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第19話 錬金術師

 翌日、ギルドマスターから貰った地図を頼りにメテカルを歩いて紹介された錬金術師が住んでいるという家へとやってきた。


 そこは、一般的な住宅が3軒分はある大きさの家なのだが、門の前から見える庭は手入れがされていないせいで草が無造作に生えていた。窓も締め切られており誰かが住んでいるようには見えなかった。


「ここ、かな?」

「人間嫌いということですし、人が訪れるのを拒んで自分からも出て行かないからこのようになってしまったのでは?」


 レイが言うことももっともだ。

 とにかく錬金術師に会わなければ始まらない。

 鉄製の門扉を開けて家の玄関に付けられたドアノッカーを叩く。


 だが、1分経っても誰かが出てくる様子はない。


 コンコンコン。


「うるせぇな!」


 仕方なく何度も叩いていると家の中から怒号が聞こえて来た。

 声の主は家の外からでも聞こえるほど大きな音を立てながら玄関の方へと近付いてくる。


「いったい、何の用だ!?」


 玄関を開けてすぐに男性が怒鳴って来た。

 驚いたレイが俺の後ろに隠れてしまっている。


 男性は髭で顔を覆っており、俺たちよりも高い身長と着ている青い服を内側から筋肉で盛り上げていた。なんというか……熊みたいな人だな。そんな姿で威圧されればレイでなくても女性なら委縮してしまう。ハルナは平気みたいだ。

 錬金術師っていうぐらいだからインテリみたいな人を予想していたんだけどな。


「悪いが、誰にも会うつもりはねぇ」

「冒険者ギルドのギルドマスターからの紹介で来ました冒険者のソーゴです。ぜひ話を聞いて欲しいんです」

「あ? クロードの奴の紹介か?」


 クロードというのはギルドマスターのことだろう。

 そう言えば名前を聞いていなかった。


「本当か?」

「あ、はい」


 地図を見せる。

 そこにはギルドマスターの字で「よろしく頼む」と一言だけ書かれていた。こういう場合は紹介状でも書くのが普通なのだろうが、彼相手にはこれで十分と思われたみたいだ。


「チッ、奴の紹介なら無碍にもできねぇな」


 今にも俺たちを追い返しそうな形相をしていた錬金術師だったが、ギルドマスターの紹介だと分かると家の中へと通してくれた。


「入れ」


 屋敷を奥へとドカドカ足音を立てながら進んで行くので俺たちも仕方なく付いて行く。

 案内された部屋には8人掛けのテーブルが置かれたダイニングのような部屋なのだが、普段は使用されていないせいか若干埃っぽい。


「座れ」


 言葉は最小限。

 とりあえず錬金術師の言葉に従ってテーブルの前にあるイスに座る。


「まずは自己紹介から冒険者のソーゴです」

「同じくショウです」

「ハルナ」

「……レイです」

「魔法道具の研究をしている錬金術師のバルガだ。悪いが、研究の方が忙しいんで用件をさっさと聞くことにしよう」


 突然の来訪とはいえ、どうにも歓迎されていなかった。

 しかし、魔法道具を専門に研究している相手と話ができる機会は貴重だ。


「俺たちはある魔法道具を探しています。その在り処について知っていることはないかと訪れた次第です」

「ある魔法道具?」

「楽園へと連れて行ってくれる魔法道具――覚えはありませんか?」

「……お前ら、魔法道具に関しては素人だな。どこでその存在を知りやがった?」

「教える前に1つだけ確認しなければならないことがあります」

「なんだ?」

「俺たちの正体について話さなければなりませんが、俺たちの正体について黙っていることを誓えますか?」

「悪いが人の秘密をペラペラと喋るような相手はいない」


 ちょっと寂しい理由だった。

 まあ、俺との約束を破って誰かに喋ってしまったのだとしても敵対すればいいだけの話だ。レッドドラゴンを手に入れる前なら躊躇したかもしれないが、今は軍が総出で討伐しなければならない魔物に及ぶ力を持っている。俺たちの存命が知られて追われる身になったとしても国外へ逃げ切れるぐらいの時間は稼げる。


