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第16話 ドラゴン討伐

 2本の剣を手に持って1歩前に出る。

 するとレッドドラゴンが後ろに1歩下がってしまった。

 また1歩前に出るとレッドドラゴンが下がる。


 これは……。


「どうした? 怖いのか?」


 指を何本も斬られてしまったこともそうだが、レッドドラゴンほど強い存在なら相手の力を推し量ることができるのだろう。

 最初は羽虫程度の力しか感じられなかったはずの相手なのにいつの間にか自分に迫ろうとしている謎の存在――相手の正体が分からないことにレッドドラゴンは初めての恐怖を覚えていた。


 恐怖は生物として当然の感情だ。

 そして、そんな感情を抱いた者の行動はたいてい決まっている。


「あ、逃げるな」


 翼を羽ばたかせると空へと逃げ出した。

 さっきまでのレッドドラゴンに食べられるばかりだった頃から逃げることを歓迎していただろうが、生憎と今は俺が捕食者でレッドドラゴンが獲物だ。

 逃がすわけにはいかない。


 飛び立ったレッドドラゴンを追い掛けて走り出す。ステータスが上がったことで難なくレッドドラゴンの下までは追い付くことができたが、空を飛んでいる相手に与えられるような攻撃方法は両手に持っていない。


「空に逃げたら安心だとでも思っているのか?」


 真下から空を飛ぶレッドドラゴンに向かって跳ぶ。

 当然、空を飛ぶ相手に届くような力を発揮するまでには至らず6メートルほど跳べたのに体が地面へと落ちて行く。


 その姿を見てレッドドラゴンが鼻で嗤っていた。


「逃げ出した奴が何を嗤っている」


 1度の跳躍で届かないなら届くまで何度も跳躍すればいい。


「よっと」


 収納から取り出した岩を足場にしてさらに跳躍。落ち始めたところでまた岩を取り出す。

 足場にできる岩なら収納にはたくさんある。


「なに、この地面……」


 ハルナが俺の走った跡に気付いたみたいだ。

 足場にした岩は走りながら足先から生み出した魔法陣から収納して行った地面だ。


「よう」


 レッドドラゴンと同じ目線まで上がると笑みを浮かべて挑発する。


 咆えながらレッドドラゴンが腕を振るう。

 手の中に砕けた岩の破片だけが残されるが、既に俺はそこにはいない。


「悪いが、お前の翼頂くぞ」


 頭上を跳び越えて背後に回ると翼の付け根に向かって剣を振り落とす。

 落下のスピード、上昇したステータス、魔力を流すことによって鋭くなる王剣の効果も相まって翼が斬り落とされる。


 翼を攻撃場所に選んだのは、胴体などは硬い鱗に覆われていて攻撃が通りそうになかったが翼は鱗に覆われていなかったからだ。


「貰い」


 手を伸ばして指先が軽く触れただけで収納された。

 ……また、ステータスが上がった。


「ははっ、この魔法は本当にいいな」


 簡単に上昇していくステータスを見て笑いがこみ上げてくる。

 生物を収納すればするほど魔力が増大され、収納限界がさらに増強される。どれだけ多くの生物を収納しても平気になる。その結果、際限なくどこまでもステータスを上昇させることができる。


「どこまで強くなれるのか気になるところだな」


 そんなことを考えている場合じゃない。


 片翼を失ってふら付いていたレッドドラゴンが尻尾を振り回して俺に叩き付けて来た。

 さっきは簡単に吹き飛ばされてしまった攻撃。


「なんだ、こんなものか」


 腕に装着したガントレットで尻尾を受け止めるとギュッと尻尾を握りしめる。


「地面まで付き合ってもらおうか」


 飛ぶ力のない俺に引きずられるようにレッドドラゴンが地面に叩き落される。

 俺の前には無防備な姿を晒している尻尾がある。


「もらった!」


 収納から取り出した斧で尻尾も付け根から切断して収納する。


 斧を放り出すとレッドドラゴンの背中を走り、ついでに残っていた翼も斬り落として収納する。


 痛みに耐えながらレッドドラゴンが立ち上がろうとするもバランスが取れずに地面に倒れてしまう。


「ようやく半分ぐらいまで追い付いたぞ」


 ステータスを確認すると既に4000近くになっていた。

 それでもレッドドラゴンのステータスは倍以上あるので追い付いたとは言えない。しかし、翼を失って空を飛ぶ力を失い、尻尾がないせいでバランスが取れずに立ち上がることのできない生物のどこを怖がれというのか。


