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第23話 スライム創造

 スライムの出没する館を進む。


「ねぇ、こっちで本当にいいの?」


 不安そうにハルナが問いかけてくる。


「さあ?」

「さあ!?」


 館のどこに目的の代物があるのか分からない。

 初めて館を訪れた俺に分かるはずがない。


「とりあえずこの部屋から入ってみるか」


 いつまでも廊下を歩いていても意味がない。


 玄関から1番近くにあった部屋の扉を開ける。

 その部屋は書斎だったらしく、埃を被った本棚と机が置かれているだけで他には何もない。

 本が収められているべき本棚にも本が数冊残されているだけだ。


 手分けして残された本を確認してみる。

 俺が手に取った本には何やら難しい文字が羅列されていた。


「加護のおかげで文字そのものは読めるんだけど……」


 書かれている意味が分からなかった。

 おそらくスライム精製に必要な組成式のような物が書かれているのだが、加護の力を持ってしても異世界特有の固有名詞はそのままカタカナに翻訳されてしまうらしく何を示しているのかが分からない。


「なんだよ、このカレージア液って」


 持って帰っても理解するのに時間が掛かりそうなため本は放置していくことにする。


 仲間の様子を確認するとレイが本を読んでうんうんと頷いていた。


「何か興味を惹かれる物でもあったのか?」

「それが、この人薬草関係の研究もしていたらしくて調合についての記述があったみたいなんです」

「だったら持って帰ってもいいんじゃないか?」

「大丈夫でしょうか?」


 本棚の様子を見ると最初は本が何冊もあったのだが、後から持ち去られたのか何冊かだけ残されている状態だ。

 どうやら本人の許可なく本を持ち帰ることに抵抗があるらしい。

 人の所有物を持って帰ることに抵抗がなくなってしまった俺がおかしいみたいだ。


 本を持ち帰るのは普通なら重たくて大変なところだが、アイテムボックスがあるため楽に持ち帰ることができる。


「げっ……!」


 ハルナが女子にあるまじき声を上げていた。


「どうした?」

「見てよこれ」


 ハルナが見せて来た本には何種類ものスライムが描かれていた。

 館の玄関ホールで戦ったスライムも描かれている。


 スライムの図鑑?


「どうもこの館に住んでいた錬金術師は強いスライムを魔法で作り出そうとしていたらしくて、この本は研究成果みたいね」

「マジか」


 それなら玄関ホールで戦ったスライムが雑魚スライムではなかった理由にも納得できる。

 強いスライムを生み出そうとしていた錬金術師の館にいるスライムが雑魚なはずがない。


 本によると先ほどのスライムは研究の初期段階で生まれた力の弱いスライムで溶解能力を付与することはできたものの特筆するべき能力はないとのことだった。


「あの強さで弱い……?」


 同じように本を読んでいたショウが呟く。


 戦っていないハルナとレイには分からないかもしれないが、俺たちは強化されたステータスを用いて全力で攻撃した。

 それでも完全に削るのに10回近い攻撃を必要とした。


「あれ、雨漏り……?」


 スライムの強さに疑問を持っているとレイが部屋の入口付近で天井から水が落ちて来るのに気付いた。

 いや、さすがにそれはおかしい。


「2人とも下がれ!」


 スライム相手では戦力になりそうにないハルナとレイに下がるよう言う。

 ここは1階で館は少なくとも2階以上がある。


 天井だけでなく1階と2階の間にある床板にも隙間が出来ている可能性があるが、1階まで雨漏りが届くとは思い難い。もう1つ、すぐ上が水場で漏れた水が落ちて来た可能性もなくはないが、書斎のすぐ上が水場である可能性は低い。


 果たして、上から落ちて来た物の正体が分かった。

 それは、床に落ちた液体を一か所に集めると玄関ホールで戦ったスライムと同じくらいある1メートルサイズのスライムへと姿を変える。


 ただし、色は青ではなく黄色。


 核の位置も既に見えている。


「行くぞ」

「やるしかないか」


 女子2人を守る為にも俺たちが処理するしかない。

 スライムに近付くと核へ向かって粘性の体に武器を当てる。

 しかし、スライムの体に当たった瞬間に弾かれて手からすっぽ抜けてしまった。


「「は……?」」


 素手のままではスライムとは戦えない。

 ダメージを与えられないとかではなく単純に素手でスライムに触りたくない。


「おい、どうなっているんだ?」

「僕だって知らない」


 書斎の隅まで飛んで行った武器を回収しスライムに対して構える。

 だが、同じように攻撃しても再び弾かれるような気がして動けずにいた。


「ちょっと待って!」


 本に目の前にいる黄色いスライムについての記述が描かれていないのかページを捲って黄色いスライムを探す。


「あった。あのスライムは物理攻撃に対しては強力な防御能力を持っている、だって」

「強力!? 強力ってどれくらいだ!?」

「あたしに聞かれても分からないわよ!」


 それもそうだ。

 そんな言い合いをしている内にスライムがこちらへと近付き始めてしまった。


 どうする!?

 強力な物理耐性というのなら許容量を超える攻撃力で攻撃すれば倒すことができるのかもしれない。


 いや、全力で斬るよりも手っ取り早い方法がある。


「フレイム」


 一覧から『レッドドラゴンの炎』を選択して解放すると手の中に炎が生まれる。


「行け」


 炎の塊をスライムに向かって投げる。

 物理耐性を得ているせいか動きの遅いスライムは避けることもなく炎を浴びている。


 やがて炎が静まるとスライムは跡形もなく消え去っていた。

 粘性の体だけでなく、スライムの核まで。


「ちょっと勿体ない気もするけど、テストにはちょうどよかったかな」


 レッドドラゴンのブレスだった炎が魔物に対してどの程度の力があるのか試してみたくはあった。

 結果、スライムの燃やし尽くせるだけの威力があることは分かった。


 ただ失敗もある。


「ちょっと、屋内で火の魔法を使うとか何を考えているの!?」

「いや、問題なかっただろ」


 最初は物理耐性があるなら魔法で倒せばいいという単純な考えだった。

 現に魔法に対する耐性は持っていなかったみたいで簡単に倒すことができた。


 館にまで燃え移らなかったのは偶然だ。


「物理耐性を持つ相手でも問題なく倒せることが分かったところで次の部屋に行ってみよう」

「あ、ちょっと……!」


 館が燃やされそうになったことを怒るハルナを無視して廊下へと出る。


 しかし、屋内でも使えるように使い方は工夫しなくてはならない。

 というのも俺たちの中で炎のような攻撃に使えるような魔法を扱えるのは俺しかいない。先ほどのように物理耐性を持っている相手が現れた時の対策は必要になる。


「おいおい……」


 廊下に出た瞬間、思わず言葉をなくしてしまった。


「げっ……」


 ハルナがまたしても女子にあるまじき声を上げている。

 ちょっと注意をしておいた方がいいかな?


 いや、今はそれよりも廊下にいるスライムだ。

 書斎にこもっている間に溢れ返ってしまったのか10体を越えるスライムで埋め尽くされている。

 幸いなのは彼らの色が青いことだ。


「初期段階で作られたから大量にいるってことか」


 そして、まるで何かを守るように廊下で立ちはだかっているスライムの向こう側に何があるのか?


「いや~、ちょっとした宝探し気分だな」

「絶対にイヤ!」


 スライムを受け入れられないハルナには宝探し気分にはなれなかったらしい。


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