「では、お教えします――」


 自分たちが異世界から召喚されてきた人物であることや以前の勇者が遺した手記から魔法道具の存在を知ったことを教えた。

 俺たちが魔法道具の存在について知った理由を知るとバルガさんがニコニコし始めていた。


「そうか。勇者が言うのなら実在はしているんだろうな」

「どういう意味ですか?」

「まず一言謝っておかないといけないんだが、俺も楽園へ連れて行ってくれるという魔法道具の所在については知らない」


 バルガさんの言葉にハルナとレイがあからさまに落胆していた。

 失礼だろ。


「ただ、魔法道具の中には『山を消し飛ばせる槍』とか『天を斬り裂く剣』なんていうのもある。お前たちが探している魔法道具ももしかしたらそんな伝説の魔法道具なのかもしれない」


 たしかに『存在していない』という証明がされない以上、どこかに『存在しているかもしれない』という可能性は永遠に残り続ける。

 やはり、地道に探して行くしかないみたいだ。


「誰か在り処について知っていそうな人はいませんか?」

「残念だが、普通の錬金術師は在り処について知っていないだろうな」

「普通じゃない錬金術師?」


 ハルナがバルガさんの言葉に首を傾げる。

 バルガさんの言い方だと普通じゃない錬金術師がいるみたいだ。


「俺は戦いの中で使える魔法道具を作る錬金術師だが、錬金術師の中には伝説上にしか存在しないような強力な魔法道具を再現しようなんて考える錬金術師もいる。そいつらなら何か知っているかもしれない」

「そうですよね……」


 途方もない話にレイが肩を落とした。


「それに、この国にある可能性は低いだろうな」

「え、どうしてですか?」


 ハルナは気付いていなかったみたいだが、俺はその可能性に気付いていた。

 隣を見ればショウが溜息を零していたし、レイは特に驚いた様子を見せていなかった。2人とも予想はしていたのだろう。


「この国の王族だった勇者が情報を集めても正確な情報を得ることができなかったんだ。となると、国の力が及ぶ範囲にはなかったんだろうな」

「そっか……」


 この国には冒険者としてのランクアップの為にいる。

 比較的温暖で過ごしやすい気候であるメグレーズ王国は、日本と環境的には似ているところがあったため長期間過ごすにはちょうどよかった。

 そのため、しばらくは国内に留まることを選んだ。

 危険はあるが、他の国に行って環境が合わずに倒れてしまうよりはいい。


「ま、そんなに落ち込むな」

「はい……」

「随分と優しくなりましたね」


 最初に玄関で会った時には怒鳴られてしまった。


「ああ、それはすまなかったな。お前らの話を聞いたら同情してしまったんだ」

「理由を聞いてもいいですか?」

「俺は元々王宮で召し抱えられていた錬金術師だったんだが、才能には恵まれたみたいなんだが、上司には恵まれなかったみたいで働き始めてしばらくした頃に大きな仕事を任されて成功させたんだが、その時の功績を全て上司に奪われてしまったんだ。もちろん直訴はしたが、その上司がとある貴族で直訴しても全く取り合ってくれなかったんで怒って出て来たわけよ。で、その直訴した相手っていうのが……」


 現在の宰相。


「奴は世間一般だと公平で有能な人間だと思われているらしいが、裏で色々な工作をしていたから今の地位があるんだ。奴に敵対するっていうなら協力するぜ」


 人間嫌いというよりは、宰相や王城の人間が嫌いみたいだ。


「だったら錬金術師の仕事っていうのを見学させてもらえませんか?」


 隣で話を聞いていたショウが提案した。


「どうしてだ?」

「僕も強くなりたいんですけど、行き詰ってしまったのでいい方法を探しているんです。錬金魔法なんて力を持っているので錬金術師の力を応用できないかと思っています」

「俺の扱う錬成魔法と錬金魔法は全く別物なんだが……」


 どうにも気乗りしないみたいだ。


「報酬を出せば引き受けてもらえますか?」


 ショウがやる気を出しているのは、おそらく俺だけが強くなってしまったことに焦っているのだろう。

 なら、仲間としてできる限りの協力をしたい。


「そうだな。金じゃなくて貴重な魔物の素材でも分けてもらえればいい」

「たとえば?」

「今だとドラゴンとかが欲しいな」


 冗談のつもりで言ったのだろうが、幸いにも収納の中にレッドドラゴンの素材はたくさんある。


「レッドドラゴンが丸々一匹分あるので引き取ってもらえますか?」

「は?」


 とりあえず証拠としてレッドドラゴンの翼を見せると動きが止まってしまった。


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