 レッドドラゴンが懇願するような目を俺に向けてくる。


「悪いな……まだ一撃で倒せるほど強くなっていないんだ」


 命乞いを受け入れるつもりはない。

 そして、楽に死なせてあげられるだけの力もまだ持っていない。


 2本の剣を使って斬り飛ばしやすそうな手や足の指を斬り飛ばしていくと収納してステータスを5000まで上げる。


 レッドドラゴンが首だけを動かして口の中に溜め込んでいた炎を吐き出してくる。


「だから、それも通用しないんだよ」


 手を掲げて魔法陣を生み出せば吐き出された炎が全て収納される。

 うん、炎なんて使い道がたくさんあって在庫はいくらあっても足りないぐらいなんだからちょっとの魔力消費だけで手に入るのは嬉しい。


「さ、そろそろ終わりにしようか」


 収納から取り出された俺よりも大きな両刃の斧を見てレッドドラゴンがイヤイヤと首を横に振っている。


 フリックさんを食べた時の畏怖すら感じさせる表情はどこに行ったんだ?


「でも――ダメ」


 レッドドラゴンの首元まで移動して斧を振り下ろす。

 この斧も王城の宝物庫から手に入れて来た魔法道具(マジックアイテム)で魔力を込めると重量を最大で2倍にまで上昇させることができる。


 ただ力任せに振り下ろすことに長けた斧だ。

 こういう状況では非常に役立ってくれている。


 ――ズシン!


 首を斬り飛ばされたレッドドラゴンが死体となって倒れる。さすがにドラゴンとはいえ、首を斬り飛ばされて生きているはずがない。

 念のためにレッドドラゴンを収納してみると無事にできた。

 死体となっていることが確認できた。


 ただ、気になるのは……


「これ、どうしよう……」



==========

 レベル:3

 体力:8000

 筋力:8100

 耐久:7200

 敏捷:7000

 魔力:8500

==========



 自分のステータスを改めて確認して思う。

 まず、レベルとステータスの数値が噛み合っていない。おまけにこの数値は既に人外レベルではないだろうか。ベテラン冒険者のゼンさんだって500ぐらいだって言っていた。


 とにかく、レッドドラゴンの討伐は完了した。


「みんな、もう安全だぞ」


 ショウたち3人の傍に駆け寄ると盾の向こう側から俺の姿を見てもポカンとしていたが、次第に状況が理解できるようになった。


「おお!」

「すごいじゃん!」

「そんなことができたんですね!」


 生き残れたことを喜ぶように俺へ抱き着いて来た。


「なんとかね……それよりも離れてくれるかな」

「……どうしてですか?」


 喜んでいるところを拒絶されているように感じてレイが絶望したような表情を浮かべていた。

 嫌、というわけではないのだが今触れ合うのはマズい。


「今の俺のステータスはドラゴンを単独で倒せるぐらい人外レベルだ。手加減もできていないのにそんな状態で誰かに触れてみろ。相手の体を粉々にしてしまう可能性だってあるぞ」


 俺の言葉を受けてショウとハルナがサッと後退する。幼馴染だけあって息の合った動きだな。

 けれどレイだけは俺と触れ合える距離にいた。


「大丈夫なんですか?」

「ああ、簡単な解決方法としてはレッドドラゴンを収納から取り出せばいいだけだから」


 ただし、ステータスが一気に落ちてしまった時のことを考えると怖くて今は試す気にはなれなかった。


「ドラゴンの単独討伐なんて勇者とかじゃないとできないぞ」


 未だに信じられない物を見たような目をしたゼンさんが近付いてくる。


「2人の遺体はどうしますか?」

「メテカルの近くに埋めてやるさ。とりあえず、それまではお前が持っておいてくれ」

「はい」


 2人にも色々と世話になった。

 それぐらいの苦労なら背負ってあげよう。


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