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第14話 移動手段

 メテカルを出発する日。

 雑用依頼でお世話になった人や冒険に必要な知識を色々と教えてくれたゼンさんに別れの挨拶を済ませるとメテカルの門を出る。


 向かう先は南。


 街道を歩いて人気がなくなったのを確認すると立ち止まる。


「そろそろ移動手段を教えてくれてもいいんじゃないの?」


 移動手段に関してハルナは何も教えられていない。

 準備をしている間、買い出しなどで色々と忙しかったこともあるのだがぶっつけ本番なため彼女の力を借りることになるとしたら俺たちの力が及ばなかった時の為の保険だ。


「そう慌てるな」


 収納から昨日の内にショウに造ってもらった物を取り出す。


 ズシン、と音を立てて地面の上に下ろされる。


「――車?」


 それは見た目だけなら間違いなく乗用車。

 車の形をしていれば何でもいいというリクエストをしてみたところショウの家で使われている軽自動車が用意された。


 あまり大きくても対応できないので軽自動車ぐらいの大きさの方がちょうどいい。


「本物……じゃないわね」


 車のドアを開けた金属製の座席を見つけた。


「仕方ないだろ。僕が形を変えられるのは金属だけなんだから」


 錬金魔法の仕様上どうしても金属からしか造ることができなかった。

 金属製の座席なので座り心地は良くない。とにかく硬い。


「うん。お尻が痛くなりそうな座り心地ね」


 女子としては辛いらしい。

 次善策としてクッションを用意させてもらったので、それで我慢してほしい。


「そこまで言うならお前が座席を作ってみたらどうだ?」

「……それもそうね」

「できるのかよ」


 ショウの疑問にハルナが何でもない風に頷いていた。

 さすがに座席まで作れるとは想定していなかった。


「おいおい小物なら元の世界にいた時にいくつか作っていたみたいだけど、車の座席まで作れるほど技量があったか?」

「たしかに元のあたしの技量だと無理だったけど、強化魔法がある今なら裁縫技術を向上させることができるかもしれないから頑張ってみる」


 意外な才能が見つかった。


 自動車作製において役に立たないだろうと買い出しを頼んでいたが、座席を作ることができるなら最初から頼めばよかったかもしれない。


 ただし、今回の出発までには1日とちょっとしかなかったので間に合わなかったので旅の間に時間を見つけて頑張ってもらいたい。


「まあ、もっと最悪な代物があるんだけどな」

「何?」


 それがタイヤだ。


「……ホイールしかない」


 ハルナが呟いたようにタイヤの内部にあるはずのホイールがむき出しになっており、その外側に軽量化された金属製のタイヤが巻き付いていた。


「1日で作ろうとしたらこれが限界だったんだ」


 高い金を出して素材として必要な金属を大量に買い込み、車本体にタイヤや座席を造ってもらった。

 かなりの重労働だったはずだが、これからの旅を思えば移動手段は絶対に必要な代物だ。


「乗り込むぞ」


 車に乗るのは4人。

 運転席にショウが座り、俺が運転席の後ろに座る。助手席にはハルナが乗り込み、後ろ――俺の隣にはレイが座った。


「ねぇ、運転なんてできたの?」

「任せろ」


 自信満々にハンドルを握るショウ。

 自動車製作において1番苦労したのは彼なのだから最初に運転する権利はショウにある。


「レーシングゲームならゲームセンターで何度かやったことがある」

「それって本物の車の運転はしたことがないってことじゃない!?」

「免許を持っていないんだから本物の車を運転できるわけないだろ」

「免許は? 必要ないの?」

「問題ない。免許は、その国の公道を走る為に必要な代物だ。ここは異世界――免許なんて必要ない」


 ショウがアクセルを全力で踏み込む。

 急加速した車が最低限の舗装がされただけの街道を走る。


 速度メーターの仕組みなど知らなかったので今何キロで走っているのか分からないが、景色の流れて行く様子から60キロ以上の速度を出せているのは間違いない。


 どうやら問題なく走ることができているみたいだ。


「これで窓を開けることができれば気持ちいいんだろうな」


