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第14話 砦襲撃

「どうして、信じてくれないんですか!?」

「悪いが、そんな戯言に付き合っている暇がないんだ」


 できる限り急いで砦へと戻って来ると責任者への取次ぎを願った。

 しかし、砦での実績が全くと言っていいレベルでない俺たちでは責任者に直接話をすることすらできず、数人の騎士を取りまとめる地位にいる騎士長が話を聞く事になった。


 そこで、騎士長に収納してあったスカイウィングと砦の状況について書かれた布を見せたのだが、全く信じて貰う事ができなかった。


「どの辺りが戯言なんですか?」

「魔王軍が大規模な侵攻をするなどという情報は聞いていない」


 その情報を今伝えているところだというのにまともに扱うつもりがない。


 理由は単純だ。

 俺みたいな実績のない相手の情報を鵜呑みにして間違いだった場合には、彼の責任にされる。

 逆に襲撃が本当にあった場合には、彼の責任だけでは済まされないというのに自分が信じたくない情報にも目と耳を塞ぐつもりらしい。


 何よりも凝り固まったプライドを持っていた。


「お前たち冒険者は金の為にただ魔物を討伐していればいいんだ」


 そう言って俺たちの情報に価値がないと歩き出して行ってしまった。


「これで分かっただろ」


 離れて行く後姿を見ながらサンジェスさんが言う。

 サンジェスさんたちパーティには、砦にいる騎士たちにも顔が知られているということで案内してもらった。現に騎士長に話を聞いてもらえたのだって隣にサンジェスさんがいたからだ。


