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第9話 聖典

「ただいま」

「おかえり」


 大聖堂から宿屋に戻って来るとショウとレイが迎えてくれる。

 異世界にいても、帰ればこうして誰かに迎えてくれるというのは嬉しいものだ。


「それで、聖典の中身は分かったの?」

「そっちはバッチリ」


 改めてハルナにも聖典がどのような中身だったのか説明する。


「聖典は、前回の勇者召喚でこの世界に召喚された勇者の一人がスキルを強化させ続けた結果、手に入れた魔法道具だった」

「そんな事があるの?」

「スキルは強化させ続ければ専用の魔法道具が生まれてスキルを強化してくれる効果があるらしい」


 少なくとも聖典にはそう書かれていた。


 となると特殊な力を持った魔法道具は、強化の果てに具現化したスキルの可能性が高い。

 元の世界に帰れる魔法道具もそういった可能性がありそうだ。


 諸々の事情が聖典の最初の方に日本語で書かれていた事を説明すると3人とも救世主が日本から召喚された勇者である事、強力な効果を備えている事に納得してくれた。


「それで聖典の効果――勇者が持っていたスキルっていうのは?」


 余程気になるのかハルナが焦りながら聞いてくる。


「やっぱり伝承にあるような光を生み出すようなスキルかな?」


 伝承では聖典から放たれた光が魔物の軍勢を退けた、とあった。

 だが、残念ながら光は勇者のスキルとは無関係だ。


「光――光魔法については、聖典を持っていた勇者が努力の末に手に入れたスキルらしい」


 人間、努力をすれば後天的にスキルを手に入れる事がある。

 救世主も努力した結果、光魔法を自由に使えるスキルを身に着けていた。


「救世主が勇者召喚されて身に着けたスキルは『時間の巻き戻し』だ」

「は?」


 強過ぎる効果に口を開けて呆然としている。


 俺も聖典を読んだ時には呆れてしまって声も出なかった。


 ただし、救世主が手にした時も最初はそこまで強すぎる力ではなかった。


「時間の巻き戻し、と言っても最初は数秒から10秒が限界だったらしい」


 たったの数秒だと思うかもしれないが、戦闘においてはその数秒が勝敗を別つ事だってある。


 ただ、本人のステータスがそれほど高い方ではなかったので国からは重宝される事はなかったらしい。


 しかし、結果を見ればそれで良かったのかもしれない。


 国から重宝されず、俺たちほど酷い目に遭わなかったものの救世主――セイジは色々な国を研鑽しながら旅をしていた。

 旅の中、困っている人を助け、どうしようもない状況でも数分前まで戻せるようになったスキルを駆使して色々な人を救っていた。


 だが、自分が勇者の一人である事を知った人から心無い言葉を受けてしまった。


 ――お前が間に合っていれば!


 その人物は、魔物の大攻勢を受けて滅んでしまったデュームル地方の住人の一人だった。


 本来の歴史では、デュームル地方は国から見捨てられ何も聞かされていなかった人々は国の救援を信じながら魔物の攻撃に耐えていた。しかし、気付いた時には村や街は蹂躙された後で、わずかな生き残りがいるばかりだった。


 国からの正式発表では軍隊を派遣するものの間に合わなかった。

 しかし、当事者である生き残った人は軍隊が魔物の蹂躙後にも現れてくれなかった事を知っている。


 最初から国に見捨てられていた。


 その理由も召還したばかりの勇者を守る為だった。


 現に戦力を集中させたおかげで、王都で待機していた勇者は全員が無事だった。


 セイジも王都に残っていた一人だった。


 その事実を知った瞬間、セイジの中で後悔の想いが高まった。


 ――自分たちは何をしていた。勇者じゃなかったのか!?


