第2話 従魔
「うわ、すごい威力だな」
銃を開発した翌日。
早速性能を確かめてみる為に討伐依頼を受けて目の前に現れたゴブリンに向かって撃ってみる。
結果は――
「これ、どう考えてもオーバーキルじゃない?」
発射された50センチの弾丸がゴブリンの胸を貫通していた。
せっかく造ってもらったので撃ってみたくなってしまった。
「それを銃と呼んでいいのですか?」
「ま、あくまでも銃は狙いをつける為に必要なものだからな」
面白半分で製作を依頼してみた銃口よりも大きな銃弾。
俺の銃はあくまでも収納魔法の使用時に照準をサポートする為の道具でしかない。
だから銃口を向けるだけで巨大な弾丸すら撃つことができる。
「次はちゃんとした弾丸を撃つから」
笑いながらゴブリンが現れるのを待っていると1分と経たずに現れた。
ゴブリンは単体としての能力は総じて低いが、繁殖能力が異常であるためどれだけ駆除をしたところで追い付けないらしいので人を襲うことに快感を覚えたゴブリンからまとめて駆除することにしているらしい。
今度は普通の銃弾を撃つ。
うん、狙いはきちんと付けられるようになっているようでゴブリンの眉間をしっかりと貫いていた。
「でも、やっぱりこれは銃じゃないよな」
なんせ銃弾を発射しても硝煙が発生することもなければ銃声すらしない。
そういう機能を持たせていないのだから当然と言ってしまえばそれまでだが、やはり銃とは別物――銃の形をした魔法発動媒体でしかない。
ま、便利なので今後も使わせてもらう予定だ。
☆ ☆ ☆
「ただいま戻りました」
「おかえり」
メテカルの門の前で警戒していた門番さんに挨拶をする。
「全員無事みたいだな」
この人は、俺たちが最初にメテカルに辿り着いた時から色々とよくしてくれており、若者が無事に帰ってきてくれたことを純粋に喜んでいた。
ポケットから冒険者カードを取り出して身分を証明する。
「確認した。一応スライム君のも確認させてくれるかな?」
腕輪としてショウの腕に纏わり付いていたメタルスライムが地面に着地する。
スライムの姿に戻ったメタルスライムの体にはプレートのような物が浮いていた。
普段は、腕輪になっていて魔物だとは思われない姿をしているメタルスライムだが、まさか本当にそのまま街の中にまで入ってしまうことには問題があった。
もしも何らかの理由で変身が解けてしまった時には魔物だと知られてしまう。
従魔を連れ込むには警備隊に登録をしなければならない。
そのため錬金術師の館からメテカルへ戻るまでの間に話し合って門の近くにあった詰め所でメタルスライムの従魔登録だけは行い、普段は腕輪になってもらって目立たないようにしてもらっていた。
「それで、スライム君の名前は決まったかい?」
メタルスライムの体の中にあるプレートが従魔であることを証明する物になる。
このプレートは『保護』の魔法効果が付与された魔法道具でスライムの体内に収めても問題ないとのことだった。
プレートには従魔の名前を書く場所があり、主人と従魔の名前を書いた状態にすることで初めて本登録となる。
そのことを知った時、俺たちの間に問題が発生した。
メタルスライムの名前だ。
「はい、シルバーです」
安直だとか言わない。
ハルナとレイが色々とカッコいい名前を考えてくれたのだが、メタルスライムとしては主人であるショウに決めて欲しかったらしく見た目の銀色から最初に呼んでしまった『シルバー』を気に入ってしまった。
俺? 俺は『メタル』とか『スラ』しか提案できなかったよ。
俺もショウのネーミングセンスについては言えないな。
メタルスライム――シルバーも体をプルプルと動かして嬉しそうにしている。
「街の中では腕輪として生活するなら問題ないかもしれないけど、従魔が起こしたトラブルの責任は主人の問題となるからくれぐれも気を付けてね」
「「「「はい!」」」」
俺たち4人だけじゃなくシルバーも頷いている。
