第18話 伝手
「レッドドラゴンだぁ!」
ギルドマスターが大声を上げる。
討伐の為には軍や人間離れした力を持つ者が必要になる魔物。迅速な対応が必要だった。
「落ち着け。俺たちがこうして無事にいるっていうことは……」
「まさか、討伐できたのか?」
ゼンさんが頷く。
果たしてこれでいいのだろうか?
「お前が……いや、違うな。お前たちか?」
ギルドマスターが俺たちの方を向く。
ゼンさんの実力はベテランということである程度知られている。そこからゼンさんでは討伐が不可能だと判断されたのだろう。
「ああ、それもほとんど単独討伐だ」
隣に座ったゼンさんが俺の肩に手を置く。
「他の者は参加しなかったのか?」
「僕たち? 僕たちは震えて見ていることしかできなかったですよ」
ショウが何もできなかった悔しさから拳を握って震わせている。
「しかし、そんな強そうに見えないな」
「俺もその意見には賛成なんだがな」
「いや、待ってくれ……」
俺から何かを感じ取ったらしいギルドマスターがゼンさんの言葉を遮る。
「たしかに体は鍛えられているとは言えない。しかし、こいつからは途方もない力を感じることができるぞ」
「どういうわけか、こいつはレッドドラゴンの素材を収納して行く度に強くなって行ったんだ」
「なに?」
ゼンさんがあれこれと説明してしまった。
「あの――」
「お前たちが何を目的としているのか知らない。けど、誰か頼れる人間が1人ぐらいはいた方がいいぞ」
「そうかもしれないですけど……」
つまり、ギルドマスターを頼れと言いたいのだろう。
だが、相手は今対面したばかりだ。どこまで信用していいのか分からない。
「何か事情があるのか?」
「……ちょっと事情があって国から追われているんです」
「冒険者ギルドは国から独立した組織だ。たとえ国から迫られたとしても冒険者の個人情報を渡さないことをここに誓おう」
「分かりました。ですが、裏切られたと思った時は容赦なく敵対するつもりでいますから気を付けてください」
「具体的に何をするつもりだ」
「迷惑料をいただきます」
相手はギルドマスターだ。
彼の資産であるギルド(建物)を丸ごともらうことにしよう。
「では――」
そうして、これまでに起こった出来事を語った。
勇者と一緒に召喚された1人であること。自分たちの手に入れたスキルが俗に言うハズレスキルだったこと。そのせいで数日後には捨てられるように騎士に襲われて撃退したこと。元の世界に戻れる可能性のある魔法道具を探していること。
そこまで語ったところでギルドマスターが怒り出した。
「城の連中何をしていやがる!」
「こっちの都合で勝手に召喚したのに切り捨てるとか最低だな」
ゼンさんも俺たちの事情を聞いて怒ってくれた。
なんだかこういう反応されると嬉しくなる。俺たちを切り捨てる判断をした王城の連中を許す気は全くないが、この人たちにまで責任はない。
「お前たちが特殊な身の上なのは理解した。それで、どうしてレッドドラゴンの討伐なんてことができたんだ?」
「今のステータスを紙に書きますね」
収納から取り出した紙にペンで自分のステータスを描き写していく。
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レベル:3
体力:7700
筋力:7500
耐久:6800
敏捷:6850
魔力:8350
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収納からフレイムリザードやクルトさんたちの遺体を取り出した影響でレッドドラゴン討伐直後よりステータスが下がっていた。
「は?」
それでもギルドマスターとゼンさんが驚くぐらいにありえないステータスのままだった。
「このステータスはおかしい……」
「まず数値そのものがありえないぐらい高い。それなのにレベルが3とかあり得ないぞ」
「数値そのものはSランク冒険者と同等か少し少ないぐらいだが、彼らの場合はそれに見合ったレベルに到達している」
俺の場合はレベルは低すぎ、ステータスは高すぎる。
「だが、このステータスが本当ならレッドドラゴンの単独討伐も頷ける。だが、どうやってこれだけのステータスになった?」
「どうやら俺の収納魔法は生物の素材を収納すると対象のステータスを自分のステータスにある程度加えることができるようになっているみたいなんです」
「……そんな事は聞いたことがないな」
やはり、俺の収納魔法が特殊みたいだ。
考えられる可能性があるとすれば異世界から召喚された影響で収納魔法にそのような特典が付いた、ということぐらいだ。
「レッドドラゴンを単独で討伐できるほどの力だ。討伐したことを証明してくれればランクアップを考慮してもいい」
「本当ですか!?」
ある程度はランクアップしておきたい。
幸い、収納の中にはレッドドラゴンの素材が丸々入っている。
「とりあえず分かりやすく翼でいいか」
ソファから立ち上がって離れると収納から翼を取り出す。
……あれ?
