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第1話 デュームル聖国

連載再開です

 メグレーズ王国からデュームル聖国に至る国境へ向けて歩く。

 両国の間には明確な国境線として柵が設けられており、街道から続く関所で入出国の手続きをしなければならない。


 柵は人の胸ほどまでの高さまでしかないので飛び越えるのは簡単なのだが、関所で入国手続きせずに密入国した事がデュームル聖国に知られた場合には厳しく罰せられることになっている。


 そのため俺たち4人は関所で手続きをしていた。


 身分証となる冒険者カードを目にした文官が眉を顰める。


「デュームル聖国にはどういった用件で来た?」


 関所で手続きを行っている監査官が尋ねて来る。

 部屋の隅には兵士が詰めており、不審な行動をすればいつでも襲い掛かれるようにしていた。


「俺たちは最近までメグレーズ王国の田舎で生活をしていた者なんですけど、事情があって村を出た後で冒険者になって一旗挙げたいと思っているんです。で、それなりに実力も付いて来たところでデュームル聖国の噂を聞き付けて稼ぎにやって来たんです」

「……この国の住人としては冒険者が稼げる状況と言うのは好ましくない。お前たちみたいなEランクの冒険者でもいないよりはマシだ。しっかりと働いてくれ」


 審査官の俺たちを見下したような発言にハルナがムッとなる。

 ただ、こんなところで騒ぎを起こされて手続きがスムーズに行かないと困る事になるのでレイに抑えてもらう。


 冒険者カードには名前と一緒に冒険者ギルドが冒険者の実力を証明する為にランクが記載されている。


 俺たちのランクは先日依頼を達成した事でEランクになった。


 Eランクと言えば雑用系の依頼から解放されて戦闘においても相手によっては問題ないと判断された冒険者だ。

 ゴブリンなどの低級な魔物なら相手にしても問題ないが、オークのような大型の魔物を相手にするには実力が不足している。


 そんな冒険者が稼ぎに来たところで実力には期待できない。


 それでもデュームル聖国の状況を考えれば少しでも人では必要だった。


「ほどほどに頑張りますよ」


 そう言うと冒険者カードを後にして手続きを終えた事を証明する書類をもらう。


 ハガキぐらいの大きさの書類で簡素に『デュームル聖国への入国を許可する』という言葉と国印が押されていた。


「なんなの、あの態度!」


 関所を出た後でもハルナは監査官の態度に怒っていた。


 俺はある程度事情を分かっているのでそこまで怒っていない。


「俺たちのランクを見て見下している気持ちも少しはあるんだろうけど、それ以上にこの国の状況が切羽詰まっているからなんだ」

「どういうこと?」


 行き先がデュームル聖国である事は伝えていたもののデュームル聖国の成り立ちなんかについてはまだ説明していなかった事を思い出す。


「デュームル聖国ができたのは今から400年近く前――2回前の魔王復活があった時だな。その時は、デュームル聖国なんかなくてメグレーズ王国にある領地の一つでしかなかったんだ」


 本を読んで覚えた知識を語る。


「その時も勇者召喚が行われたんだけど、勇者召喚が行われた直後にデュームル聖国の北で魔族が魔物の大軍勢を率いて攻めて来るという事態が発生したんだ。その時に狙われたのが魔王の居城から最も近いデュームル聖国のあった場所。当然、攻め込まれた領主は国王に救援の依頼を出すんだけど、当時の国王は召喚したばかりの勇者を守る為に領地を見捨てて王都の防備を強化することにしたんだ」


