第11話 規格外な納品
突然、倉庫内に現れた灰色の狼。
「こいつは、ダイアウルフか」
「まさかダイアウルフを狩ってしまったのか?」
いつの間にか他の作業をしていたギルド職員まで近付いて来ていた。
「な、なに……?」
対してダイアウルフと呼ばれた魔物を取り出したハルナは戸惑っていた。
まさか自分が狩って来た魔物がそこまで注目されるような代物だとは思っていなかったが故の反応だ。
「あの……ダイアウルフは狩ってはいけなかった魔物だったのでしょうか」
既に買取を終えたレイが聞く。
彼女にしてみれば、これから行われるのは見世物みたいなものだった。
「いや、禁止されているわけじゃない。ただ、南の森では主みたいな存在だったから危険すぎて誰も手出ししていなかったんだ」
「え、けっこう簡単に討伐できましたけど……」
「……お前、どうやって討伐したんだ」
アルバンさんやギルド職員の驚きようを見ていると本当に危険な魔物だという事が分かる。
俺に問い詰めるような資格はないが、聞き出さなくてはならない。
「そんなに難しい事はしていないわよ。あたしの姿を見つけると森の中にある木をいくつも薙ぎ倒しながら近付いて来たから強度を強化させた木に誘導させてぶつけたら鼻を強打したらしくて悶えていたから、その間に短剣でめった刺しにしてやったわ」
その最後を聞くと随分と憐れに思えて来る。
せっかく猟犬のように餌となる相手を見つけて追い掛けていたのに曲がり角で鼻をぶつけて、痛みを堪えている間に討伐されてしまった。
これも強化魔法のスキルを持つハルナだからこそできた方法だ。
「他は雑魚ばっかりですね」
ダイアウルフが引き連れていた狼が何体かいた。
一体一体はレイの倒した魔物よりも強いので買取価格は高いし、数も少しだけ多いのだが、森の中で慌てながら戦っていたせいか素材の状態が少しだけ雑になっていた。
「ま、これだけの量を一気に納品してくれたんだから、少しだけおまけしてやる」
「ありがとうございます」
そう言って金貨2枚を受け取る。
少しだけおまけしてくれてレイと同額なのか。
単純なハルナはそこまで気付いた様子はない。
「で、お前さんはどんな物を持ってきたんだ?」
もう驚くまいとしているアルバンさん。
「僕は魔物を倒して来たわけじゃないんです」
「それじゃあ……」
「途中で盗賊に襲われている新人冒険者がいたので助けるついでに盗賊団を殲滅して、持っていた財宝も奪って来ました」
そうして倉庫に並べられる金銀財宝。
これまでに多くの商人を襲って来たのか多種多様な品物が置かれ、中でも一番多かったのが剣や槍といった武器だ。そういった代物が多いのは魔物による被害が深刻なデュームル聖国らしいと言えばらしい。
「これは数日前に納品されるはずだった槍です」
「本当か!」
「はい」
ギルド職員がショウの取り出した槍を掴んで驚いている。
「本来なら聖都へすぐに納品されるはずだったのですが、途中で盗賊に襲われてしまったせいで商品の一部を置いて来てしまったとの事です」
しかし、商品を犠牲にして馬車を軽くし、さらには何が詰まっているのか分からない箱を投げ捨てた事で盗賊の注意がそちらへ向けられた。
商人としては低価で売り払う予定の槍を捨てただけだったらしいのだが、武器を必要としている盗賊としてはこの上なく嬉しい代物だったらしい。
「他にも色々とあるんですけど、いくらで買い取ってくれるのか分からないので鑑定だけでもお願いしていいでしょうか」
ショウが取り出した物はそれなりの数になる。
しかもアイテムボックスの中には盗賊が貯め込んでいた現金が手付かずのまま残されている。さすがに現金の鑑定など意味がない。
「これで、全部……というわけでもないんだろ」
「はい」
「だったらこれだけ渡しておく」
投げ渡された皮袋を広げて中身を確認してみる。
レイやハルナとは違って金貨30枚が詰まった袋だった。
