第4話 アイテムボックス
異世界召喚6日目。
最初だけ顔を出して図書室へ行こうとしたところ、ライデンに止められた。ただし、図書室へ行くのを止められたわけではなく、今日は早めに戻って来てほしいとのことらしい。
図書室へ行くと昨日と同じように3人がいたので喋って昼食に作ってもらった弁当を食べている内に夕方になりそうだった。
「じゃあ、そろそろ戻った方がいいな」
増田たちも同じように早めに戻るように言われているのか今日は昨日よりも早めに図書から出て行く。
そして、俺の所属するグループが使用していた部屋に戻ると午前中から訓練をしていたみんなが後片付けをしているところだった。
後片付けを終えたみんなが正面に立ったライデンさんの前に並ぶ。
俺も目立たないように後ろの方に静かに並んだのだが、みんなのステータスが訓練によって上がっている影響なのか俺が戻ってきたことに気付いていた。
……どうでもいい。
「それでは、今から明日の予定を話す」
明日は異世界に来てから1週間。
最初の教養の授業の際に教えてもらったが、異世界ポラリスも七日で一週間となっている。
「君たちもこの数日の訓練でそれなりに強くなったはずだ。そこで実戦の機会を用意した」
実戦――その言葉を聞いて何人かが息を呑むのが分かった。
しかし、対照的に安藤たちは喜んでいた。ま、異世界に来て強い力をもらったのなら戦いたくなるのかもしれない。
「場所は王都から馬車で3時間ほど出掛けた場所にある山や森だ。今回の勇者召喚では100人ほどの人間が召喚されたが、その能力はバラバラだ。そこで、この数日の間に私たちの方で実力や連携のしやすさを考慮して4~6人のパーティ構成をこちらで考えさせてもらった」
俺以外の9人は、安藤たち5人とそれ以外の4人でパーティを組むらしい。
で、残った俺は……
「君には、この3人と組んでもらうことになった」
ライデンさんが1枚の紙を見せてくれる。
そこには人の名前が書かれていた。
というか図書室で出会った増田、櫛川さん、天堂さんの名前だ。
彼らとパーティを組めということだろう。ハズレスキル同士を合わせて適当に話を切り上げたな。ま、俺も安藤たちを組まされるよりはいい。
「君たちのスキルを考慮した結果、他のパーティと一緒に荷物持ちでもしてもらうのがいいかと思ったのだが……」
俺の収納魔法を有効に使おうと思うのなら荷物持ちが最適だろう。
けど、それに待ったを掛けたのが安藤たちだ。
「たしかに便利かもしれないですけど」
「足手まといがいるのは困りますよ」
「それに代わりの道具があるんですよね」
「ああ、そうだったな」
ライデンさんが全員に巾着袋のような物を手渡して行く。
俺も受け取ったので口を開けて中を覗いてみると掌に乗るサイズぐらいしかないにも関わらず、中は真っ暗で底が見えない。
「これがアイテムボックスだ。アイテムボックスを所持した状態で物に触れて『入れたい』と念じるだけで中に入れることができる」
「容量はどれぐらいですか?」
「これは、兵士にも支給できる簡易な代物だからな。倉庫1つ分ぐらいだ」
かなりの量が入る。
それがパーティ全員に支給されるなら本当に俺の収納魔法は必要なさそうだな。
「それと、私たちの方から全員に装備を支給させてもらう」
安藤たちが喜んでいる。
今までは訓練の安全性を考慮して木剣でのみの使用だった。
支給された武器は金属製の刃が付いた物だった。
安藤や田上のように剣に関連するスキルを持った者には鉄の剣、山本は槍に関連するスキルを貰っていたのか槍を支給されている。他にも装備を支給されるが、人によって与えられる装備はバラバラだ。中には魔法に特化したスキルを得ていたのか杖を支給されている者までいる。
次に防具が支給される。防具は、前衛と後衛で別れているだけで、前衛には鎧が与えられ、後衛職らしい2人にはローブが支給された。
「みんなの持っているスキルは私たち騎士がしっかりと把握している。そのうえでそれぞれに適した武器や防具を渡すつもりだ。これは、仕方なかったとはいえ、君たちを召喚してしまった私たちなりの誠意だと思って受け取ってほしい」
みんながそれぞれに適した装備品を支給される中、俺は1人でポツンと立っていた。
と、ライデンさんが近付いて来て剣と盾を渡してくれる。
……え、これだけ?