「おい、大丈夫か」
「どう、した?」
頭がふらふらする。
いつの間にか床へ倒れ込んでいたようでショウに抱えられていた。
俺の前には床に置かれたレッドドラゴンの片翼があった。
「ああ、そういうことか……」
今の俺はレッドドラゴンの影響を受けてステータスが上昇している。
逆に収納からレッドドラゴンの素材を取り出せばステータスが一気に下降することになる。その結果、体力の急激な減少から眩暈を引き起こしてしまった。
ソファに座ってたどたどしく何があったのか伝える。
「それは、今後は気を付けた方がいいな」
「ええ、最低限のステータスだけ残して著しく変動しても大丈夫なようにしておきます」
「……そんなことまでできるのか?」
これについては一刻も早く自分の力を加減できるようになる必要があったためメテカルに戻って来るまでの間に考えておいた。
できると思えば、可能にすることができる。
収納魔法で作り出した亜空間の中にステータスに影響しないスペースを作り上げてその中にレッドドラゴンの素材を収納しておく。
とりあえずステータスが1000になるぐらいの素材があれば誰かに後れを取ることもないだろう。
今は全力時のステータスを確認する為に素材は全てステータスに影響を与えるようにしていたので失敗してしまった。
「まあ、対策ができているなら何も言う必要はない」
「それでも不意打ちを受けても死なないように1000は残しているのでうっかりで建物を壊してしまう可能性は残っているんですけどね」
「ちょ……ギルドを壊したりしないでくれよ!」
失礼な。
きちんと力を抑えることができているんだから本気で寝惚けたりしなければ建物を破壊する事態にはならないはずだ……就寝前にはステータスをさらに下げるようにしておこう。
「さて、レッドドラゴンの翼も見せてくれたことだし、君のランクを上げさせてもらうことにしよう。さすがに依頼を受けた経験がないというのも困るから、まずは2つあげてDランクからだ」
「ありがとうございます」
いきなり上がりすぎても困る。
今回、俺の単独討伐ということでランクが上がるのは俺だけだ。
パーティメンバーの3人を見捨てるつもりがない以上、一緒に行動するつもりだし、ランクが近い方が色々と行動しやすい。
それに一気に上がり過ぎると王城に見つけられてしまう可能性がある。
ギルドマスターはその辺の事情も考慮してくれたんだろう。
「君たちは王城の連中が色々と迷惑を掛けてしまった。同じ国の民として謝罪させてもらう。代わりに俺ができることは何かないだろうか?」
「でしたら、さっき言った元の世界に帰れるような魔法道具について思い当たることはありませんか?」
「残念だが、ギルドマスターの俺でもそんな魔法道具があるとは聞いた事がない。とはいえ、俺も魔法道具の専門家ではないから完全に否定することはできない」
絶対に何かあるはずだ。
そう思わなければやっていられない。
「だから魔法道具に詳しい奴を紹介してやろう」
「本当ですか!」
「ああ、メテカルに住んでいる錬金術師で魔法道具の研究をしている奴がいる。実力はあるんだが、人間嫌いで有名な奴なんだ。そいつの家の場所を教えてやるから明日にでも話をしに行くといい」
「はい」
その後、手書きの地図を貰って解散となった。
数日振りに宿へ帰ると全員が疲れ果ててベッドに倒れ込んでしまった。
強くなる方法は手に入れたので、次回からはレアアイテムの回収がメインになります。




