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第8話 VS毒の魔族―後編―

今年最後の更新になります。

 収納内でステータスに反映されないようにしていた素材を全てステータスに反映されるようにする。

 1000しかなかったステータスが一気に8000まで上昇する。

 これだけあれば問題ないはずだ。


「何をするつもりか知らないが――」


 煩いので一気に近付くとスタークの顔を殴る。


 ――ミシミシ。


 奴の顔面から何かが砕けるような音が聞こえる。

 そのまま俺の前から吹き飛ばされると地面を何度も跳ねて転がる。


「ぎ、ぎざま゛!」


 スタークが掌に発生させた液体を飲み干す。

 傷薬だったらしく飲んだだけで凹んでいた顔や血に汚れた傷が治癒されて行く。


「お前の境遇とかには同情させてもらうけど、こっちも引き受けてしまった仕事があるんでさっさと終わらせてもらう」

「何を……」


 傷が治ったことで普通に喋れているみたいだな。

 正面から突っ込む。


「馬鹿が」


 毒ガスが吐かれ、紅蓮杖から放たれた炎が引火する。


「勿体ないな」


 引火したのは俺に届いていなかった毒ガス。

 俺の近くまで届いていた毒ガスは既に収納されている。炎と同じように何か使い道があるかもしれないから回収しておく。引火してしまうと毒ガスとしては、使えなくなってしまうので勿体ない。


「で、デタラメな……」


 炎が途中までしか引火されなかった光景を見てようやく俺が何をしているのか理解したみたいだ。もっとも収納されているとは思っておらず、何らかの攻撃を無力化するスキルを使っていると思われているみたいだ。


 可能なら俺もそんなチートスキルが欲しかった。

 ま、無い物ねだりをしたところで意味がない。ある物で戦うだけだ。


「よう」


 スタークの正面に辿り着くと2本の剣を取り出して上から振り下ろす。

 俺の攻撃に対して杖を掲げる。

 杖を盾にされては攻撃を止めるしかない。


「そうだ。お前の狙いは、この紅蓮杖なんだろ? だったら、万が一にも傷付けるわけには――ぎゃあ!」


 背中があまりにがら空きだったので正面から一瞬で回り込むと叫び声を上げ出した。ハルナが首を斬り付けた時とは違って深く斬ることができた。


 スタークが荒い息を吐きながら傷口に生み出した毒で傷を治療している。

 数秒と経たずに治療される傷。


「どれだけ攻撃したところで――」


 何か言おうとしているスタークに構わずに体の至る所を斬って行く。

 斬った端から治療を始めて行くが、次々と斬られているせいで全く追い付いていない。


「なんでだ!?」

「何が?」


 足を斬り付けながら尋ねる。

 紅蓮杖から放たれた速度を重視した小さな炎弾が放たれるが、炎弾が届くころには既にそこにはいない。奴の攻撃が俺に当たることはない。


「お前は、俺の毒で苦しんでいるはずだ」


 チラッと視界の隅にステータスを表示させる。

 体力値の確認をすると、たしかに1秒毎に1ずつ減少を続けていた。


「戦いが始まった段階でこの周囲には毒の霧を散布させておいた。とっくに300ぐらいは減少しているはずだ!」


 ステータスについて確認する為に蹴り飛ばす。


「ぐはっ」


 スタークが言うように400ほど減少していた。

 普通の人間なら400もの減少は致命的だ。

 だが、8000の俺にとっては400程度の減少は大したことがないし、同じように毒を浴びていたショウも少し苦しそうにしているだけで耐えられているみたいだ。毒は後で治療すれば問題ない。


