならない。本当に君は魔族パラードを倒せるのか?」

「魔族パラードを倒す? お前みたいなガキにできるわけがない」


 ああ、こいつは会議室にはいなかったし、城にいた時に全く見掛けなかった事から勇者召喚にもそれほど関わっていなかったと思えるので俺たちが勇者だという事にも気付いていない。

 だから明日には蹂躙されて全滅する未来しか見えていない。


「必ず勝ちますよ。こいつを捕まえたおかげで後ろを気にする理由が少しばかり減りましたから難易度は低くなりました」


召喚した『王国』に対してはどうなろうといいと考えています。

さすがに『国民』にまで被害が及ぶのは見過ごせない程度です。

ですが、今回は完全に『国』に味方する『国民』だったので処分する方向に動きました。

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