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第3話 ハズレスキル

 異世界召喚4日目。

 この日もグループ毎に分かれて騎士が1人付いてスキルの習得に勤しんだ。


 できることの少ない俺はひたすら色々な物を収納して、収納した物を取り出すという作業を繰り返していた。

 結果、触れる必要はあるが、どんな物でも触れることによって収納することができることが分かった。


 それにみんなを見ていて気付いたことだが、スキルを使用すると魔力を消費していることが分かった。だから自分の魔力の残量には気を付けている。元々の世界では身に付けていなかった力だけに気を付けていないとすぐに空っぽになってしまうので慎重になっている。

 けれど、俺はどれだけ収納魔法を使い続けても魔力を消費した様子がない。

 ステータス画面には現在の最大値しか表示されないので本当に消費されないのかは分からない。



 異世界召喚5日目。

 本当にやることがなくなってしまった俺は、城の中をうろついていた。

 他のみんなはスキル習得の為に動いているが、できることの確認も終わった俺は担当教官でもあるライデンさんに許可を貰って散歩をさせてもらっている。


「あ……」

「おや?」


 俺と同じように城内を散歩している眼鏡を掛けた男子生徒がいた。

 相手は、俺と同じ制服を着ており、ネクタイの色から同じ1年生だということが分かる。


「こんなところで何をしているんですか?」

「そっちこそ」

「退屈なんですよ」

「退屈?」

「弱いスキルをもらったせいで使い方は既に把握してしまいました」


 つまり、俺と同じ理由で場内をブラブラしていたということか。


「一緒に付いてきませんか?」


 男子生徒に誘われて場内を歩いていると書庫へと案内された。


 書庫には俺たちの身長の倍近くある背の高い本棚に本がぎっしりと詰め込まれており、それが奥の方まで並べられていた。

 書庫には昼間だというのに誰もいない……いや、女子生徒2人がテーブルに座って本を読んでいた。


「あ、翔」


 俺たちが入って来たことに女子生徒の1人が気付いて手を振っていた。


 あの女子生徒……いや、自分の隣にいる男子生徒にも見覚えがある。

 召喚された当初にスキルを確認している最中に収納魔法という大凡戦闘には使えなさそうなスキルだと分かった時に元の世界へ返してくれと言った時に便乗してきた奴らだ。

 あの時の様子から2人もハズレスキルだったんだろうな。


「あれ、翔と一緒にいるのは元の世界に戻してくれって言っていた人だね」

「ああ……さっき散歩している最中にそこで会ってな」


 翔、と呼ばれていた男子生徒がさっきから話している女子生徒の正面に座る。

 俺も隣に座る。すると目の前には、もう1人の女子生徒が座っており、自然と目が合ってしまったのだが、目を逸らされてしまった。


「ごめんね。この子、人見知りだから初対面の人にはいつもこうなのよ」

「気にしてないから大丈夫だよ」

「同じ1年だし、気楽にやりましょ」


 あらためて全員のネクタイとリボンの色を確認してみる。

 うん、全員青色だから同じ1年生だ。


「で、こんな場所にいるっていうことはアンタも大したスキルを貰えなかったんでしょ」

「たしか収納魔法だったな」


 安藤たちとのやり取りを覚えていたのか男子生徒が俺のもらったスキルを言い当てる。


「そうだよ」

「なに不貞腐れているのよ。せっかくだから自己紹介でもしましょ」


 俺に便乗してきた時には大人しい少女のようなイメージがあったのだが、あの時は異世界に召喚されたばかりで緊張していたのか今は笑いながら話し掛けてきていた。


「あたしは1年1組の(くし)(かわ)榛名(はるな)。もらったスキルは『強化魔法』ね」


 櫛川榛名と名乗った女子生徒は、肩までかかった茶色い髪を揺らした活発な少女だった。


「強化魔法……?」


 字面だけで考えるなら強力そうなスキルに思える。

 しかし、本人はハズレスキルだと言っている。


「こんなスキルで魔王と戦おうとなんて無理無理。そりゃ、身体能力を強化すればアスリート並みに体を動かすことはできるようになるわよ」


 けれど、そこまででしかない。

 とてもではないが、魔王と戦えるような力はない。


「騎士の人とも話し合ってみたけど、仲間も含めて味方の能力を強化させる魔法らしいんだけど、あたしの魔法ってポンコツらしくて自分が触れ続けていないと効果がないみたいなのよ」

