表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/236

第4話 聖都

 聖都ウィルニア。

 デュームル聖国に入国してからというもの聖都のある北東に向けて移動し続けていた。


 聖都の周囲には長閑な草原が広がっており、とても魔物の脅威に晒されている国の首都は思えなかった。


 だが、そんな長閑な光景の中に聖都は高い壁に囲まれていた。

 周囲の景色と比べて聖都だけ硬いイメージがあった。

 てっきり聖都なんて名前からして荘厳な場所なのかと思っていた。


「凄いだろ」

「ええ、そうですね」

「聖都は魔王が復活した大昔に魔物の脅威から人々を守る為に当時の人たちが何もない場所に一から造った都市なんだ。当時は魔物の脅威も深刻だったから、ああして外壁を高くして守っているんだよ」


 護衛する馬車に並んで歩いていると前にいた冒険者が教えてくれた。


「みなさんはこの国の出身なんですよね」

「そうだ。こんな魔物が多い国で生きて来たせいかレベルもかなり高いぞ」


 人数のうえで不利だった二人は通してしまったとはいえ盗賊を圧倒していた光景から強い事は窺える。


「俺たちはこの国に来たばかりなので色々と教えてくれると嬉しかったんですけど……」


 聖都を目の前にした今さらお願いするのにも理由があった。


「だったら、前にも言ったようにコレを用意するんだな」


 親指と人差し指で丸を作って差し出してくる。


 金銭を要求されていた。


 冒険者だって金が必要になる。そうなると彼らの財産である情報を求めようとすれば金銭を要求されるのは当然だった。


 相手は俺たちのランクを知ったうえで所持金を予想し、ギリギリ手が出せそうな金額を要求していた。

 俺の収納には余裕で払えるだけの金銭があったが、不用意に大金を持っている事は知られたくなかった。


「……じゃあ、いいです」

「そうかよ」


 結局、断るしかなかった。



 ☆ ☆ ☆



 10メートル近くある壁の門で商人たちが荷物の検査を受け、俺たちも冒険者の身分を証明して聖都の中に入れるようになった。


 ここまで来れば安全になったようなものだが、完全に気を抜くわけにはいかなかった。

 都市の中でも盗賊に襲われる危険性はある。とはいえ、都市内での襲撃にはすぐに警備兵に追われるというリスクが付き纏うので危険性はかなり低い。


 しかし、警戒は杞憂に終わった。


「みなさん、今回はありがとうございました」


 商人の馬車が大きな商店に着いて護衛は終了となった。


 依頼主である商人にサインを依頼票にしてもらう。

 これで依頼完了だ。


 元々依頼を受けていた冒険者たちは復路の護衛もあるので片道の護衛だけ引き受けた俺たちだけ別れる。聖都なら手の空いている冒険者が他にもたくさんいるだろうから簡単に俺たちの代わりが見つかるだろう。


