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第12話 突破

 アルバーン伯爵の屋敷の正面で待機していた兵士たちは銀色の大鎌を持ったショウに威圧されて動けずにいた。


 ほんの数週間前まで平和な日本にいた時ならそんなことはできなかったが、異世界に召喚されて命を賭けた戦いを何度も経験し、アイテムボックスの効力によってステータスが上昇した事で戦いが本職の兵士を威圧する事ができる力を手に入れていた。


 さらに手にした大鎌の存在だ。

 屋敷から出て来たばかりの時は無手だったにも関わらず、いつの間にか握られていた大鎌。

 これはメタルスライムのシルバーが変形した物で鋭い刃は兵士に実力行使を躊躇わせるには十分な力があった。


「そっちは終わった?」

「ああ、これで伯爵は俺たちの味方になってくれた」

「なら次はここを出るだけか」

「そうしよう」


 目の前にいる兵士たちなんて全く障害にならない物として話をしている。

 ショウも随分と逞しくなったものだ。


 ただ、兵士たちと交渉するような度胸はないらしく懇願するような視線をこちらへと向けて来た。さすがにショウが交渉を拒否したからと言って筋骨隆々の男たちとの交渉を女性陣に任せるわけにもいかない。

 やっぱり俺が交渉するしかないみたいだ。


「アルバーン伯爵との交渉は見ていたと思うが?」

「残念だが、関係ない」


 兵士の奥から鎧に身を包んだ小太りの男性が現れる。

 男性に見覚えはなかったが、男性が着ている鎧は王城にいた騎士と同じ物だ。


「騎士が何か用ですか?」

「お前たちにはある容疑が掛けられている。大人しく連行されてもらおうか」


 騎士を無視してチラッとアルバーン伯爵を見る。


「お前たち、ここは退くんだ」

「残念ですがそれはできません。事情は見ていたので察していますが、貴方の通報以外に彼らを連行しなければならない理由があります」


 騎士の男が汗を流しながら伯爵に説明をする。

 アルバーン伯爵が命令した程度では止まらないみたいだ。

 これぐらいの事なら目を瞑ってあげよう。


「ちなみに俺たちが連行されなければならない罪は何ですか?」

「お前たちにはある騎士の失踪に関わっていると考えられている」


 騎士の失踪、ということはライデンの事だ。

 俺たちの素性について事前に知らされていたことから騎士の1人がライデンの失踪に関わりのある人物だと気付いたみたいだ。


 ライデンの失踪時に一緒に行方不明になった人物が見つかった。

 騎士の失踪について調べている者ならこれ以上ない手掛かりだろう。


 付き合うつもりはないけど、答えぐらいなら教えてあげよう。


「その情報は正確ではないですね」

「なに?」

「騎士ライデンは失踪したわけではありません。既に死亡しています」


 収納されていたライデンの遺体を取り出す。


 鎧を売却してお金に変えられないかと持ち帰った遺体だったが、王国騎士の鎧などそのまま防具屋に持ち込めば問題になるのは間違いない。足の付かない人物に売ろうにも伝手がなかったのでそのままにしておいた。


 亡くなってからかなりの時間が経過していたが、亡くなった当時のままの姿が保たれていた。もっとも5人分の死を偽装する為に大量の血を抜いてしまったので、干乾びたようになってしまっている。それでも生前の面影があるので誰の遺体なのかは分かる。


「ライデン!? やはり貴様らが殺していたのか!?」


 騎士が剣を引き抜く。

 いくら同僚の死体を見たからとはいえ短気な人だ。


「たしかに彼を殺したのは俺ですが、何か問題がありますか?」

「問題があるに決まっているだろう!?」

「おかしいですね。冒険者ギルドで話を聞きましたが、この世界には街道を利用する人を襲って財産だけでなく命まで奪う盗賊がいるのでしょう? そういった盗賊を冒険者が殺しても罪に問われないどころか報奨金が出るらしいじゃないですか。だったら問題ないように思えますが?」

「そいつは盗賊などではなく騎士だ!」


 たしかに職業は騎士だ。

 だが、俺たちの誰も騎士だとは認めない。


「騎士なら罪のない人を脅威から守るべきだ。俺たちはそんな騎士から何の罪も犯していないのに襲われたから返り討ちにしただけです。この世界では、いきなり殺そうとしてきた相手がいたら大人しく殺されなければいけない理由でもあるのですか?」