「一般的な冒険者でサポーター……荷物持ちをしている冒険者は簡易な鎧で身を堅め、護身用の剣を装備するだけなんだ。他に要望があれば支給するが欲しい装備品はあるかな……?」
ライデンさんが俺に要望を聞いてくるが、はっきり言ってその表情は優れない。
装備品だってタダではない。俺みたいなハズレスキル所持者に貴重な装備品を渡すのが勿体ないのだろう。
「いえ、これだけでいいですよ」
剣術スキルを持っていない俺では剣を貰っても扱えない。防具として盾を支給されたが、これもどこまで役に立ってくれるのか分からない。
剣と盾を収納する。
「では、今支給した装備品だがアイテムボックスの中に入れておくといいだろう」
「はい」
巾着袋に触れながら装備品に意識を向けると支給された装備品が手元から消える。
その光景は、俺の収納魔法と同じ。
「ぷぷっ、これで本当にお前の魔法は必要なくなったみたいだな」
「悪かったな」
そんなことは言われなくても分かる。
強いて優れている点を挙げるとすればアイテムボックスの方は容量の限界が倉庫1つ分らしいが、俺の方は今の所はまだ見えてこない。城を散策している間に要らなさそうな物を勝手に拝借して既に倉庫1つ分は軽く超えるぐらいの容量を一杯にしているが、限界を感じるようなことはない。
どこまで入れることができるのかは気になるところだ。
ただ、欠点としては入れた物が多くなればなるほど収納されている物の一覧が多くなってしまうことだ。
「それでは、装備品も受け取ったことだし、明日の朝は同じ時間にこの部屋に集合だ。その後、パーティ毎に担当の騎士がやって来るからその人に先導されて目的地へと向かうように」
「「「はい」」」
☆ ☆ ☆
異世界召喚7日目。
いつもと同じ修練場にやって来るとライデンさん以外にも騎士が2人いた。
おそらく彼らが2つのパーティの指導役なのだろう。
「君は、私と一緒にこっちだ」
ライデンさんに先導されて城の庭先へと出る。
そこには、他の騎士に連れられてやって来た増田たちがいた。
「君たち4人の指導役を務めることになったライデンだ。よろしく」
「お願いします」
ライデンさんとは初対面の増田が挨拶をする。
「報告によると君たちは既に面識があるみたいだから自己紹介の必要はないね」
既に俺たちが図書室で会っていたことは知られているらしい。
さすがに異世界から召喚された勇者の同行者とはいえ、国の中枢である城の中を自由に歩き回らせるほど信用はされていない。しかし、不興を買うわけにもいかないので見張りを付けていたということだろう。
「それで、僕たちはどこへ?」
「君たちが得たスキルは攻撃系でもなければ強力な補助系というわけでもない。しかし、レベルを上げ強くなって自衛の手段を身に付けなければ危険なのがこの世界だ。他の者には適性(適正)レベルの場所へ魔物の討伐に行かせてレベルを上げてもらう予定でいるが、君たちのスキルでは適正レベルを見つけることすら難しい。なので、環境は険しいが、出てくる魔物が少なく大人しい場所へと一緒に行ってもらうことになる」
「分かりました」
ゲーム的な感覚で言うなら俺たちは本当に初心者以下らしい。
他の者はスキルによって自分のレベルよりも上のレベルを持つ魔物を倒すことが簡単になるのでレベリングも早いのだろうが、俺たちのスキルでは弱い魔物を倒すのも一苦労だ。