「気が付けば魔物に襲われる数日前にいたらしい」


 しかも、その時から2年近い時間が経過していたにも関わらずステータスは貧弱だった頃のものではなく、鍛えられた時のままだった。

 現在の状況を考えてある結論に至った。


「時間遡行能力が進化した。おそらくセイジが過去の出来事を後悔した結果、後悔を打ち消す為に必要な瞬間まで時間を巻き戻す能力が発現したんだ」


 俺の収納魔法も似たような感じだ。


 本当に最初は物を亜空間に出し入れする能力しかなかった。

 その後、自分で試行錯誤する内に俺の願いに反応するように新しい能力が発現してくれた。


 今回、大聖堂で使用したスキルだって収納した本に検索機能が付けられたら、と考えている内に発現してくれた能力だ。


「その時に初めて手にしたのが聖典だ」


 スキルの進化に伴って生まれたのが聖典。


「聖典の能力は二つ。一つ目は、手にした人間が魔力を注ぐとその人が過去に体験した出来事が日記のように記されて行く。二つ目は日記に書かれていた状況まで時間を巻き戻す能力」


 日記の自動筆記。

 過去の時点まで遡る能力。


 『後悔』という強い想いが必要になるが、日記に書かれた内容をやり直す事ができるようになるスキル。


 俺の収納魔法もいつの間にかチート能力になっていたと思ったが、時間遡行能力に比べれば大した事がない。


「あの、聖典って救世主さんじゃないと使えないんでしょうか?」

「そんな事はない」


 例えば、俺が聖典を手にした状態で魔力を流せば俺の過去が新しいページに記される事になる。

 収納した事で聖典の使い方も分かっているので、俺でも聖典を使用する事ができる。


「もしかすれば、過去に戻れる魔法道具があればこの世界に来るという過去をやり直す事ができるんじゃないでしょうか」

「……!」


 ショウもハルナもその可能性に気付いたみたいだ。


 ただ、俺としてはそこまで上手く行くとは考えていない。


「まず問題点がある。もしも、過去に戻れてこの世界に来るという出来事を変える事ができるならどうして救世主は過去に帰らなかった? しかも、その後は建国にまで協力している」


 少なくとも前の持ち主は失敗している。

 後悔を打ち消すというなら十分な後悔があったはずだ。


 何らかの理由があって異世界に来るという事実を書き換える事ができなかった可能性もあるが、聖典に理由が書かれていなかったので実際に試してみない事には分からない。


「そして、俺たちが試しに使うにはリスクが付き纏う」


 一度でも使用すれば日記の新しいページに使用者の過去が記される。

 厳重に保管されていたのですぐに確認される事はないだろうが、さすがにそんな状態の聖典を見れば誰が使用したのか一発で知られる事になる。


「俺は犯罪をするつもりはないぞ」

「え、でもさっきは……」

「あれは借りただけだ」


 現に5秒後には元の状態に戻している。

 無断で借りただけだ。


「でも、盗むだけなら簡単なんだろ」


 ショウが言うように簡単だ。

 なんせさっきと同じように借りた後で返さなければいいだけだ。


 それでも自分から罪を犯すつもりはない。


「メグレーズ王国の宝物庫から貴重な代物をパクって来たのは先に俺たちを裏切ったのが向こうだったからだ」


 勝手に召喚しておきながら自分たちの都合で捨てようとした。

 それだけでも許せないのに元の世界に帰る方法がない、という事実。

 過去の勇者の境遇。


 様々な要因が重なった結果、メグレーズ王国に対しては一切に容赦をしないと決めたから敵対した相手にも非情になれた。


 しかし、デュームル聖国には今のところ貸しがない。


「でも、聖典の力は試してみるんだろ」

「もちろん」


 使っても帰れない可能性の方が高い。

 しかし、帰れる可能性が僅かでもある。

 試さずにはいられない。


「当面の目標は、何らかの理由で聖典を使わせてもらえるようになる事だな」


 それが、どんな方法なのかは今のところ分からない。

 だからこそ明日からは我武者羅に頑張ることにしよう。


聖典の正体は時間遡行が可能な日記でした。

ええ、チート能力が魔法道具として具現化してから本領発揮なように主人公たちのスキルも未だ発展途上です。

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