「なんだ、それ」


 つまり、仲間を強化する為には常に触れ続けていなければならない。

 戦闘中にそんなことができるはずがない。

 仮に前衛で剣を振るって戦っている味方の能力を強化する為に体のどこかに触れ続けていれば、はっきり言って邪魔になる。


「しかもちょっと強化するだけならそういう薬品があるらしいから使えないスキルだって見切りを付けられたってわけ」

「そうか……」


 俺と同じでアイテムで補うことができるのなら役立たずと判断されたのも頷ける。


「じゃあ、俺からも。俺は1年2組の渡来颯悟。もらったスキルは『収納魔法』。実物を見たことはないけど、アイテムボックスっていう道具があるらしいから自主的に訓練は休ませてもらっている」


 そのアイテムボックスについても2日目の内に簡単な説明を聞いている。

 効果の付与された道具によって形状は違うものの一番簡単な物で巾着袋のような小さな袋の中にある空間が拡張されているため色々な物を入れて置けるらしい。

 既に量産も可能な技術なので明日ぐらいには全員に支給されるらしい。


「次は、僕の番だな。僕は1年3組の増田翔」


 同じ男子でクラスも隣なのですれ違う程度だが、何度か学校で顔を見たことはある。


「もらったスキルは『錬金魔法』」


 錬金魔法?

 俺が詳しい効果を知らずに首を傾げていると増田が制服のポケットからビー玉サイズの金属の塊を取り出してテーブルの上に置く。

 魔力を指先に集中させた手で上から押すとビー玉がぐにゃりとへこんで板のように延ばされる。


「これが錬金魔法だ」

「ええと、ビー玉を潰すことが」

「違う。錬金魔法は、触れた金属の形を変えることができる」


 強力そうなスキルに見えるが、これも鍛冶師がいれば代わりの務まるスキルだけに注目されなかったのだろう。

 武器を戦闘中に造るわけになんていかないし、錬金魔法が必要とされる場面があるとしたら拠点に帰る前に一時的でもいいから武器を必要としている時に修復してもらうぐらいだろう。帰ってからは鍛冶師がいるから必要とされていない。


「で、もう1人の方は?」

「えと……」


 持っていた本で顔を隠されてしまった。

 女子とはそれほど仲良くした経験がないだけに人見知りのせいなのだろうが、そういう反応されてしまうとちょっとショックを受けてしまう。


「ごめんなさい。私は、1年1組の天堂励です」


 自分の名前だけ告げるとサッと櫛川さんの後ろに隠れてしまった。

 黒髪を左側にまとめてサイドテールにしているので顔を隠してもしっかりと見えている。


「ごめんなさい。私と同じクラスで今は仲良くしてくれて、翔は幼馴染で私を通じて慣れてくれたみたいなんだけど、初対面のあなたはやっぱり難しいみたいね」

「はぁ」


 そういうものだろうか?


「この子のもらったスキルは『薬調合』なんだけど、簡単に言えばポーションを造る能力みたいね」


 ポーション――ゲームをやったことのある者なら誰もが1度は聞いたことのある薬品の名称だ。体力や魔力を回復させてくれる。


 今までの流れを考えれば分かる。

 薬調合もそれほど珍しいスキルではなく、城に仕えている者の方がより強い効果の得られる薬品を造ることができるので天堂さんの活躍できるような場所はなかったというところだろう。


「あ~、異世界に来ればもっと面白いことが起きるかと思っていたけど、あたしたち4人には厳しい現実が待っていたわね」


 幸い、城にいる人はみんな人が好さそうなので邪険にされるようなことはない。

 だが、魔王を倒す為に呼ばれたにも関わらず何もせずに過ごしているというのも気が引ける。


「ま、魔王退治とかは勇者に選ばれた工藤先輩とかに任せよう。俺は荷物持ちでも頼まれたら協力するつもりではあるけど、どれだけ需要があるかなんだよな」


 異世界に召喚されてから5日目は、同じようにハズレスキルを与えられた3人と喋って過ごした。


メインキャラ4人です

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― 新着の感想 ―
[一言] 結構良いスキル揃ってるような気がするけど。 熟練度があって育つのなら、育ててみればいいよね。 どうせ降って湧いた力なんだし、何も損しないし。
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