「あいつら騎士はプライドの塊みたいな奴らだ。騎士の全員がそういうわけだっていうわけじゃないが、大多数の連中がそういう奴だって思っていた方がいい」


 漫画などでよく見かける傲慢な騎士か。

 実際、騎士がいるおかげで魔物のような危険な相手を排除して、こんな世界でも安全に生活する事ができている。その事実が騎士を傲慢にしている。


「でも、この情報が本物なら何らかの手を打った方がいいのは確かですよ」


 布には砦周辺の地形が描かれ、どこから攻めるのが有効なのか書かれていた。

 どのように攻めて来るのか分からないが、攻めるつもりでいるのは間違いない。


「残念だが、俺たち冒険者に騎士をどうにかするだけの権限はない。俺が一声掛ければ冒険者を何人か集める事ができるが、何人か集めるだけで精一杯だ」


 軍勢に対して数人がいたところで大した力にはならない。

 本気で軍勢に対抗するつもりなら命令する権限を持っている奴に動いてもらう必要がある。


「お前たちも自分たちだけでどうにかしようと思うな。いくら強くてもできない事が――」

「あ、それだけは絶対にないので大丈夫です」


 おそらく事態をどうにかしようと自分たちだけで動くと心配になったのだろう。

 そんな事は絶対にない。


「どういう事だ?」

「俺としては魔物の軍勢を相手にするのは全く問題ないんです」


 相手の規模を確認する前から断言するのは危険だが、たぶんどうにかなりそうな気がしている。


「こっちとしても恩を売れるなら最大限売れる状態で売りたいんです。だから今が危機的状態だという事を理解して欲しいんです」


 その為にも軍勢に対して何らかの策を用いたにも関わらず通用しなかった。

 その状況を助ける事で恩を最大限売る。


 俺の言葉にサンジェスさんがポカンと口を開けていた。


「面白い奴だな。普通、魔物の軍勢が攻めてきていると聞けば逃げ出すか絶望する奴が大多数だ」

「サンジェスさんは?」

「俺は喜々として戦いに行くな」


 お互いにニヤッと笑う。


「ちょっといいの?」

「わたしたちのリーダーなのに悪い顔をしています」

「一応は、勇者なんだけどな」


 仲間が煩い。

 俺たちは勇者として召喚されたかもしれないが、そんな事実を受け入れたつもりはない。この世界の人が勝手に勇者と呼んでいるに過ぎない。


「これからどうしますか?」

「本当に軍勢が攻めて来るなら近い内に何か動きがあるはずだ」

「そうなんですよね」


 空を飛んでいたスカイウィングを討伐したが、魔王軍が偵察の為に派遣した魔物が俺の倒した1匹だけだとは考えにくい。

 むしろ複数の偵察ルートの一つを潰した、と考えた方が自然だ。


「とりあえず俺は冒険者仲間にそれとなく注意を促してくる」

「お願いします」


 俺たちの報告を聞かなかった以上、騎士に被害が出たとしても自業自得。俺たちの報告をきちんと聞いて対策を取っていれば出なかった被害かもしれない。


 と、駆け出したサンジェスさんの足が止まっていた。


「どうしました?」


 サンジェスさんは砦の窓から外を眺めていた。

 同じように外を見ているサンジェスさんの仲間も表情が凍っている。


「遅かったかもしれない」

「あれが原因ですか」


 外に広がる荒野に自衛隊みたいな緑色の迷彩服を着た一人の男性が歩いていた。どうにも自衛隊のイメージが強くて異世界人っぽくない。

 見た目は迷彩服を着た普通の人間に見えるのだが、実際には少し違う。


「魔族だ」


 相手から感じる魔力は、以前に遭遇した魔族のスタークと似ていた。

 しかし、似ているだけで放たれる圧力は比べるまでもなく強い。


「あれが一人で良かったですよ」


 あんなのが何人もいたら手に負えない。

 だが、決して一人だけというわけではない。


 その手には原型を留めていないほどに潰された顔をした男性がいた。


 砦に近付いて来た男性が持っていた男性を投げる。


 グシャ、と潰れた音が響き渡る。


 砦の周囲は静かになっていた。


「俺は前魔王軍四天王の一人パラード。軍隊で押し寄せるなんてつまらないから一人で来てやった」


 その自己紹介は静かになった砦によく響いた。


 それよりも気になった事が言葉を言っていた。

 『前』魔王軍?

 四天王なんて本当にいるのか。


「どうしました?」


 サンジェスさんが震えている事に気付いたレイが訊ねていた。

 この震え方は武者震いなんかじゃない。

 完全に怯えていた。


「パラード、だと? どうして、そんな奴が今さらになって現れる?」

「知っているんですか?」

「ああ……200年前に復活した魔王に仕えていた魔族の男だ。その突出した戦闘能力から当時は魔王に次ぐ力を持っていたそうだ」


 まさかのナンバー2ですか。


「その強さは当時の異世界から来た勇者でも敵わないほどで、このデュームル聖国を救ってくれた救世主様でも倒す事ができなかったらしく、どこかに封印をすることで難を逃れたらしい」


 強い力を持っているサンジェスさんでも救世主の事は尊敬しているらしく、救世主『様』と呼んでいた。


 しかし、封印か――


「こいつか」


 聖典に検索をかけて情報を探す。


 たしかにあった。

 デュームル聖国へと押し寄せた軍勢。その中で一人だけ別行動を取る人物がいたが、単独行動が許されるだけの実力を持っているだけあって救世主ですら7回も討伐に失敗して死んだ。

 最終的に時間を掛けて習得した封印魔法によって魔王領とデュームル聖国の間にある場所に封印する事に成功したらしい。


 救世主ですら勝てなかった相手。

 デュームル聖国の国民であるサンジェスさんが怯えるのも無理はない。


 だが、同じデュームル聖国の国民でも相手の正体を知っているからこそ怯える。


「なっ、あいつら何を考えている!?」


 冒険者を投げ入れられ、挑発された騎士が砦の外に出る。


「我々は誇り高きデュームル聖国の騎士だ。決して、お前のような魔族に負けたりしない」


 騎士の中にも相手の魔力から魔族だと判断できる者が混じっていたらしく、隊長らしき人物が高らかに宣言していた。


 剣を振り下ろした合図と共に10人の騎士がたった一人の相手に駆け出して行く。


「悪いが雑魚には興味がないんでな」


 突撃した騎士が空高く打ち上げられている。

 その腕や足はあり得ない方向に折れており、中には胴体が上下に千切れている者までいた。


 圧倒的なステータス差があるからできる事だ。


「あ、ああ……」


 突撃指示を出した騎士が怯えている。


「恩を売るにはちょうどいいんだけど、早すぎだろ」


 全滅されてしまっては恩を売るどころではないのでギリギリで助けに入るつもりだったのにパラードが現れてから1分と経っていない。


「ちょっと行ってきます」

「おまえ……!」


 静止しようとサンジェスさんの言葉を無視して窓から飛び降りる。


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