こいつも立派な俺たちの仲間だな。
☆ ☆ ☆
「依頼の方は大丈夫だったみたいですね」
ギルドに戻って来た俺たちを担当であるシャーリィさんが迎えてくれた。
いや、担当みたいな制度はないんだけど、冒険者だって自分たちの事情や実力を知っている相手に受付をしてもらった方がスムーズに話が進むので対応してくれる相手は自然と同じ相手になる。
俺たちも最初に登録してくれたシャーリィさんを手が空いていれば真っ先に頼るようになっていた。
シャーリィさんにゴブリンの耳を渡す。
「みなさんしっかりと実力を付けて行っているみたいですね」
実際には収納魔法によってステータスを上げているだけなので実力が付いているのとは事情が違う。
ちょっとズルをしているようなものだ。
「ええと、依頼の方はこれで完了となりますが、実力の方も問題なさそうなのでFランクからEランクへランクアップをさせてもらいますね」
下級ランクの間は受付嬢の一存でランクアップを決めることができるので簡単にランクアップすることができる。
シャーリィさんが俺たちの冒険者カードを持ってギルドの奥へと消える。
「なんか順調にランクアップできているみたいね」
ちょっとハルナのテンションが高い。
俺だけはDランクに昇格していたが、他の3人はFランクのままだった。少しだけ追い付けたことが嬉しいみたいだ。
ああ、この展開は小説なんかでよくあるテンプレ展開の1つ――異常な速さでのランクアップに近いものがある。
けど、俺たちの場合はランクアップに2週間も掛けているから特別に速いというわけでもない。
「残念だったな。GランクからEランクへの最短ランクアップは2日だ」
「2日ですか!?」
『運び屋』という二つ名をもらうほど有名になった俺は冒険者の間で広く知られるようになっており、時々こうして話し掛けられることがある。
今、最短ランクアップについて教えてくれた筋骨隆々の背中に大剣を背負った男性も先輩冒険者の1人だ。
「それは速いですね」
Gランクから開始したということは、最初は戦闘能力を持っていなかったことになる。
実力があるにも関わらずわざわざ報酬が少なく、雑用依頼しかないGランクから始める冒険者はいない。つまり、Gランクから始めたということはランクアップ前だと実力がなかったということだ。
「遠い異国での話だが、冒険者登録をした翌日に魔物の暴走があったみたいで逃げ遅れたそいつが巻き込まれたらしくて死にかけていたんだけど、死にかけたせいか起き上がる頃には強力なスキルを手に入れたらしく、手に入れたスキルで敵を次々と倒して行ったらしい」
「へぇ~」
ハルナが興味なさそうにしているが、その目は興奮している。
逆境からの成り上がり。
それこそハルナが好みそうな展開だ。
あいにくと必要以上に目立つつもりはないので圧倒的なステータスを利用して無謀な依頼を受けるつもりはないので、そういった展開にするつもりはない。
「今度、一緒に仕事をしよう。レッドドラゴンから逃げられたお前たちなら実力は十分だろうからな」
「はは……」
いつの間にか冒険者の間では俺たちがレッドドラゴンから逃げ延びることができたという話になっていた。
ベテラン冒険者なら同じくベテランのフリックさんたちが姿を消していることに気付く。そうなれば唯一の生き残りであるゼンさんから話を聞き出そうとする。あらかじめゼンさんには語らないようにお願いしていたので、嘘の話として『フリックさんたちが時間を稼いでいる間に逃げ延びた』という話になっていた。
さすがにFランクの新人冒険者がレッドドラゴンを単独で討伐したと言っても信じてもらえないだろう。
「あの……」
シャーリィさんが戻って来ていた。
「こちらが新しい冒険者カードになります」
「ありがとうございます」
Eランクに昇格した冒険者カードを受け取る。
「それからギルドマスターがお呼びです」
目立つつもりはありませんよ。




