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第20話 付与

 翼以外にも鱗や爪を見せると本物のレッドドラゴンだと判断して正気に戻ってくれた。


「いったい、こんな物をどうしたんだ?」

「もちろん討伐したんですよ」

「レッドドラゴンの討伐なんて人外のSランク冒険者や軍が犠牲を出しながらでないと討伐できない代物だ。その討伐したレッドドラゴンを1人で丸々収納しているっていうことは単独討伐、だよな?」


 それでも呆然としたまま状況を分析するバルガさん。

 まあ、俺たちの事情を説明したので異世界に来てから1カ月も経っていない素人同然な子供であることは知られている。そんな子供がドラゴンを単独で討伐してしまった事実が信じられないみたいだ。だが、同時に異世界から召喚された人物ということで無理矢理納得しようとしているみたいだ。


「分かった。牙を何本かと眼球をくれ。それで俺の錬成魔法を見せてやろうじゃないか」

「お願いします」


 ショウがお礼を言っている間に一覧を呼び出してレッドドラゴンの眼球と牙を指定する。

 突然俺の手の中に現れた眼球と牙を目にしてバルガさんが目を丸くしていた。


「それにしたって普通の収納魔法使いは1人でレッドドラゴンを丸々収納するような真似はできないぞ」

「その辺は、ちょっと事情があるんですよ」


 この世界のことにあまり詳しくない俺でも収納することによって自分のステータスを上げられる収納魔法が異常なことは分かる。

 ある程度信頼することのできるバルガさんだが、まだそこまで踏み込んだことを教えるつもりはない。


「分かった、俺の職場を見せてやるから付いて来い」


 ダイニングを離れて2階へと向かい、1番奥の部屋に入る。

 そこは書類や本が床に広げられており、足の踏み場などない状況だった。そんな部屋をバルガさんは慣れた様子で隙間に足を置いて奥へ奥へと進んで行く。自分は奥にあった机に腰掛けるが、俺たちには何も提供されない。どうやら適当に座れ、とのことらしい。


「俺の仕事だが、主に依頼のあった魔法道具を作ることにある」

「その方法を聞いてもいいですか?」

「方法を教えるだけなら問題ない。というか城の連中から教わらなかったのか?」


 ショウが首を横に振る。

 おそらく宰相たちは最初から後方支援向きなスキルを持っていた俺たちのことを切り捨てるつもりでいたのだろう。

 だから錬金魔法の応用方法など教えなかった。


「俺が持っているスキルは『錬成魔法』だが、物質を変形させることのできる能力を持っている」


 物質を変形させる。

 それだけならショウの持っている『錬金魔法』と同じような気がするが、適用範囲が桁違いだ。


「お前の錬金魔法は金属に限定された能力だが、錬成魔法は対象を選ばない。そのうえ、力が劣るわけでもないから『錬金魔法』は『錬成魔法』の劣化版なんていう意識が持たれているんだ」


 事実、その通りなのだろう。


 金属を変形させられる能力と何でも変形させられる能力。


 どちらが上かと尋ねられれば全員が『錬成魔法』を支持するだろう。


「でも、今言いましたよね? 錬金魔法と錬成魔法にできることは同じだって」

「ああ、そうだな」

「つまり、錬成魔法にできる魔法道具の作製は錬金魔法にもできるんですね!」

「そうだ」


 それは、ショウが強くなるために提示された1つの可能性だ。

 魔法道具が自由に造れるようになれば今まで以上に戦略の幅が広がる。


「ただし問題がある。魔法の付与は金属とは相性が悪い。だから金属製の武器で魔法効果が付与された魔法道具を造ろうとすれば、素材に相性のいい金属を使用しなければならない。しかも、その金属は無茶苦茶貴重価値(希少価値?)の高い代物だ。そうなると新しい世代が育たなくなって、いつしか錬金魔法での魔法道具作製はされなくなったんだ」


 ある意味、時代に淘汰されたとも言える。

 昔は多く採掘された資源みたいだけど、有限である以上はいつしか採掘され尽くしてしまう。


「まあ、見ていろ」


 バルガさんが机の上にあった鳥の羽らしき物と木の枝を持って錬成魔法を発動させる。すると2つの素材が光に包まれ、中間でぶつかり合うと先端の鋭く尖った矢へと姿を変えていた。