 騎士だけでなく周囲にいた兵士たちにも尋ねるように見渡す。

 兵士たちは俺の言葉を聞いてオロオロとしていた。俺の言葉が本当なら民を守るはずの騎士が襲い掛かったことになる。


「そ、そんなのはでまかせだ」


 騎士は兵士たちとは違った意味でオロオロしていた。

 こいつは黒だ。俺たちが捨てられた事情について知っている。


「まあ、そんなのは関係ないんですよ」


 兵士たちの方へ4人で一歩踏み出す。


「俺たちが1番許せないのは勝手に召喚しておいて元の世界に戻す方法を用意していなかった事だ。方法を知らないっていうなら元の世界に戻る方法は自分たちで探すので邪魔しないでもらえますか?」

「う、うるさい! お前たちの事情など知らない! 騎士ライデンの遺体を所有していた以上、お前たちが重要参考人である事に変わりない。大人しく王城まで着いて来てもらおうか」


 こいつは俺の言葉を全く聞いていなかったのだろうか。

 俺はきちんと「邪魔をするな」と言った。

 にも関わらず元の世界へ戻る為の手掛かりが全くない王城へ寄り道をしろと言っている。


「邪魔をするというなら敵と見做します」


 再び一歩踏み出す。

 近付く俺たちの姿を見て道を開けてくれればいいな、という軽い思いからの行動だったのだが兵士たちは逆に包囲を狭めて来た。


 職務に忠実な兵士なら行方不明だった騎士の遺体を持つ俺を逃がすはずがない。


 しかし、彼らが動けたのはそこまでだった。


「な、なんだ?」

「体が動かない!?」


 兵士たちの体は石のように全く動かなくなってしまった。


「この辺に麻痺毒を散布しました。これで逃げ道を塞ぐことはできなくなりました」

「ふん。麻痺毒ならその内……」

「それはどうでしょう? みなさんが受けた麻痺毒はアルバーン家令嬢のリサリアーナ様を苦しめていた毒と同質の物です。既存の解毒薬で回復するとは限りませんし、時間経過で解毒される可能性はもっと低いです」

「そんな物をいつの間に……」


 騎士ライデンの遺体が取り出されて兵士たちの注意がライデンに向いている間にレイが彼らの足元にカプセルを転がして内包されていた麻痺毒を散布した。


 麻痺毒はスタークの体から採取した毒を利用してレイが作り出した物なので専用の解毒薬がなければリアーナちゃんの解毒ができなかったのと同様に麻痺毒の解毒も難しい。

 専用の解毒薬を作る為に必要なスタークの遺体は俺の収納にあるので彼らには絶対に解毒薬を作ることができない。

 もしかしたら既存の解毒薬で回復することが可能かもしれないが、その可能性もかなり低いだろう。俺たちもレイが事前に作ってくれた抗毒薬を飲んでいなければ麻痺していたはずだ。


「さて、この状況で俺たちの攻撃を防ぐことができますか?」


 収納から取り出した鋭い刃を持つ大きな剣を見せる。

 わざわざ見せることで彼らの恐怖心を煽る為だ。


「ま、待ってくれ!」


 案の定命乞いをする声が上がる。


「騎士を殺せば罪になるぞ」

「残念だが、俺たちはこの国の騎士を騎士だとは認めていない」


 こいつは事情を知りながら俺たちを捕まえようとした。

 その時点で敵だ。


「本当に待ってく……」


 いつまでも煩く喚くので首をさっさと刎ねる。

 後ろでレイが眉を顰めていたが、まだやらなければならないことがあるので気にしていられない。


「とはいえ、全員に罪があるわけじゃない。俺たちの事を口外しないという内容と騎士が行方不明になったという報告をしてくれるなら見逃そうじゃないか」


 兵士の1人に貴重な誓約書を見せる。

 誓約書には『俺たちの事について口外しない事』と『嘘の報告をする事』を誓う文章が書かれていた。


「ふ、ふざけるな!」

「こんな誓約書にサインができるわけないだろ!」

「あっそ」


 サインを拒否した兵士の首も刎ねる。

 誓約書を収納すると文章を追加する。

 自分の手で書かないから面倒だ。


 追加した文章は騎士だけでなく兵士も行方不明になった報告をする事だ。


「さ、サインをするのかしないのか選んでくれ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 理不尽に殺しに来た敵をしっかり始末するところがいいね。 わかるってばよ…で何故か見逃したり日和る糞主人公が多いなかこれはスカッとする
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