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第6話 魔族との交渉

 商人を助けた後、1時間ほど歩いていると森の近くにポツンとある館が見えた。


 ――あれが魔族の住んでいる館。


 勇者として召喚された俺たちが倒すはずだった存在の1人。


「いるわね」


 館の一室を見ながらハルナが呟く。


「見えるのか?」


 館まではまだ100メートル以上ある。

 しかし、ハルナには見えているようだった。


「あたしも色々とやっていたおかげでステータスを強化する以外の強化魔法の使い方を身に着けたのよ」


 ハルナ曰く、魔力を体の一部に集中させると力を増すことができるとのことだ。

 今回は、目に魔力を集中させることで視力を強化させているらしい。


「で、どうするの?」

「俺たちは解毒薬と家宝の杖を手に入れる為に交渉しに来たんだ。正面から行くしかないだろ」


 まずは対面しないことには始まらない。

 ハルナから魔族のいる3階の部屋を教えてもらって銃口を向ける。


「ちょ……」


 何か言いたそうにしていたが、構わずに引き金を引く。


 銃声もなく発射された巨大な岩の塊。

 館に向かうまでにあった大きな岩をこっそりと収納しておいた物だ。


 発射された大岩が魔族のいる部屋を潰す。


「よし」

「よし、じゃないわよ。何やっているのよ!」

「先制攻撃は必要だろ」

「そうだ。僕たちは交渉に来ているんだからさっさと相手を倒してしまったら交渉ができなくなるだろ。それに相手が持っている解毒薬や杖が壊れていたらどうするんだ!?」

「ああ、それなら大丈夫よ」


 ハルナとショウが俺の行動に対して色々と言ってくるが、2人は別の事で怒っていた。


 ショウは俺の攻撃で目的の品が壊れたり、交渉できなくなったりすることを恐れていたみたいだが、魔族の姿が見えていたハルナには部屋に大岩が叩きこまれる直前に魔族が近くに立て掛けていた杖を手にして逃げ出す瞬間を見ていたみたいだ。


 俺も今の一撃で魔族が死んだとは考えていなかった。


「ああ、分かるぞ」


 ステータスは上げていないはずなのだが、魔族から気配のようなものを感じる。

 収納魔法を手に入れてからスライムやゴブリン、ドラゴンといった野生に生きる魔物を収納した影響なのかステータスに現れない力として気配に敏感になっていた。


 新たに手に入れた自分の感覚を信じるなら魔族は強い。


 その確信が正しかったことはすぐに証明された。


 ――ドゴォォォン。

 部屋の中から放たれた爆発が大岩を砕く。


 砕かれた大岩の破片が外に落ち、大岩が叩きこまれた場所には先端に真っ赤な宝石が取り付けられた杖を持った1人の男が立っていた。

 間違いなく奴が魔族だ。


「お前らか、こんなことをいきなりしたのは!」


 離れているせいで表情は分からないが、声の様子から怒っているのが分かる。

 まあ、部屋でのんびりとしていたところにいきなり大岩を叩き込まれれば誰だって怒るに決まっている。普通なら確実に死んでいる。


 魔族が部屋から飛び降りる。

 3階からの飛び降りだったが、問題なく庭に着地できたようでこちらに向かって走って来る。


 う~ん、なんだか予想していた魔族と姿が違うな。

 魔族――という言葉から悪魔のような黒い肌や角の生えた姿を予想していたのだが、見た目は普通の人と全く変わらない。


 それどころか強そうにも見えない。

 眼鏡を掛けた細い体格に服に隠れていない肌は陽に焼けていない白。しかし、その表情は怒っているせいなのか元からなのか歪んでおり、危険なイメージを抱かせる30代ぐらいの男性だった。


 魔族は近付いて射程の入った瞬間に紅蓮杖から炎を波のようにして正面にいた俺たちに放つ。


 早々に先制攻撃を仕掛けるとか短気な奴だ。

 横へ逃げ出そうとしていたハルナとレイの手を掴んで魔法陣を盾のようにして炎に叩き付ける。


「なに!?」


 魔族にとっては、必殺の一撃だったのかもしれないが平然とした様子で元の場所に立っていた俺たちを見て驚いていた。

 目の前に炎の波を発生させることで俺たちに逃げられない攻撃をした魔族だったが、それは同時に魔族の視界を封じしてしまうのと同義だった。彼には収納魔法の魔法陣に触れた炎が消えた光景が見えなかった。ただ、炎の波が過ぎ去ると立っていた姿しか見えなかった。