 俺から離れたことで余裕の生まれたスタークが全身の切り傷を治療する。


「その治療方法だけど、万能っていうわけでもないな」

「あん?」


 スタークの知覚外にある速度で踏み込み、右手に持った王剣で左腕を斬り飛ばす。


「果たして傷を治療できる毒で切断された腕を元に戻せるか?」

「あ、ああ……」


 斬り飛ばされた腕が地面に落ちる。

 スタークは斬り飛ばされた腕を押さえて呻き声を上げるばかりで蹲ってしまった。


 所詮は『薬』による治療だ。外科的『手術』が必要な傷には対応し切れていない。


「どうして、こんなことができる!?」


 聞かなければならないことがあったので落ち着くのを待っているのをそんな疑問をぶつけてきた。

 それは、魔族になった自分よりもどうして強いのか、ということだろう。


「お前がさっき自分で『ドラゴンの単独討伐ができるほど強い奴』って言ったんだろうが。だからドラゴンの単独討伐ができるほどステータスを上昇させてもらったんだ」

「そんなことが――」


 できるわけがない、とは言えなかった。

 現に魔族になった自分を圧倒できるだけの力を見せられた。


 自分の知覚が追い付かないほどの速度、普通の人を超えるほど頑丈になった腕を斬り飛ばせる攻撃力。なによりも自分の攻撃が一切通用しなかった。


「お前に聞きたいのは、アルバーン伯爵の娘を犯している毒の解毒薬の在り処だ」


 紅蓮杖は、スタークから奪い取れれば問題ない。

 しかし、解毒薬まで持って帰らなければ依頼完了とは言えない。


 けれどもスタークから告げられた事実は受け入れ難かった。


「はっ、そんな物最初からあるわけがないだろ」


 やっぱり(・・・・)なかったか。


 スタークは、異様なまでにアルバーン伯爵の事を恨んでいた。それこそ娘なんて死んでもいいと思わせるほどに。紅蓮杖を奪った事や代わりになる物を要求したのだって宝物が欲しかったのではなく、伯爵が苦しむ姿が見たかったから。


 最悪のパターンとして薬がないことは予想していた。


「奴に見せた解毒薬は、ただの体力回復効果があるポーションだ。紅蓮杖の代わりになる杖を渡して得られた解毒薬が全くの役に立たない物だと知った時の奴の顔が見られないのは残念だが、奴が絶望することには変わらない。俺と同じ苦しみを味わいながら娘が死んで行くのを見ればいいんだ」


 喋りながら紅蓮杖へと魔力を注いで行く。

 あの量は、マズい。


「全員、死にやがれ」


 スタークが胸を手で貫く。

 瞬間、胸から大量の血が噴き出して同時に大量のガスが周囲に充満する。


 文字通り、命懸けの必殺技。


 紅蓮杖から放たれた炎がガスに引火し、大爆発を引き起こす。

 収納したくても間に合わない。


「諦めないの!」


 俺の背中に手を当てたハルナが声を掛けてくれる。

 背中から伝わって来る魔力を感じながら安心して魔法を発動させる。


「収納」


 足元を中心に地面に描かれた半径30メートルもの巨大な魔法陣が充満していたガスと炎を一瞬の内に奪い去って行く。


 後には無傷な状態で地面とスタークの遺体だけが残されていた。


「よくこんなことができたな」


 俺の収納魔法だけの力では全てのガスと炎を収納するのは無理だった。


「強化魔法の応用よ。魔法の使用者に触れていれば相手の使ったスキルの効果を強化することができるみたい。それでも相手に触れ続けていないと効果を発揮しないから近接戦系のスキルには効果がないけどね」

「そんなことはない」


 現にハルナの強化がなければ全員が爆発に巻き込まれて重傷を死んでいた可能性だってある。


「それで、これからどうするの?」


 解毒薬は最初からなかった。

 毒で苦しんでいる娘の事を思えば忸怩たる思いだろうが、俺には1つだけ思い当たる事があった。


 その前にスタークの遺体を確認する。

 遺体は、胸に穴が空いている以外は普通と変わらない。見た目も普通の人間と変わらない。だが、戦っている最中に感じたこの世の全てを恨んでいる禍々しい気配は普通ではなかった。


 正直、直視しているのも辛い感情だ。

 それでも直視しなければならない。


「あった」


 全ての素材を反映させて強化されたステータスがスタークの――魔族の体内にある魔結晶の位置を教えてくれる。ちょうど心臓のある辺り、スタークが手を付き入れた場所の更に先。

 手が汚れてもいいように収納から取り出した手袋を身に着けながら魔結晶を取り出す。


「これが魔結晶」


 魔結晶は、魔族の持っていた黒い感情とは正反対に真っ白な美しい20センチほどの長さがある細長い結晶だった。


 こんな物がなぜ体内にあったのか?


 色々と疑問があるが、安全の為にも収納に入れる。


「は?」


 体から溢れ上がって来る力に戸惑う。


 ステータスを確認してみると魔結晶を取り込んだだけでステータスが3000も上昇していた。

 レッドドラゴンよりも弱かったスタークの強さを考えると破格の上昇とも言える。


 だが、これには助かる。

 今回の一件で、これまではステータスが1000もあれば大抵の相手には負けないだろうと思っていたが、ショウとハルナは予想以上に苦戦させられた。魔族のような強敵を相手にするにはたった1000のステータスでは足りない。


 しかし、収納容量が限定されているアイテムボックスでは上昇に限界がある。

 小さな素材で大きくステータスを上昇してくれる物は歓迎すべきだ。


「とりあえず、これで依頼完了だな」


 地面に落ちていた紅蓮杖とスタークの遺体を収納する。

 まだまだやらなければならないことは残っている。


今後も気が向けばソーゴたちのアイテム回収にお付き合い下さい。

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