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第16話 暗い会議室

 パラードとの戦闘後、砦の中は大慌てだった。


 それと言うのも人類にとって防衛の象徴であるグランノース砦に攻めて来た者がいた。

 ただの魔物に攻められて騎士や冒険者の力によって撃退する事ができたのなら問題なかった。


 しかし、攻めて来たのが前回の魔王復活時に多大な被害を出し、救世主がどうにか封印する事で事態を収める事ができた魔族。騎士では手も足も出ずに瞬殺され、たった一人の騎士を残して相手を退かせたのが砦に来たばかりの冒険者。


「報告します」


 広い会議室に一人の若い兵士が入って来る。


「偵察が可能な使い魔を従えている魔法使いの方に偵察していただいたところ、北西にある渓谷に隠れるように魔物の軍勢がいるとの事です。渓谷に隠れているため正確な数は分からないが、約1万の軍勢ではないか、との事です」

「分かった」


 会議室の奥に座った司令官が報告を聞いていた。

 報告を終えた兵士が会議室を出て行く。


 会議室の中には隊長クラスの騎士、サンジェスさんを中心とした優秀な冒険者がいたが会議室の雰囲気は最悪と言っていいほど暗かった。


 そんな中にあって汗を流しながら慌てているのが、魔王軍が迫っている事を俺が伝えたにも関わらず一蹴した騎士長だ。


「それで、何か弁明はあるか?」

「そ、それは……」


 騎士長に司令官が訊ねる。


「魔王軍の侵攻は本当にあった。そして、貴様は物的証拠を示されていながら冒険者の報告を一蹴し、上司への報告すら一切行っていなかったようだな」


 司令官が威圧している。

 その威圧を受けて騎士長が更に慌て始める。


 この状況は、既に騎士長にとって詰んでいるような状況なのだが、それでも騎士長にとっては諦められないらしい。


「で、ですが……これまで魔王軍が内通者を通して砦の情報を集めたうえで侵攻してくるなどなかったことでありまして……」

「貴様は、どこまで無能なんだ!」


 砦に来て2日目の俺だって騎士長が馬鹿な事を言っているのが分かる。


「グランノース砦は前回の魔王との戦いが落ち着いた後で後世の為にと造られた物だ。だから魔王軍との戦いは今回が初めてなのだから、これまでなかった事など魔王が復活して軍勢を率いるようになった現状ならいくらでもあるだろうが!」


 手探りながら魔王軍と対峙しなければならない。

 それがグランノース砦に求められる事項だ。


 それなのにこれまでなかった事だからと報告すらしなかった。

 完全に騎士長の落ち度だ。


「もういい。貴様は会議室を退出しろ」

「い、いえ……」

「聞いていなかったのか。私は退出するように言ったんだ。挽回のチャンスはきちんと与えてやるから仕事をしていろ、今は少しでも人手が欲しい状況だ」

「はっ」


 騎士長が会議室を退出して行く。


「あいつには、魔王軍との戦いで最前線に立ってもらう。拒否は認めない」


 約1万の軍勢を相手に最前線で戦うという事は、砦へ帰って来る事ができない事を意味していた。運が良ければ生き残る事ができるかもしれないが、まともな状態ではいられないだろうし、仮にまともな状態で戻って来た場合には敵前逃亡の疑いを掛けられる事になる。


 会議室にいた隊長たちは反論しなかった。

 俺の報告を受けてすぐに行動しても手遅れではあったが、もう少しまともな対応ができたかもしれないのだから無理ない。


 魔王軍が隠れている渓谷は、グランノース砦の近くまで続いており、道が険しいせいで普段は使われるような場所ではないのだが気付かれずに接近するには打って付けの場所だった。


「問題は、これからどうするのかという事です」


 隊長の一人が訊ねる。


「砦にいる戦力は、冒険者も含めれば約1000です。敵軍の質にもよりますが、砦で防衛に徹すれば10倍の戦力差ですが、撃退は可能かもしれません」


 偵察では軍勢の詳しい内訳まで分からなかった。

 これで敵軍がゴブリンのような弱い魔物を中心に構成されていたなら10倍の戦力差があって覆せると考えている。


 だが、防衛戦をするには砦の防衛力が必要不可欠となる。

 その事に司令官は気付いている。


「砦での防衛戦は本当に可能なのか? お前たちも魔族パラードが持つ力を見ていたはずだ」

「……」


 隊長たちが沈黙する。

 騎士の体すら一撃で粉砕し、金属製の盾や武器すら簡単に砕いてしまう。

 しかも、封印から復活したばかりであの状態が本気でない事は俺が既に報告しているので知っている。


 砦の壁は本当に役立つのか?