「これが錬成魔法だ」


 金属しか対象にできない錬金魔法では作れない矢。


「で、ここからが錬金術師として本領発揮だ」


 矢に手を翳したバルガさんの掌に真っ赤な魔法陣が浮かび上がった。

 俺が収納魔法を使っていた時に出現した魔法陣とは色も描かれている幾何模様も全く違っていた。

 やがて、3秒ほど矢の前で止まっていたと思ったら溶けるように矢へと吸い込まれて行った。


「これで、爆発する矢(バーストアロー)の完成だ」

「バーストアロー?」


 矢の名前に首を傾げているとバルガさんが矢に魔力を流した。

 魔力を受けた矢は、内部にある魔法効果を発動させ鏃に炎を纏わせた。


「おお……!」


 鏃に点った炎は静かに燃えていたが、すぐに消えてしまった。

 どうやら魔法効果を発動させる為に流した魔力量によって威力や持続時間を調整できるようになっているらしい。


「錬成魔法で作り出した物に魔法効果を持つ魔法陣を埋め込み、魔法効果を発動させられるようにする。これが魔法効果の付与だ」

「錬金魔法にも同じことができるんですか?」

「できる。ただし、金属とは相性が悪いから難しい。残念なことに錬金魔法で魔法効果の付与ができるほどの金属はここには……」


 ここにはない、と言おうとしたバルガさんの視線が俺の方へと向けられる。


「いや、あるかもしれないな」

「本当ですか!」

「ああ、お前の持っているレッドドラゴンの鱗。ドラゴンの鱗は金属以上に硬いって言われるほど頑強だ。もしかしたら錬金魔法の対象になっているかもしれないぞ」

「なるほど!」


 ショウの期待に満ちた目を向けられる。

 レッドドラゴンの素材ということは、俺の圧倒的なステータスの元になっているということである。


 そんな貴重な素材を練習用に使っていいのか?

 そんな遠慮が伺える。


「まあ、問題ないだろ」


 さすがに全部を渡すわけにはいかないので一部だけを収納から取り出す。


「ありがとう」


 お礼もそこそこに錬金魔法を発動させると変形そのものは簡単にすることができた。ということはレッドドラゴンの鱗は金属であると魔法によって証明されたようなものだ。

 ドラゴンの鱗だった物は腕輪へと姿を変えている。


「問題は、その鱗だった腕輪に魔法の付与ができるかどうかだな?」

「そもそも魔法の付与はどうやってやるものなんですか?」

「付与したい魔法の魔法陣を自分の創造した物体にぶつける。すると溶けるように魔法陣が消えるからそれで完成だ」


 ただ魔法陣をぶつける。

 それだけの簡単な作業に思えるかもしれないが、そもそもショウは魔法陣についての知識を持っていなかった。


「あの、魔法陣って何ですか?」

「……魔法使いの中には魔法を発動させる為の補助として魔法陣を発生させることのできる奴がいる。要は魔法発動の補助装置だ」

「でも僕に使えるのは錬金魔法だけで魔法陣は出せませんよ」

「魔法効果を付与する時は、自分が魔法陣を出せる必要はない。付与したい魔法効果を持つ魔法陣を正確に記憶してイメージするだけでいい」

「イメージ……」


 とはいえ、ショウは正確に知っている魔法陣は1つもない。

 王城にいた頃は魔法使いの魔法陣が後々に必要となるとは全く思っていなかったため正確に記憶していなかった。


「これが少々厄介なところでな。魔法陣の記録というのは、それだけで1つの財産となる。だから教える側は、よほど信頼のできる相手にしか自分の知っている魔法陣について教えない。俺もお前たちより幼かった頃に師匠に扱き使われてようやく教えてもらった魔法陣だから、さすがに金を出されても教えるわけにはいかない」

「そうか……」


 つまり、何らかの魔法陣を手に入れなければ魔法の付与はできない。

 というわけで、俺からプレゼントさせてもらおう。


「これを記憶しろ」


 俺の収納魔法の魔法陣を出現させてショウに記憶させようとする。


「おいおい……お前が持っているスキルは、たしか収納魔法だったよな! その魔法陣を持っているとかどういうことだよ!?」


 想像以上にバルガさんが驚いていた。


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