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第17話 墓

「こんな感じでいいんですか?」


 デリストル火山から城塞都市メテカルへと帰り、メテカルが見える場所の近くにあった森の中に入るとゼンさんに森の中へ案内された。

 森の奥にあった開けた場所に辿り着くと剣を使って黙々と土を掘り始めた。


 さすがに見ていられなかったので土を収納して穴を作ると、それをもう2つ作るように言われた。そこで、穴を何に使うつもりなのか気付いた。


「冒険者なんて仕事をしていると依頼先で死ぬなんてよくある事だ。遺体を少しだけでも持ち帰られるだけでも満足なんだよ」


 掘った穴の中にクルトさんとヴァンさんの死体を入れる。2人の遺体は炎を浴びてまともな状態ではなかったが、たしかに持ち帰ることはできた。


「フリックの奴も帰れればよかったんだがな」

「あるにはあるんですけど……」

「なに?」


 レッドドラゴンに食べられてしまったフリックさん。


「そうか、レッドドラゴンを収納してあるっていうことは腹の中にいたフリックの奴を収納したことにもなるのか」


 食べられてからそれほど時間を掛けずに討伐したこともあって消化されずに残っていた。残っていたんだけど……。


「女子2人はちょっと見ないでくれるかな?」

「分かった」


 俺の様子から見ていていられるような状態ではないのだと悟ったハルナとレイが離れる。


 3つ目の穴の前に立つと穴の上に魔法陣が出現させて解放する。


 ――ドサドサドサ。


 穴の中に落ちる音がいくつも響き渡る。


「こりゃ……」


 音が何度も聞こえて来たことからある程度は予想していたのだろうが、実際に穴の中を覗き込んだゼンさんが吐き気を抑える為に口に手を当てていた。冒険者として死体には慣れているものの穴の中にあるのは何年も一緒に過ごした仲間の死体だ。他の死体と同じように考えることはできない。


 俺もあらためて自分の目で確かめてみる。

 穴の中にはバラバラになった腕や足、細かくされた胴体があった。食べられた時に噛み砕かれてしまったせいだ。


「レッドドラゴンの腹の中にあったはずなんだが、フリックだけを取り出すこともできるんだな」

「みたいです……」


 この事実には色々と収穫があった。

 レッドドラゴンごと収納したため収納の一覧にフリックさんの遺体のような物はなかった。しかし、「もしかしたら消化されずに残っているんじゃ……」と考えると一覧に表示されるようになった。


 この事実から一覧には俺が収納してあると認識された物が表示されるようになっていることが分かる。それに中に入っている物だけを指定して取り出すことも可能みたいだ。


 どこまでのことができるのか気になるところだが、今は実験しているような余裕はない。


「すみません。俺がもっと早く自分の力に気付いて戦えるようになっていれば、こんなことにはならなかったんですけど」

「そりゃ、贅沢ってもんだ。お前はできる限りのことをしてくれたさ」

「ありがとうございます」


 フレイムリザードを収納した直後など自分のステータスを確認することができた時間はもっとあったはずだ。


 しかし、レベルが上がるような戦いをしていないことから確認を怠ってしまっていた。

 ステータスが上がっていることに気付いていれば理由を知ろうと色々実験をしていたと思う。だからこそ過去の自分の行動が悔やまれる。


「礼を言うのはこっちの方だ。墓を作るのを手伝ってくれてありがとう」


 手伝っているのは、自分の行動が間に合わなかったことに対する後悔からだ。だから謝らないでほしい。


 最後に穴の上に収納されていた土を被せて、上に木を目印として突き立てる。

 とりあえず今はこれで墓とするみたいだ。


「これからどうするんですか?」


 ほとんど俺1人で作ってしまったためやることのなかったショウが尋ねる。


「とりあえずメテカルに帰って依頼完了の報告だ」


 そう言えば、今回の依頼はフレイムリザードの討伐であってレッドドラゴンとの遭遇は完全な偶然なんだよな。

 冒険者としてまずは報告をしなければならない。


「そこで、レッドドラゴンが出現したことを報告しないといけない」


 ドラゴンの出現は、それこそ本来なら軍が総出で対処しなければならないほどの危険を孕んだ問題だ。冒険者だけで対処することは難しい。難しいと言ったのは、冒険者の中には数人だが、ドラゴンを単独で討伐できる人外レベルの実力を持った者がいるらしいので彼らに頼ることになるから、との事だ。ただ、数が少ないので運良く頼れる場所にいる保証はない。