「とりあえず冒険者ギルドに行こうか」

「そうね」


 依頼完了の報告をして報酬を受け取らなければならない。


 聖都は区画整理がきちんと行われた街並みをしており、東西南北にある門から大通りが中央に向かって伸びており、それぞれの門近くに冒険者ギルドがあると説明を受けていた。

 元来た道を戻って街並みを眺めていると冒険者ギルドがすぐに見つかった。


「ようこそ聖都ウィルニアの冒険者ギルドへ」


 定型句となった挨拶を受けながらカウンターへと向かう。

 ちょうど受付の一つが空いたところらしく俺たちと同年代の若い子がカウンターに立っていた。


「護衛依頼の完了報告に来ました」

「確認させていただきます。たしかに完了されていますね」


 依頼票に書かれたサインを確認した受付嬢がカウンターの下から報酬を取り出す。


「今後も頑張ってください。今後の予定はどうなさいますか?」

「実は聖都には初めて来たのでどんな施設があるのかも分かっていないですし、宿も取っていないので依頼を受けるのは後回しですね」

「そうですか」


 若い受付嬢の前を離れて報酬の詰まった皮袋を懐に入れる――フリをして亜空間に収納する。

 この保管方法が一番安全だ。


 冒険者ギルドを出ると聖都を適当に歩く。


「宿はどうするの?」

「そろそろ男女別に部屋を取った方がいいと思うんだけど……」


 さすがに男女が同じ部屋で寝泊まりし続けるのは限界がある。

 色々とプライベートな空間は必要だし、知られたくない事だってある。

 せめて男女で別れるべきだ。


「そうね。あたしたちも異世界の生活にそれなりに慣れて来たし、大丈夫じゃないかしら」

「……わたしも問題ないです」


 女子二人から賛同が得られれば問題ない。


「僕は前にも言ったように」


 この話題は、ショウから俺に提案されていたのでショウも賛成。


「となると、多少は値段が掛かってもそれなりにセキュリティがしっかりとした宿に泊まった方がいいだろうな」


 今まで同じ部屋で寝泊まりしていたのは護衛の意味もある。

 お互いがお互いを守るのが一番問題なかった。


「問題は、どうやってそんな宿を調べるかなんだけど……」


 聖都に着いたばかりの俺たちにそんな情報を得る伝手はない。


「ねぇ、これは?」


 ハルナが早速何かを見つけたらしく大通りに面していた店の前に積まれていた物を持ち上げて見せていた。


「おいおい、やりすぎだろ」


 ハルナが見せて来た本も気になったが、店の外観も気になった。

 その店は書店なのだが、まんま日本にある書店だった。


「どうせ召喚された勇者が持ち込んだ知識でしょ。定期的に召喚されているなら知識を取り込むチャンスなんていくらでもあるんだし」

「そうなんだけど……」


 地元の文化を壊し過ぎだ。

 これまでの街ではこんな事はなかった。


 大通りを見渡してみると他にも見覚えのある店舗が並んでいた。


 さらにハルナが持っている物も問題だ。


「ガイドブックになら適切な宿も調べられるんじゃない?」


 書店前に平積みされていたガイドブックを手に取ってみる。

 この世界の治安を考えるとこんな無防備に置いておいたら『盗んでください』と言っているようなものだが、聖都の人たちに盗みを働くような気配はない。


「とりあえずせっかくだから買ってみましょ」

「ちょっと待った」


 ハルナが書店の中で会計を済ませようとするので止める。


「何?」

「節約できるところは節約した方がいい」

「あった方が便利だと思うけど」

「もちろん手に入れることには賛成だ」


 ただし、金を払うことには反対だ。

 手に持っていたガイドブックを元あった場所に戻す――途中で収納の中に入れ、平積みされたガイドブックの上に来たところで収納から取り出して積み上げられた状態にする。


「さて、宿屋に向かうぞ。お前もガイドブックを戻せ」

「え、うん……」


 訳が分からないままハルナがガイドブックを戻して俺たちの傍に寄って来る。


 店員に俺が何かをしたと気付いた様子はない。


「一体、何をしたの?」


 収納した姿は見ていたはずだが、ハルナだけでなくショウとレイにも何をしたのか分からなかったらしい。


 まあ、無理もない。

 端から見たら手に取ったガイドブックを意味もなく収納してすぐに戻したようなものだ。


「俺の収納魔法に新しく備わった能力でな。収納した本に描かれている内容をデータとして保存しておくことができるんだよ」

「じゃあ……」

「収納の中にはさっきのガイドブックの内容が保存されている」

「それって万引きになるんじゃ……」

「知らんな」


 この世界に対して自重するつもりはない。

 実物を残して盗んだわけではないのだから見逃して欲しいところだ。


「節約できるところは節約した方がいいぞ」

「でも……!」

「どうしても問題が発生したなら、それは元の世界に戻る為に必要な事。そして元の世界に戻る方法を用意していなかったメグレーズ王国に全ての原因がある」

「そういうわけには……」


 いかないだろうが譲るわけにはいかない。


「お、手頃な宿を発見。ここからも近いみたいだし、今日はここに泊まることにするか」

「ちょっと……!」


 会話をしながらも収納の中にある情報から手頃な宿を探していた。

 未だに何かを言いたそうにしているハルナを置いて宿へと向かう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「メグレーズ王国に全ての原因がある」 これを免罪符にタガがぶっ壊れてますねえ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