第7話 大聖堂
昨日は1日討伐に費やした。
おかげでデュームル聖国での稼ぎ方が少し分かった。
タイヤができるまでも数日掛かる。
というわけで、今日は休息日にして4人で聖都の観光に出て来ていた。
「どこか観光スポットはあるの?」
お金を一切払わずに手に入れたガイドブックの情報だが、お金を払わなかった代わりに俺しか情報を閲覧できないという欠点があった。
そのためハルナに何か知りたい事があっても俺に聞くしかない。
「やっぱり1番有名な観光スポットは大聖堂らしい」
「大聖堂?」
デュームル聖国は魔物の軍勢から救世主が救った事に端を発して生まれた国だ。
そのため魔物の軍勢を退けた土地は聖地とされ、聖地に造られた都市が聖都と呼ばれるようになった。
そんな場所の影響か神を称える教会が大きく造られていた。
「教会って言ってもイベントがあれば結婚式やら集会所として使われるような場所で、他には救世主に関する出展とかもやっているらしい」
「では、せっかくだからそこへ行ってみましょう」
「そうね。誰か物好きがいれば結婚式をやっているかもしれないし」
結婚式、と聞いてやる気を見せているレイとハルナ。
やっぱり女子だと惹かれるものがあるのだろうか。
大聖堂は聖都の中心にあった。
真っ白な壁に門を支える大きな柱。
これは教会というよりも神殿の方がイメージは近いのかもしれない。
少し北へ進んだ場所には市役所のような庁舎があるので、どれだけ大聖堂が重要な場所なのかという事が窺える。
「結婚式とかそういうイベントはやっていないみたいね」
「冷やかしに来たんじゃないんだから……」
ガッカリしているハルナをショウが嗜めている。
そうして中に入ると思わず声が漏れる。
「おおっ……!」
教会の奥には大きなステンドグラスがあり、外から入って来る太陽の光を受けてキラキラと輝いている。
近くには俺たちと同じように観光目的で大聖堂に来た人がおり、口を開けて呆然としながらステンドグラスを見上げながら横に歩いていた。
「みなさんは大聖堂の利用は初めてでしょうか?」
俺たちもステンドグラスに見とれていると笑顔のシスターが近付いて来た。
「はい、そうです」
「初めていらっしゃった方はみなさん似たような反応をされますね」
近付いて来たシスターに金貨数枚を渡す。
「こ、これは……」
「寄付です」
本当は見返りを求めたお布施だ、
この大聖堂は救世主に最も縁のある場所で、奥には救世主縁の魔法道具などが安置されているとガイドブックにも書かれていた。
問題は、大聖堂のどこにあるのか分からないところ。
そのため大聖堂に詳しい人から聞くことにした。
「ここには救世主様が使った魔法道具なんかもあるそうですね」
さらに金貨を1枚握らせる。
「こ、困ります……」
困った顔をしているシスターを無視して顔を近付ける。
「俺たちは冒険者をしながら魔法道具について色々と調べている者です。旅の途中で救世主様の噂を聞いて立ち寄ったのです」
靡く様子がなさそうなので今度は銀貨を5枚握らせる。
大量の金貨の後に銀貨を渡す。
金貨を渡した方が効果的な気がするが、今までに渡した金貨は教会への寄付。対して銀貨はそれよりも価値が低く、渡す時に『教会への寄付』とは一言も言っていない。
これまでに金貨を何枚も渡しているのだから不足しているという事はない。
嘘の報告――銀貨を寄付されていない事にしても大きな問題はない。
「……少々お待ちください」
シスターが金貨を持って大聖堂の奥へと消えて行く。
銀貨はこっそりと懐にしまわれた。
「いいんですか? あんなに大金を渡してしまっても」
「たしかに一般人からすれば金貨を何枚も寄付するなんてもったいないかもしれないけど、俺の全財産からすればはした金も同然だ」
ほとんどメグレーズ王国の宝物庫から拝借してきたものだけどね。
「俺たちの目的を叶える為に必要な出費だ。これぐらいは許容しようじゃないか」
もしかしたら大聖堂で保管されている魔法道具の中に元の世界に帰る事ができる魔法道具があるかもしれない。
全ては必要経費だ。
そうして話しながら待っているとすぐに金貨を持って消えたシスターが白髪の男性を連れて戻って来る。
「お話は伺わせていただきました。私、この大聖堂で司教を務めておりますレゲールと申します。本来なら一般には解放されないのですが、信心深いみなさまには特別にご案内したいと思います」
何が信心深いだ。
実際には多額の寄付をしてくれたから俺の要望を叶えて今後も寄付を恵んでもらおうと考えていたくせに。
レゲールに案内されて奥にある部屋に入る。
広く作られたその部屋には様々な魔法道具がガラスケースに収められていた。
剣や槍、盾にガントレットまである。
「これが救世主様の遺された魔法道具でございます」
「……俺が聞いた話だと救世主は本を扱うとあったのですが」
「きちんとあります。それがこちらです」
部屋の1番奥にはガラスケースに入れられた本が台座の上に置かれていた。
それにしてはおかしい。
これまでにもいくつか魔法道具を見てきたが、全てに共通して魔力を感じる事ができた。
しかし、目の前に置かれた本だけでなく部屋の中にある他の魔法道具からも魔力を一切感じられない。
可能性があるとすれば……
「もしかして、このガラスケースそのものも魔法道具ですか?」
「その通りです。このガラスケースは如何なる魔法も弾き、攻撃魔法による破壊を防いでくれるだけでなく経年劣化からも守ってくれます。また、台座もかなりの重量があるので誰にも見つからずに持ち出すのは不可能になっています」
「弾く、と言ってもたとえば収納魔法で台座ごと持ち出すなどされては大変ではありませんか?」
敢えて自分はできるとは言わない。
「問題ありません。収納できるような重さをしていないので、台座を持って行かれるような事はありません。また、中身だけ持ち出すにしても収納魔法は直接手で触れなければ収納することができません。このガラスケースに守られている限り、救世主が持っていた本――聖典の守りは完璧です」
たしかにレゲールが言っていた事は間違いではない。
普通の収納魔法では、直接手で触れなければならないし、重さも50キロもあれば優秀な方だとされている。
しかし、俺が本気になればこの部屋にある貴重な品々を数秒以内に持ち帰る事が可能だ。
もっとも、そんな騒ぎになる事が間違いない事をするつもりはない。
「これが聖典ですか」
「はい。私も本の内容を直接見た事はないのですが、中には私たちの知らない言語で文字が書かれていたらしいです」
ガラスケースから取り出して直接見る為には大聖堂に勤める司祭では足りなかったらしい。
その後、レゲールさんの説明を受けながら部屋にある魔法道具を確認して行く。
他の魔法道具は、魔物との軍勢とも戦えるように救世主が一緒に戦った仲間に齎した武器や防具で剣先から電撃を放出してスパークさせたり、ガントレットを頑丈にしたりする効果があった。
ガラスケースから出す事はできないので説明を受けながら眺めているだけだ。
実際に目にしたわけではないので確証はないが、残念ながら世界を越えられるような魔法道具はない。
「どうでしたでしょうか?」
「大変勉強になりました。さすがは魔王軍とも正面から戦った救世主様だ」
「ありがとうございます」
軽く挨拶を交わすと大聖堂を後にする。
4人で歩きながらチラッと振り返ると魔法道具が安置されていたらしい場所を確認する。
「それで、どうするんだ?」
「ちょっと気になる事があるから聖典の中身は確認させてもらう。夜になったらもう1度来るに事にしよう」
決行は夜。
数秒以内に返す事を約束するので見逃して欲しい。




