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第12話 ハイオーク

「これからお前たちを監督する事になったウルガだ」


 1列に整列した俺たち4人の前に一人の男が立っていた。


「ここは人類にとっての最初の防衛ライン。それだけ危険な場所だという事を理解して欲しい」


 ここ――聖都ウィルニアの北にある砦。

 名前はノルフェ砦。


 砦より北は魔王が支配する領域となっており、魔王城に最も近い砦だった。

 もう少し近い場所にも拠点にできるような建物があるらしいが、仮設の建物なので大規模な襲撃があればすぐに壊されてしまうらしい。


 ゲーム風に言うなら魔王城の手前にある最後の街。


 とても異世界に召喚されてから1カ月程度で来るような場所ではないのだが、元の世界に帰るという目的を考えると多少の危険な道は避けてばかりもいられない。幸い、順調にチート能力は強化されて行っているので対応できる力がある。


「あの、俺たちはギルドから頼まれて砦へ来たんですけど」


 デュームル聖国では、誰かから頼まれて討伐に出掛けるというのが少ない。

 そのため砦への遠征も『お願い』という形で頼まれただけで、報酬の出る依頼という形ではなかったはずだ。


 なのに俺たちを出迎えた男の態度は上からだった。


「ここにはここのルールがある。冒険者と言えばきちんと守ってもらわなければ魔物が防衛ラインを越える事に成り兼ねない」

「……もしかして冒険者ではないんですか?」

「ああ、俺はデュームル聖国の騎士団所属だ」


 レイが気付いた。

 騎士鎧を着ておらず私服だったからすぐに分からなかったが、ウルドは冒険者ではなく騎士だった。


 騎士、というだけで俺たちにとっては忌避すべき相手だ。


 たとえ頭ではデュームル聖国の騎士は別物だと分かっていても魂が騎士を拒否する。


「あなたの言いたい事は理解できるんですけどね」


 ショウも理解していたみたいだ。

 魔王直属の魔物ということは、大昔に攻められたように群れではなく軍隊。

 軍隊ほどの規模が相手とあっては冒険者パーティで対処するには数が単純に足りない。複数のパーティが組んで事に対処する必要がある。


 そうして、その指揮を執るのはデュームル聖国の中でも選ばれた騎士とされていた。


 だが、自由を尊ぶ冒険者がそんな指揮に従わなければならない状況を享受できるはずがない。


「こっちはこっちで自由にやらせてもらう」

「なっ!?」

「魔物はきちんと討伐するんですからいいですよね」


 こういう事になっているのを事前に冒険者ギルドで先輩冒険者から話を聞いて知っておいた。


 冒険者には自由が保障されている。

 代わりに国に仕える騎士から守られる優先度は低い。


 俺たちは既に自分の身は自分で守れるだけの力は得ているので気にせず出て行く。


「ま、待て……!」


 砦の中にある一室で話をし終えた後は、いきなり出て行く俺たちの姿に呆然としていた騎士だったが、俺たちが砦を出た後も付いて来ていた。


「何ですか?」

「きちんと統率された行動をしてくれないと困る。軍隊としての働きがどれほど重要か……」

「あなたは自分の昇進の為に駒のように扱える人材が必要なだけでしょう」

「……」


 反論はない。

 冒険者ギルドで先輩冒険者から砦に着いたら騎士の誰かが新人を自分の指揮下に置こうと動いて来るから無視するようにと教えられていた。

 その行動が本心から国を守る為の行動だったなら問題なかったのだが、少しカマを掛けたところで動揺しているようでは本当に自分の昇進の為に俺たちを駒のように使い捨てるつもりだったみたいだ。