 けど、ドラゴンの単独討伐は人外レベルの実力が必要ですか……。


「ど、ど、どうしよう!」


 いくらゼンさんたちが先に攻撃していたとはいえ与えられていたダメージは少ない。ほとんど俺が単独で討伐したようなものだ。それに次に現れた場合は既にレッドドラゴンの力を得た後なので単独で討伐しようと思えば単独での討伐は可能だ。


 問題は、そんな人外認定をされてしまうとどうなるのか、ということだ。


「お前には命を救ってもらった礼がある。悪いようにはしないから俺を信用して付いて来てくれ」



 ☆ ☆ ☆



 メテカルへ辿り着くとゼンさんに先導されながら冒険者ギルドへと向かう。


「お帰りなさいゼンさん」


 真っ先に迎えてくれたのは受付嬢のシャーリィさんだ。


「シャーリィ、すまないが依頼の報告をしたい」

「ゼンさんが請け負ったのはフレイムリザードの血液採取でしたね。素材はどうされましたか?」

「それは――」


 ゼンさんが俺の方を見る。

 俺も頷いて収納から採取した血液の入った瓶を取り出す。


「けっこうな量を採取されましたね……」


 瓶1つ分だけで相当な重さがある。

 それが5つも出て来れば驚かれるのも仕方ない。


「それから今回の依頼で冒険者は引退しようと思う」

「ど、どうしてですか!? 今までそんな素振りはありませんでしたよね!」


 いきなりの引退宣言に俺も驚いてしまった。


「俺たちを見て気付かないか?」

「そう、言われましても……」


 シャーリィさんの前には俺たち4人とゼンさんが立っている。

 5人とも怪我らしい怪我はなく、引退宣言をしたゼンさんは打撲のような軽い怪我はあるものの引退をするほどのものではなかった。


「俺の仲間はどうした?」

「え、フリックさんたちですか……? いつものように報告はゼンさんに任せてどこかへ酒場や娼館へ遊びに行っているのではないですか?」


 どうやら普段は依頼の報告は全てゼンさんに任せてフリックさんたちは依頼が終わると酒場に行ったり、娼館へ通ったりしているらしい。

 冒険者という命懸けの仕事をしている以上、どこかでストレスを発散させる必要があるんだろう。

 そして、今回の依頼では懸けた命が戻って来ることがなかった。


「残念だが3人とも死んだ」

「そんな……! みなさんが受けた依頼はフレイムリザードの討伐ですよね?」

「その辺も含めてギルドマスターに報告する必要がある。そういうわけで取次を頼めるか?」

「しょ、少々お待ちください」


 知り合いの冒険者が帰らぬ人となってしまったことに動揺を隠せないシャーリィさんがギルドの奥にある階段を上って姿を消す。


 やがて3分ほど受付の前で待っているとシャーリィさんが下りて来た。


「ギルドマスターがお会いになるそうです」


 シャーリィさんに案内されて初めてギルドの上階へと足を運ぶ。

 今までは1階にある依頼票の貼られた掲示板や酒場、素材買い取りや保管に使われる倉庫しか使ってこなかったので上階に何があるのか知らない。


 2階に上がると長い廊下に部屋があった。

 ちょうど部屋から職員が出てくるところで書類の束を胸の前に抱えて別の部屋へと入って行った。どうやら2階は職員が利用する部屋があるみたいだ。


 そのまま2階を通り過ぎて3階へと上がると一番奥にある大きな部屋へと案内された。


「ギルドマスター、ゼンさんたちをお連れしました」

「入ってくれ」


 シャーリィさんに扉を開けてもらって部屋の中に入る。

 部屋には中心に大きなソファとテーブルが置かれており、奥にある机では筋肉のあるゼンさんよりも大きな熊みたいな男が書類と格闘していた。


「ソーゴさんたちは初めてでしたね。彼がメテカルの冒険者ギルドのギルドマスターです。元冒険者ですので、かなり強いですよ」


 今は仕事中とのことでシャーリィさんに促されてソファに座る。

 5人もいたが、ギリギリ座ることができた。


 その後、シャーリィさんは俺たちの前に紅茶を用意して部屋を退出した。

 少ししてキリのいいところまで終わったのか向かいにあるソファにギルドマスターが座る。


「シャーリィから簡単に事情を聞いている。仲間が帰ってこなかったそうだな。お前たちがフレイムリザードを相手に負けるとは思えない。一体、何があった?」


 ギルドマスターからの質問に対してゼンさんは嘘偽りなく正直に答えた。


「――レッドドラゴンが出現した」


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