 残念ながら速度メーターと同様に走る事を優先して造ったので窓を開閉する機能はない。

 窓も買って来たガラスを成形して、ただ溝を造って嵌め込んでいるだけなので衝撃を受け続けると外れる可能性がある。


 まあ、盗まれる心配のない乗り物なので雨が降っているような状況でもなければ窓はいらないだろう。


「窓開けるぞ」


 窓ガラスが消える。

 窓の開閉はできないが、窓そのものを収納して開けることは可能だ。


「気持ちいい」


 窓から入って来る風に気持ちよさそうに目を細める。

 自分で造った車だけに感動もあるみたいだ。


「って、この車のガソリンは?」


 ハルナが今さらの疑問を思い付いた。

 ショウは運転が楽しくなってきたらしく更に速度を出している。


 道路交通法や信号など存在しない異世界だからいいが、この運転方法だととっくに捕まっている。いや、運転方法以前に誰もシートベルトを締めていない。というかこの車にはシートベルトがない。


 郷に入っては郷に従え。

 遵守する法律がないのだから自由にやらせてもらおう。


「この車のガソリンはレイが作った」


 座席のすぐ下に積み込まれたレイの薬が爆発を起こし、回転を生み出しタイヤに伝わることで前進をしている。


「中には爆発を起こす薬に必要な素材が詰め込まれているだけでレイがスキルを使用しないと慣性でしか動かないようになっている」

「あれ、じゃあ今も踏んでいるアクセルは?」

「ただの飾り」


 俺はイメージし易いように車の形をした『何か』を注文した。

 そこにアクセルまで付け加えてしまったのはショウの独断だ。


「それじゃあ、どうやってこの車は曲がったり止まったりするの?」

「止まる時は俺が慣性を収納するから止まれる」


 タイヤを造った時に試しているので止まれる。

 どうして慣性だけを収納できるのか全くの疑問だが、できてしまった以上は便利な能力だと受け入れるしかない。


「曲がる時はハンドルを右に傾ければ右に曲がるようになっているし、左に傾ければ左に曲がるようになっている」


 ただし、あまりに大きく傾けてしまうとタイヤが外れてしまう危険性がある。


「なに、この車……」

「俺たちのスキルありきで造った車だから、なんちゃって車なんだよ」


 アクセルもブレーキも飾り。

 前進と停止は乗っている人間のスキルに頼るしかない。


 遊園地にあるゴーカートですらもう少しまともな性能を発揮してくれるはずだ。


 ちなみにレイはエンジンを動かし続けることに夢中で無言になっている。


「この調子なら今日中に目的地に辿り着けそうだな」


 仕組みはともかく速度は異世界においては異常なレベルだ。

 誰かに見られた時は、そういう魔法道具だと言い張ればいい。事実として魔法がなければ動かすことのできない乗り物だ。


「ねぇ、本当に大丈夫なの?」

「異世界で高速移動できる乗り物を造ろうと思ったらこのレベルが限界なんだよ」

「そうかもしれないけど」


 いつ壊れるかも分からない車に乗っているせいでハルナの顔が青ざめて行く。


 しかし、歩いて国を越えるなど耐えられない。

 だから、この尻に伝わる不快な振動ぐらいは耐えなくてはならない。


「さ、お使いクエストを終えたら東にある聖国へ行くぞ」


 配達先である南東と南西の都市。


 そこから南へ行くと見せかけて東へと行く。


 先に東へ行っておきたい理由があった。

 東にある小国デュームルは魔物との戦いにおける最前線になっていた。


 今後、魔物との戦いが激化するのは見えている。そうなる前にデュームルでの情報収集を済ませておきたかったというのが理由だ。


「俺たちの異世界旅行は始まったばかりなんだ。楽しんで行こう」

「こんな乗り物じゃ楽しめないわよ!」


 不完全な乗り物を恐れながらの旅は続く。


移動手段としてなんちゃって『車』を手に入れた主人公たち。

まあ、序盤の移動手段として馬車を手に入れるのは普通ですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 路面とかタイヤとか駆動方法とか、まだソリのほうがマシなレベルで振動が酷そう……
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