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第13話 境界線の偵察

 2日目の今日は砦から更に北へ進んで仮設の拠点を確かめてみる。


「なるほど。たしかにこれは使いたくないな」

「まさか泊まるなんて言わないわよね」

「俺だって嫌だよ」


 仮設の拠点は、床や壁は魔物の襲撃にもある程度耐えられるよう頑丈に造られているものの掃除が全くされていない小屋のような建物だった。

 小屋の裏に回ってみると後始末がほとんどされていないトイレがあった。女性陣は使いたくないだろう。


「ふわ~わ」


 小屋の周りを見ているとドアを開けて一人の大男が出て来る。


「なんだボウズたちは?」

「初めまして」

「この辺では見ない顔だな」

「はい。昨日砦に来たばかりです」


 大男がジロジロと俺の事を見て来る。

 嘘も言っていない。不審な点はなかったはずだ。


「おまえ……強いな」

「は?」

「それも俺がどう頑張ったところで届かないような強さだ」


 一体何を言っているのか分からない。


「俺たちぐらいになると相手が強いのか弱いのかなんとなく分かる。俺も自分を基準にして相手が強いのか判断する事ができる。で、俺なりに判断した結果、お前が隠している実力は俺以上だと判断した」


 収納しているステータスを全て出せば、たしかに超人レベルにまで到達することができる。

 それを勘だけで把握したらしい。


「それ、本当ですか?」

「俺にはただのガキにしか見えませんね」


 小屋の中から二人の冒険者が出て来る。

 二人とも軽装で、一人は腰に短剣を差しており、もう一人は剣を持っていたが、先に出て来た大男に比べて小柄な体格をしていた。


「ああ、間違いない」

「まあ、サンジェスさんがそう言うなら間違いないんでしょうね」


 サンジェスと呼ばれた大男がニヤニヤとした笑みをこちらへと向けて来る。


「今度、時間があったら手合わせでもしようじゃないか」


 サンジェスさんが提案してくるが、どうすればいいのか分からない。


「おまえ……サンジェスさんを知らないのか!?」

「よせ、こいつらは昨日砦に来たばかりの新人だ。ウィルニアでもそこそこ有名だが、こいつらの顔は俺も本当に知らない。おそらく最近まで他国にいてデュームル聖国に来たのも最近なんだろう」


 正解。


「俺たちは、こんな危険な場所で10年以上も討伐を行っている変わり者なんだ。そのせいでちょっとばかし有名なんだよ」

「変わり者?」

「ああ、ここに来る奴の大半は金稼ぎが目的だ。ここなら珍しい魔物でも大量に現れてくれるし、素材の買取価格も他の国より高い。実力はあるけど金のない奴が主に派遣されて、ある程度金が溜まったら出て行くのが普通なんだよ」

「では、みなさんは金がないんですか?」


 そんな事はあり得ない。

 彼らは10年以上もここにいると言っている。

 本当に金に困っているだけなら問題を解決できるだけの金が集まっていてもおかしくない。


「俺たちがここで戦っているのは魔王軍の侵攻を食い止める為だ。金が目的なんかじゃない」

「ま、生きる為には金が必要なんで報酬はきちんと貰っていますけどね」

「キド」


 帯剣した冒険者が実も蓋もない事を言う。

 俺も無償での討伐なんて絶対にやりたくない。


「……俺たちはデュームル聖国にある小さな村で生まれた人間だ。前回の魔王復活があった時にどんな虐殺が行われたのか村には伝承として残されている。そんな話を村の爺さん、婆さん連中から聞かされていたからな。ちょうど俺がベテランになる頃には魔王が復活するって分かっていたから自分の国は自分で守れるぐらいに強くなりたいんだ」


 その為に危険な場所で修行に明け暮れていた。


 最後に「異世界から来た勇者なんかに頼らなくてもいいぐらいに強くなりたい」と言っている。


 こういう人たちがもっと多くいてくれたなら俺たちが召喚されるような事もなかったに違いない。この世界の人たちが安易に異世界からやって来た者が持つ強大な力を頼ってしまったばっかりに俺たちは誘拐されてしまった。


