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第2話 討伐依頼のないギルド

 デュームル聖国に入ってから最初の大きな街――ラシング。


 この国は小国なので聖都までは街をあと二つほど越えれば辿り着く。


 急がなければならない旅でもないので街に辿り着くとデュームル聖国の空気に慣れる為に街には立ち寄ることにした。


「情報収集と言えば冒険者ギルドでしょ」


 もう一つ酒場という選択肢もあるが、荒くれ者の多い酒場に自分から足を運ぶ必要もない。何より俺たちは未成年だ。アルコールを頼まなくてもいいかもしれないが、酒場に来てまで酒を頼まないのは不自然だ。


「そう言えば、この世界の成人って何歳からなの?」

「ちょっと待ってくれ」


 今まで調べていなかったのでハルナの質問に収納の中にある本を検索して確認する。

 一般常識的な事まで書かれた本は少ないので検索に時間が掛かる。


「どうやら15歳で成人したと見做されるらしい」

「だったら、この世界のルールに照らし合わせればあたしたちもお酒を飲んでも問題ないんじゃない?」


 たしかにその通りだ。

 なら、酒場でお酒を注文しても問題なさそう……


「止めておきましょう。郷に入っては郷に従え、とはよく言いますが、未成年の飲酒が禁止されているのはそれなりの理由があります。体にも悪影響があることですから日本人らしい心を失わない為にも20歳までは飲まない事にしましょう」

「その方がよさそうだね」


 レイの意見にショウが同意してしまった。


 賛成1、反対2。

 ここで俺が賛成に回れば意見が同数になって、俺とハルナだけでも酒場に行くことができるのだろうが、俺も飲酒に少し興味があるだけなので無意味な騒ぎを避ける意味でも反対に回る。


「そ、そんな~」


 反対の方が上回った事にハルナがショックを受けている。


「そんなに行きたかったのか?」

「異世界のお酒にちょっと興味があったの。家でもお父さんが飲んでいたお酒を分けてもらったことがあるから初めてでもないの」


 元の世界にいた時から嗜んでいたらしい。


「慣れていたとしてもダメだ」

「分かったわよ」


 ふてくされた様子のハルナを連れて冒険者ギルドへと入る。


「ようこそラシングの冒険者ギルドへ」


 カウンター前へ行くと栗色の髪をツインテールにした受付嬢が笑顔で迎え入れてくれる。


「初めてご利用の冒険者ですね」

「はい、そうです。よく分かりましたね?」

「受付嬢をしていれば懇意にしている冒険者だっていますし、ほとんどの冒険者の顔は覚えています。みなさんは初めて見る顔です」


 そういうことか、と納得する。


「それで、本日はどうされましたか?」

「いえ、聖都に向けて旅をしている冒険者なのですが、この国の冒険者ギルドにはどのような依頼があるのか見に来たのですが、いいですか?」


 冒険者には拠点にしている街がある。

 場所が違えば依頼の内容もかなり変わって来る為、長年拠点にしている街があると冒険者は、その拠点の依頼に適応するようになるので依頼の成功率も上がる。


 逆に慣れていない冒険者だと慣れた冒険者に比べれば失敗する確率が高い。


 冒険者ギルドとしても依頼を失敗されては困るので成功率の高い相手に依頼を受けて欲しい。


「構いませんよ。ただし、この国の冒険者ギルドは短期で終われるような依頼が少ないので注意をして下さい」

「……どういう事ですか?」

「見れば分かります」


 短期で終わらせられる依頼と言えば、指定された場所で指定された魔物を狩るといった討伐依頼や指定された薬草などを採取してくる採取依頼といった依頼。


 試しに受けられるならそういった依頼を受けてみたいと思っていたのだが、依頼が少ないらしい。


 3人で依頼票が貼られた掲示板の前へ行く。


 受付嬢の言っていた意味がすぐに分かった。


「なに? 討伐依頼が全くないんだけど?」

「代わりに魔物の買取価格表なんて物があります」


 掲示板には討伐依頼の依頼票が全くなかった。

 代わりに魔物の種類ごとにいくらで買い取るか価格が記載された表があった。

 メグレーズ王国のメテカルにはなかったシステムだ。


「どういうことですか?」


 冒険者ギルドで困った事があったら受付嬢に聞くのが一番だ。


「みなさんはこの国のギルドに立ち寄るのは初めてですか?」


 受付嬢の質問に頷く。


 ラシングに辿り着くまでに小さな町や村ならいくつかあった。

 昨日と一昨日は宿で泊まる為に立ち寄ったが、小さな町で余所者の俺たちがわざわざ依頼を受ける必要もないので冒険者ギルドをスルーしてきた。


「デュームル聖国には北東から数多くの魔物が押し寄せてきます。特に魔王が復活した時期は顕著です。そのため北東側には防衛ラインが存在しますが、魔物たちはそんな防衛ラインすら嘲笑って国内へと侵入して来ます。国としてもそれではいけないと思うのですが、何分数が多すぎるのです」


 そんな状況を説明しながら受付嬢がははっと笑う。

 その笑みは状況に疲れた者の笑みだった。


「そのせいで国内には数多くの魔物が存在します。討伐依頼を出して魔物を討伐してもらっても、すぐに別の魔物がそこに住み着くような状況なので討伐依頼に意味がないのです。ですが、それでは魔物が増える一方なので冒険者ギルドでは討伐された魔物の素材を他の国よりも高額で買い取る事にしています。みなさんも率先して討伐していただけば他の国よりも高額で買い取りますよ」


 メテカルに居た頃は魔物の適正な買取価格なんて気にしたことがなかったから他の国での買取価格が分からないが、表にあったレートはメグレーズ王国よりも高額なのだろう。


「そんな方法で魔物はきちんと討伐されているんですか?」


 魔物が討伐されていない状況が続けば国民の生活にも影響が出る。

 本来なら国の抱える兵力が解決するべき問題なのだろうが、兵士や騎士は北東にある防衛ラインの方へ出払っているので国内の方は冒険者の方が多いらしい。


「万全とは言い難い状況ですが、次から次に現れるような状況なので稼ぎたい冒険者が率先して討伐してくれます」


 国境で稼ぎに来た、と言った時に妙なぐらい簡単に通行が許可されたが、その理由はそういう冒険者が多いからだったんだ。


 なら、俺たちもそういう風を装い続けた方が不自然に思われず要らぬトラブルを呼び込む事もないはずだ。


「分かりました。聖都を目指す旅ですが、途中で遭遇した魔物は率先して討伐するようにします」

「納品が大変だと思いますが、よろしくお願いします」


 もっとも討伐した事を証明する為に魔物の素材を納品する必要がある。

 冒険者にとっては納品の為に持ち運ぶ方が大変らしいが、収納魔法のある俺がいるので問題ない。


「他にはどんな依頼があるかな?」


 掲示板の方に戻ってみるが、他には護衛依頼が目立つばかりで採取依頼もあるにはあるが報酬が少なく引き受ける冒険者がいなくて残っているような状況だった。


「採取依頼が少ないのはなんでだろう?」

「たぶん、この国には薬草とかが少ないんだろ」


 魔物の数が多すぎるせいで貴重な薬草すら蹂躙されてしまうような状況。


「ねえ、想像以上に危険な国みたいなんだけど、大丈夫なの?」

「大丈夫な今の内に活動するんだよ」


 俺としても予想外だったのでちょっと困惑している。

 これは、急ぐ旅ではない、などと言っているような状況ではないかもしれない。


 なるべく早く聖都に辿り着いて用事を済ませた方がいいかもしれない。


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