「盗賊討伐はそれだけで報酬が出る。それでなく倒した盗賊に賞金でも懸けられていた時には懸賞金を受け取る事もできる。今渡した金は、お前が持ち帰ってくれた武器なんかの買取価格だ」
「ありがたく受け取ります」
レイの綺麗な素材、ハルナの強力な魔物、ショウの金銀財宝。
倉庫にいたギルド職員の注目は十分に集める事ができた。
今回の俺たちの目的は報酬を得る事以上に注目を集める事にあった。
「それで、最後の奴から話を聞くのが怖いな」
「嫌だな。ちゃんと真っ当な素材しか渡さないですから」
「お前が行っていたのは北側、だったよな……まさか!」
「さすがに砦を越えるような真似はしていませんので安心して下さい。」
北側には魔王軍の侵攻に耐える為の砦があった。
砦から先と近辺は、本当に危険な場所だと認められており、ギルドから高ランク以外の冒険者は立ち入りを禁止されていた。
俺たちのEランクでは足りない。
だが、目的を果たす為には砦を越える必要がある。
「とりあえず俺が討伐して来た魔物の中で一番強そうな魔物を出します」
大きな音を立てて現れた倉庫を埋め尽くすほどの巨体を持つ竜。
「おいおい……こいつは亜竜じゃないか」
ワイバーンの中でも被膜が翼のようになったドラゴンだった。
俺が以前に討伐したレッドドラゴンの劣化版のような存在がワイバーンで、ドラゴンに比べれば大した強さを持っていない。
「ワイバーンが相手なら冒険者パーティが複数いれば討伐する事ができる。だが、お前は単独で討伐したんだよな」
「そうですよ」
「それよりも確認したいのはワイバーンと戦った場所だ。こいつは砦の向こう側でしか現れない魔物だ。本当に砦を越えていないんだろうな」
「本当に越えていませんよ。境界線近くを歩いていたら砦の向こう側から傷を負ったワイバーンが現れたので討伐しただけです」
「そ、そうか……」
もっとも境界線をしっかりと確認する為に地図を見ながらの移動になっている。
そこからルールを犯さないようにしっかりと後ろへ離れてからワイバーンを討伐した。
「傷を負っていたのなら勝てたのも頷ける」
傷、と言っても翼に矢を1本だけ受けていただけだ。
あの程度の傷ならある程度の時間が経てば自然と回復したはずなので、実際にはほとんどダメージなんてなかったようなものだ。
「おいおいワイバーンの単独討伐なんて初めてみたぞ」
「馬鹿野郎。あんな事は伝説に出て来るような勇者じゃないとできないんだ」
「そっか」
「けれども、勇者は仲間の支援を受けながらだ。ソロで討伐したって事は仲間の援護もなく討伐した事になる。そんなのは勇者でも難しいぞ」
ワイバーンを見ながら倉庫にいた冒険者たちが話している。
実際にはその勇者の一員だった。
その事実を知っているアルバンさんが必死に笑いを堪えている。
「このワイバーンはこっちで引き取らせてもらう。だが、報酬の方は少し待って欲しい。さすがに大金をすぐに用意するのは無理だ」
「いいですけど、その代わりに欲しい物があります」
「……何だ?」
一体、どんな要求をされるのか?
俺たちがこれまでに出した物を思えば怯えられてしまっている。
「難しい事ではありません。俺たちの実力はある程度分かったと思います」
「ああ、そうだな」
「ですから北側の砦へ行く許可を貰うことはできませんか?」
「いいのか? 北側には本当に危険な魔物ばかりだぞ」
「だからこそ行くんですよ」
討伐が難しい魔物を倒すほど俺たちの名も上がって行く。
冒険者として名を上げるなら、手っ取り早い方法だ。
「分かった。上には俺の方で掛け合ってみる。だが、お前たちのランクが低くてもこれだけの物証を出してくれたんだから問題ないと思う」
「ありがとうございます」
今はまだ準備期間。
バンバン魔物を倒して行く事にしよう。
けど、今の俺たちはそれ以上に危険な存在と対峙させられる事になるとは思ってもいなかった。
ワイバーンを倒して来た主人公も森の主的なダイアウルフを討伐したハルナにどうこう言う資格はない。