「頑張ってください。ただ、俺たちも修行目的ですから色々と教えてくれると助かります」

「ほう……」


 サンジェスさんの目が細められる。


「それだけの力を持っていながら、まだ力を追い求めるのか」

「いいえ、まだまだ足りないんですよ」


 俺たちの目的を叶える為には誰よりも強くなっている必要があるかもしれない。


 それに、まだ『魔王が元の世界に帰る方法』を知っている可能性だって残されているかもしれない。そうなった時、魔王を倒せるだけの実力を持っていた方がいい。


「いいだろう。何か目的があるみたいだが、協力してやる」

「ありがとうございます」


 近くにいたショウとハイタッチする。

 これで探索に費やす1日が浮いた事になる。


「……と言っても俺たちが教えてやれる事なんてこの場所に出て来る魔物についてちょっと教えてやるぐらいだな」

「それで問題ありません」


 実際、魔物の詳細な倒し方を知っているのかだけでも勝敗を別つ可能性がある。


「アニキ、どうしてあいつらに協力するんですか?」

「魔物の情報だってタダではありませんよ」

「俺にも分からねぇ……ただ、俺の勘が魔王から国を守る為ならあいつらに協力するべきだって囁くんだよ」

「アニキの勘ですかい?」


 普通なら一笑に付すところだ。

 しかし、サンジェスさんには十分な実績がある。


「分かりました。俺たちも可能な範囲で協力します」

「すまねぇな」

「いえ、それを覚悟で俺たちもここにいます」


 随分と優秀なパーティだ。


「じゃあ、あの魔物は何ですか?」


 早速聞いてみる事にする。


「ん? あれは、スカイウィングだな」


 空に蒼い鳥がいたので尋ねてみたところ魔物だったみたいだ。

 その鳥が普通の鳥に見えたのなら聞いたりする事はなかったのだが、その鳥は体長が人ほどあり、翼を広げると5メートル近くになる大きな鳥だった。


「奴は空を飛んでいると周囲の景色に溶け込む事ができるんだ。ただ、短時間しか効果がないから主に逃げる為に使われる事ぐらいしかない」

「もしかして弱いんですか?」

「単体での戦闘能力なら大したことがない。俺なら片手間で倒せるぐらいだし、ここに来られるだけの実力を持った冒険者なら数人で囲めば問題なく討伐する事ができるぞ」

「なんだ……」


 サンジェスさんの話を聞いてハルナがホッと胸を撫で下ろしていた。


 ただ、思い出して欲しい……サンジェスさんは数人で囲む事ができれば、と言った。


 そして、スカイウィングは空を飛んでいる。

 一体、誰がどうやってスカイウィングを地面に落とすのか。


「だから俺は戦わない」


 あっさりとサンジェスさんが教えてくれた。


「普通は弓や魔法を扱える人間が遠距離から攻撃して落とすんだが、俺たちのパーティの中にそういった器用な芸当ができる奴がいないんだ。なんせ俺たちは全員が前衛の集まりだからな」

「え、えぇ……」


 せめてパーティメンバーを探すなりすればいいのに前衛だけでガッチリと固めてしまうつもりらしい。

 だから攻撃が届かないスカイウィングなんかの相手はしない事にしている。


 とりあえず攻撃しない理由は分かった。

 俺が自重するような理由ではなかった。


「とりあえず落としますね」

「は?」


 サンジェスさんが呆気に囚われている中、右手に持った銃をスカイウィングへと定める。


 ――ドサッ。


 スカイウィングが地面に落ちた音が響き渡る。

 銃の先端から発射された金属の小さな塊がスカイウィングの脳を貫いていた。


「行きましょう」

「あ、ああ……」


 地面に落ちたスカイウィングを回収する。

 いくらで取引されるのか知らないが、ベテランが忌避している以上それなりの需要がある可能性が高い。


 スカイウィングを収納する。

 収納の中に入った素材の状態を確認すると俺が撃ち抜いた眉間以外に外傷らしい外傷もないのでそれなりの金額で取引される事は間違いない。


 それよりも気になるのは……


「サンジェスさん、とりあえず砦へ戻りましょう」

「何を言っている。俺たちは起きたばっかりなんだ。それに砦へ帰るのは数日に1回と決めている。魔王軍の大規模な侵攻があるわけでもないから俺たちはここで訓練をさせて――」

「――残念ですが、魔王軍の大規模な侵攻があります」


 だからこそ最大レベルの戦力であるサンジェスさんを連れて行く必要がある。

 襲撃の正確な時間は分からないが、俺が砦に戻って事情を話してサンジェスさんを呼び戻す為の時間がもったいない。だったら、ここで信用させて一緒に戻る方が効率がいい。


「どうして、そんな事が分かる」

「さっき倒したスカイウィングは魔王軍の斥候です」


 空の光景に溶け込む事ができるスカイウィングのスキルは逃走だけでなく、偵察にもかなり有効なスキルだ。


「俺が聞きたいのはどうしてそこまでの事が分かっているのかっていう事だ」

「奴の体に布が巻かれていました。そこには砦の現有戦力が細かく書かれていました」


 加護があるおかげで文字を読む事に関しては問題ない。

 ついでに東西南北のどこが手薄かまで書かれている。


 明らかに人の手で書かれた代物だ。


「……それが本当だとしたら急いで戻って対策をしないといけない」


 残された時間も少なさそうだ。

 だが、魔王軍を退けたとなれば活躍次第では領主との面会も可能になるかもしれない。砦にいる人たちにとってはピンチかもしれないが、俺にとってはチャンスだ。


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