「砦に近付く魔物がいないように戦いますから問題ないですよ」

「だが、君たちみたいな新人に何ができる――」

「そうですね」


 近くに魔物がいないか探す。


「あれなんかどう?」


 俺が気付くよりも先に視力を強化させたハルナが気付いた。


「あれは、ハイオーク!」


 体長2メートルを誇る巨体の豚頭。

 しかし、300メートルほど先から迫って来るオークは3メートルぐらい軽くありそうな巨体だった。


「ハイオークはベテラン冒険者でなければ対処できない。しかも8体もいるとなれば緊急事態だ。俺は砦に知らせて応援を呼んでくる!」

「必要ない」


 今にも砦へ引き返しそうなウルドを止める。

 せっかくの獲物だ。俺たちの手で倒させてもらおう。


「とりあえずどうやって戦う?」

「安全策を取って一人1体っていうのはどう?」

「分かった」


 ショウ、ハルナ、レイの3人がハイオーク1体を相手にする。

 実力だけを考えるなら俺一人で倒してしまっても問題ないだけのステータス差があるはずなのだが、ちょうどいい機会なので俺たち全員の実力を見せる事にした。


 その為には俺一人で倒してしまっては問題になる。


「じゃあ、俺が5体を倒すか」


 とりあえず先頭を走っているハイオークを薙ぎ倒せばいいか。


 銃を取り出す。

 トリガーを引くと周囲の地面に穴が空き、目の前に展開された魔法陣から直径3メートルほどの大岩がいくつも飛び出して行く。


 飛んで行った大岩は先頭を走っていたハイオークに次々と当てるとボーリングのように倒して絶命させて行く。


「はい、終わり」


 遠距離から突然現れた大岩。

 進化種とはいえ、知能が低いオークということもあってハイオークたちは訳も分からず倒されて行った。


 残りは4体。

 5体倒すつもりでいたが、運よく目の前を走っていたハイオークがしぶとかったせいで仕留めきれず、後ろにいたハイオークの1体だけが無傷でいる事ができた。


「これで数はちょうどよくなっただろ。後は好きなようにやれ」

「ああ」

「うん」

「……はい」


 武器を手に駆け出す。

 メタルスライムのシルバーを槍状に展開させたショウなら苦戦することなくハイオークを討伐する事ができるはずだ。


 ハルナやレイにしても昨日の討伐結果からスキルが順調に強化されている事が窺える。心配するだけ無意味だろう。


「さて……」


 俺も収納から剣を取り出す。


 ただし、王剣ではなく普通の剣だ。

 魔力を流せば流すほど、そのまま斬撃の力へと変えられる王剣を使えばハイオークなど簡単に両断する事ができるのは間違いない。


 しかし、それでは俺のステータスがラストダンジョン近くの魔物にどれだけ通用するのか分からない。


 今後の為にも基準は知っておいた方がいい。


 走りながら中央にいるハイオークに向かってトリガーを引く。

 次に飛び出して来たのは通常サイズの弾丸だ。

 ただの金属を弾丸状に刳り貫いただけの金属の塊は、ハイオークの体に減り込むとよろけさせて倒す。


「悪いな」


 銃という武器を知らないハイオーク。

 逆にハイオークが持っているのは木の棒に尖った石を付けただけの手斧。


 倒れながらも手に持った手斧で防御しようと掲げるハイオークだったが、手斧をスパッと切断し、首すらも斬り裂く。

 首を切断されて血を流すハイオーク。


「……参考にならないな」


 けっこう手加減をしたにも関わらず簡単に切断できてしまった首。

 これは、今後の事について考える必要があるかもしれない。


「そっちも終わったみたいだな」


 ショウが相手にしたハイオークは左胸を鋭く抉られており、心臓の代わりにあった魔石が完全に破壊されていた。


 ハルナは速さを活かして死角からハイオークの体をズタズタに斬り裂いて、体力を消耗させたところで比較的安全な後ろから近付くと首を斬っていた。


 レイの倒したハイオークは地面に倒れているものの体がピクピクと動かしているので、まだ生きているみたいだ。


「止めは差さないのか?」


 止めまで差した方が多くの経験値を得る事ができる。

 今後の事を思えば少しでもレベルを上げておきたい俺たちとしては早くレベルを上げておきたい。


「わたしの力では足りません。だから待っているんです」


 ハイオークの痙攣が止まった。

 試しに収納してみると成功したので死んで生物ではなくなったみたいだ。


「ちょっと新しい毒を開発してみたのでハイオークを相手に試してみたのですが、即効性がある代わりに毒が全身に回るまで時間が掛かり過ぎますね」

「随分と余裕だな」


 騎士が逃げ出そうとしていたようにハイオークは十分に脅威となる。

 そんな相手でも実験を優先させたレイは十分に異世界に適応し始めている。


「これで、ある程度は俺たちの事は認めてもらえましたか?」


 ウルドが首を縦に何度も振っている。

 どうやら恐怖の対象であったハイオークを討伐した事で俺たちの事まで警戒させてしまったみたいだ。


 他のハイオークも収納した後は砦の周囲を歩きながら確認して、砦へと帰る事にする。


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