 結論から言えば役に立たない。


「実際に戦った者としてどう考えているのか教えてほしい」


 司令官が俺に訊ねて来る。

 外から見ていただけでは分からない事も実際に武器を交える事で気付くという事もある。


「まず、間違いなく役に立たない。実際に戦った者の感覚として奴の力は半分も出されていないはずだ」


 会議室の椅子に座って両手を組みながら答える。

 新人冒険者としては褒められた態度ではないが、砦にいたほとんどの騎士が俺とパラードの戦いを観ているので自分たちよりも強い事を自覚している。


「そうか」


 司令官はそれだけ答える。

 隊長たちも防衛戦が難しいと分かって暗い表情をしていた。

 パラードと実際に戦った者として呼ばれたが、俺の目的はそんな顔をさせる為ではない。


「撤退を考えられてはどうですか? 聖都まで戻れば、もっと多くの戦力を集められるはずです」

「馬鹿か? お前が言っているのは聖都を戦場にすると言っているような物だ。聖都も強力な外壁に囲まれているが、ここほどではない。一般人も住んでいる都市を戦場にしたいのなら私はお前の正気を疑うぞ」

「……失礼!」


 撤退を提案した隊長だったが隣に座った隊長から言われて引き下がる。

 たしかに聖都まで引き返せばもっと多くの戦力と合流する事ができるが、それはそれで別の問題を生み出す事になる。


「……私たちは、騎士として砦で防衛線をするしかない。故に撤退はしない」

『はい』


 隊長たちが頷く。


「だが、砦に籠もっての防衛戦がパラードによって難しくなってしまっている状況では砦の外に出て野戦を行うしかない。もしくは、誰かがパラードを撃退して防衛線を行うか」


 砦の耐久力なら力の強い魔物が相手でも耐えられる。砦の壁さえ粉砕できるパラードの力が異常なだけだ。

 奴さえ排除できれば砦で籠城戦もできる。


 だが、誰もパラードを倒そうとは提案しない。


 単純な力を見せられただけなら手を上げた者はいたかもしれないが、彼らは一様にパラードの異常な特性を見てしまっていた。


「誰が心臓を貫いても、首を斬り落としても生きているような奴に勝てるって言うんだ?」


 倒す方法が分からない。

 無謀な戦いを挑む以前に戦いになっていない。


「……奴が再生する時に魔力が消費されている事を確認しています。奴とて生物である以上、無限の魔力を持っているという訳でもありません。何度も再生させていれば倒せるでしょう」


 パラードとの戦いを見ていた魔法使いが答える。

 再生に魔力が使用されている事には俺も気付いていた。だからこそ消耗を狙うのは不毛だと分かっている。


「奴の再生を止めるのに何回殺す必要があるんだ?」

「……」


 冒険者の質問に提案した魔法使いは答えない。


 つまり、何回殺す必要があるのか大凡見当が付いているという事だ。

 仕方なく俺から答える。


「俺から言わせてもらえば魔力が尽きるまで再生させるには最低でも100回は倒す必要があるだろう」

「100回……」


 俺の言った回数に誰もが息を呑んでいた。


 しかも完全に復活する前で100回だ。

 騎士9人すら足蹴にするように倒してしまうような奴を相手に致命傷を100回以上与える必要がある。


 それが、どれだけ無謀な事なのか誰もが分かっている。


 現状が分かって来たみたいだし、そろそろいいかな。


「再生能力があるとか関係ない。俺にはパラードを倒す手段がある」

「本当か!?」


 司令官が真っ先に反応した。

 これが、ただの新人冒険者が言ったなら一蹴されてもおかしくないが、逃がしてしまったがパラードと互角に戦えるだけの力を持っている事を見せている。

 俺の提案を無碍にはできない。


「それは、どんな方法だ?」

「悪いけど、それは言えない」

「なに?」

「裏切り者がいるかもしれないのに切り札の内容を言う訳がないだろ」

「……そうだな」


 少なくとも砦内にどこから攻めるのが効果的なのか情報をリークした人物がいる。


 内通者の問題については解決していない。

 それでも倒せる可能性を提示したのは、俺の目的を達成するには必要な事だったからだ。


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