「俺たちは交渉に来た。戦いは止めにしないか」

「先に攻撃してきた奴がよく言う」


 魔族の言うことももっともだが、これこそ俺が狙っていたこと。

 交渉を少しでも進めやすくする為に怒らせた。


「俺たちはアルバーン伯爵から依頼を受けて『解毒薬』と『紅蓮杖』を返して貰いに来た冒険者だ。アルバーン伯爵に必要な物を渡してくれないか?」

「チッ、あの野郎どうやって高ランクの冒険者に依頼を出したんだ?」


 どうやら部屋に叩き込まれた大岩や炎の波を防いだことから俺たちのランクを勘違いしているみたいだ。

 アルバーン伯爵は、魔族との誓約によって中級以上の冒険者に依頼を出すことができないようになっている。

 こちから訂正する必要もないので訂正はしない。


「で、返答は?」

「そんなことできるわけないだろ」


 魔族の周囲の景色が揺らめく。

 紅蓮杖の魔力を篭めたことによって炎が生まれたわけではないが、熱が発生しているせいで空気が熱せられている。


「欲しければ俺を倒して勝ち取るんだな」

「結局、そうなるのか」


 そもそも最初から交渉して得るつもりなどない。

 高校生だった俺たちに交渉能力などあるはずもなく、こちらから提供できる物など何もない。

 最終的に力で奪い取るしかない。


「何か考えているのかと思えば結局は出たとこ勝負か」


 俺の行動に呆れながらショウが前に出る。


「そう言うな。戦う以外に取り戻す手段がなかったんだから」


 銃を収納しながら王剣を取り出して前に出る。

 紅蓮杖のように戦いに使える武器ならいざという時にすぐ使えるよう手元に置いていると考えていた。忍び寄って奪う方法も考えなかったわけではないが、俺が魔族と戦ってみたかったというのが大きい。


「これは、マズいな」


 どうにも好戦的になっていることに気付いた。

 魔物の力を取り込んで強くなった影響で気配に敏感になっただけではなく、性格まで好戦的になっている可能性がある。


「何を言っていやがる!」


 俺の呟きが聞こえたのか魔族が杖の先端に発生させた炎の球体を飛ばしてくる。


 前に出た俺とショウが避けると炎が後ろへ飛んで行く。

 魔法を使った反動なのか魔族が息を吐いていた。


 その隙に斬り掛かると紅蓮杖で刃を受け止められた。王剣には流された魔力量に比例して斬れ味が増すという効果があるが、万が一にも紅蓮杖を傷付けてしまった時に備えて魔力を流していなかった。おかげで紅蓮杖が傷付けられることはなかった。


「後ろの女2人は戦わないのか?」

「彼女たちは戦闘向きではないんでね」


 剣と杖で鍔迫り合いをしている間にも銀色の双剣を持ったショウが斬り掛かる。


「ウゼェ」


 紅蓮杖を持たない手から放たれた炎がショウを襲う。

 舌打ちしながら後ろへ飛ぶと炎を回避し、銀色の槍を投げる。


「ぐわっ」


 突然、炎の向こうから跳んできた槍に対処できずに左肩を僅かに斬られていた。

 ショウとしては、槍で魔族の体を抉るつもりだったのだろうが、炎で視界が塞がれていたせいで狙いが逸れてしまった。


「お前ら……!」


 魔族が攻撃してきた俺とショウの2人を睨み付ける。

 ハルナとレイは離れた場所で戦いを見守っているため相手は俺たち2人だけだと思っているみたいだ。


 だが、この場にはもう1匹いる。


「ぐわっ」


 背中を鋭い刃で抉られた魔族が唸る。


「スライムだと!?」


 振り返れば、そこには銀色のスライムがいた。

 ショウが使っていた双剣や槍はメタルスライムが変形した物だ。投げられた槍は魔族の背後で地面に突き刺さると元のスライムの体へと戻り、体の一部を鎌のようにして魔族に襲い掛かっていた。


 メタルスライムが得意げな様子でショウの下に戻る。

 自分で攻撃することよりもショウに使われることが嬉しいメタルスライムは追撃をしない。


「で、それがどうした?」


 俺に背を向けている魔族が呟く。

 メタルスライムの斬り付けた傷が見えている俺には信じられなかった。


 斬られた場所からシュウシュウと音を立てながら煙が発生し、傷口が塞がっていた。


交渉? 知らない言葉ですね。

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