 その結果、魔王軍に領地が蹂躙されても王都にいる勇者さえ無事なら取り返せると国王は信じていた。


 その報せを聞いた現在のデュームル聖国のある場所に住んでいた人々は絶望した。


 自分たちは国から見捨てられた。


 見捨てられた人々は選択を迫られた。

 つまり、自分の住む土地を捨ててどこかへ逃げるか、それとも自分の土地を守る為に最期の瞬間まで抗い続けるか。


 多くの人々が選択したのが抗う事だった。


 その選択を聞いた国王も自分の方針を変えなかった。


 しかし、結果は全く違う方向へと進んで行った。


 犠牲を出しながらも戦い続ける中、一人の青年がふらりと戦いの場を訪れる。

 その青年は濃紺のローブを着ており、物静かな表情は僧侶を思わせるようで、とても戦場にいるような者ではなかった。


 戦場にいる多くの人が戸惑う中、青年が一冊の分厚い本を掲げる。

 掲げられた本からは光が溢れ出し、瞬く間に大軍勢と言っていい数の魔物が跡形もなく消えて行った。


 まさに奇跡。


 誰もが思う中、青年が声を張り上げる。


『聞け、勇猛なる戦士の諸君。この土地は魔王城から近く、非常に危険な場所である。だが、悲観してはいけない。自分の住む土地ぐらい守れなくてどうする。自分の生きる場所ぐらい自分たちの手で守れ! 土地も力を貸してくれる!』


 再び青年の持つ本から光が溢れ出す。

 光は傷ついた人々に触れると次々と傷を癒して行く。


『進軍!』


 青年が本を閉じると本の周囲に光の球体がいくつも生まれる。


 光の球体を武器に生き残った魔物の軍勢に突っ込むと一気呵成に軍勢を滅ぼして行く。


 メグレーズ王国の王城にいる誰もが滅びると思っていた領地がたった一人の青年の登場によって生き残った。

 そこまではメグレーズ王国にとって喜ばしい話だった。


 だが、生き残った人々は自分の土地を魔王からだけでなく国王からも守る為に独立することを決意した。


 自分たちの土地を見捨てた、という大義名分を手に立ち上がった人々は青年を中心に一つの国を作り上げた。


 それが――デュームル聖国。


 収納の中にあるデュームル聖国の建国記が描かれた本。

 それから冒険者ギルドで聞いた噂話を総合すると見えて来る物がある。


「魔王が復活する場所は、毎回北東にある魔王城だって決まっている。その近くでは強い魔物が大量に生まれやすいから一番近くにある人間の領土のデュームル聖国には次から次へと多くの魔物がやって来る」


 今はちょうど魔王復活が成された時期。

 大量に生まれた強い魔物は人間を襲う為にデュームル聖国へと攻めて来る。


「今、この国はこの世界で一番魔物に襲われやすい場所なんだよ」

「それでピリピリしているっていうわけ」


 それが監査官の態度の理由だ。


 国を守る為には強い冒険者の力が必要になる。


 それに魔王を倒さない限り今の状況が改善するような事はない。早く魔王が倒されて欲しいところだが、魔王は救国の英雄である青年ですら倒せなかった存在。魔王を倒せるような存在は異世界から召喚された勇者ぐらいしかおらず、現在は今代の勇者が召喚されてから1カ月しか経過していない。


 まだまだ緊張状態が続く事を意味していた。


「で、そんな危険な国に来てどうするつもりだ?」

「あれ、車の運転中に説明しただろ」

「……聞いていなかった」


 ずっと車を運転していたショウは運転に熱中するあまり車内で行った会議の内容を覚えていないらしい。


「今でも危険な状態の国だけど、時間が経てば経つほど危険度は増す事になる。だから何かあるかもしれない時に備えて先に元の世界に帰る為の手掛かりがないか探すことは説明したよな?」


 俺の確認にショウが頷く。


「当面の目的地はデュームル聖国の中心地にある聖都だ」


 元々国の領地でしかなかったため独立後に領地を少し広げただけで国土はそれほど広くない。


 そのため都市と呼べる大きさは独立後に青年が築いた聖都しかないような国だ。

 多くの情報が聖都へと蓄積されている。


「しばらくは聖都にある冒険者ギルドで依頼をしながら、そこで元の世界に帰る為の情報収集をしよう」


 聖都へ向けて歩き出す。

 途中に小さな町ならいくつかあるのでゆっくりと観光気分で進む事にしよう。


「これで車があれば、もう少し楽ができたんだけどな」

「いや、あれは目立ち過ぎる。今はそこまで目立つわけにはいかないから車は使わない方向で行こう」


 車は目立ち過ぎる。

 現に配達依頼で立ち寄ったメグレーズ王国の街では要らない注目まで集めてしまった。


 それに今は使えない。

 俺たちの作った知識不足の車では負荷が相当なものになっていたために関所へ辿り着く前にガタが来てしまった。余裕ができたら、まずは車の改造から始めることにしよう。


章タイトルから分かるかもしれませんが、今回の目的は聖典――青年が持っていた本です。

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