第14話 レッドドラゴン
「ぎゃあああぁぁぁ!」
レッドドラゴンの吐き出した炎をヴァンさんが浴びる。
背中を向けて逃げていたため背中に浴びた炎は全身を炎で包み込み、炎の熱さから逃れようと地面を転がっていたヴァンさんだったが、いつしか動かなくなる。
後には真っ黒に焦げた人だった物が残る。
それへレッドドラゴンが爪を伸ばす。
「――テメェ、何をするつもりだ!」
フリックさんがヴァンさんの死体を手にしようとしたレッドドラゴンの伸ばされた爪へと槍を叩き付ける。
しかし、フリックさんの槍ではレッドドラゴンの爪すら傷付けることすらできずに弾かれてしまい、逆に無防備な体勢になってしまった。
そこへ背中から突き入れられた別の爪がフリックさんの体を串刺しにする。
「すま、ねぇ……」
謝罪だけ残してフリックさんが口から血を吐きながら息絶える。
爪に差したフリックさんをレッドドラゴンが口元へと運んで行く。
俺たちはフリックさんが食べられていく光景をただ眺めることしかできなかった。
「どうする?」
「決まっている。奴を倒すしか生き残る道はない」
「それしかなさそうだな」
クルトさんは諦めたように、ゼンさんは怒りに満ちた目でレッドドラゴンを睨み付けていた。
いや、ゼンさんの握る剣がカタカタと音を立てていた。恐怖から体が震えているみたいだ。
俺も可能なら早くこの場から逃げ出したい。
けれど逃げ出した瞬間に殺されてしまうことは、後ろから炎を浴びせられたヴァンさんや爪に串刺しにされたフリックさんを見れば明らかだ。
逃げることができない以上、生き残る為にはレッドドラゴンをどうにかして討伐するしかない。
「ったく、どうしてレッドドラゴンなんて出てくるんだよ」
「これも魔王復活の影響か?」
「そうだろうな」
2人が平時と変わらないように闘争心を奮い立たせるとクルトさんが前を、ゼンさんが後ろを走り出す。
俺たちも何か手伝いを……。
「お前たちは、そこで大人しくしていろ!」
俺たちの横を駆け抜けてレッドドラゴンへと走る。
レッドドラゴンが地面を走るクルトさんを仕留めるべく地面に向かって爪を突き刺す。
「残念」
だが、レッドドラゴンが爪を突き刺した場所から1歩ずれた場所にクルトさんは立っており、攻撃を回避するとそのままレッドドラゴンの腕を駆け上がる。
レッドドラゴンが地面に突き刺さった爪をそのままにして空いていたもう片方の腕を振るって爪を突き刺そうとする。遊んでいるつもりなのかあくまでも爪で殺すことに固執しているようだ。
「うおおおぉぉぉぉぉ!」
クルトさんに意識が向いている間に振るわれた剣が地面に突き刺さったままの爪を斬り飛ばす。指まで斬り飛ばせればよかったのだろうが、鱗に覆われている部分までダメージを与えることはできなかった。
「クソッ、俺の短剣じゃダメージを与えられないからゼンに頼るしかない」
クルトさんが使用している武器は短剣だ。
ベテラン冒険者ということで、それなりの業物を使用しているようだったが、それでも硬い鱗に全身を覆われているドラゴンを傷つけられるほどの業物ではないらしくレッドドラゴンにダメージを与えられる攻撃はゼンさんの剣だけだった。
そのため詳しい打ち合わせをすることもなく長年の経験からクルトさんが注意を引いている間にゼンさんがダメージを与えて行くという形に自然となっていた。
「よしっ」
爪を斬り飛ばす光景を見ていた俺たち4人の誰もが痛みに悶えるレッドドラゴンの姿を見て勝てると思った。
しかし、それほど堪えていないらしくレッドドラゴンが翼を羽ばたかせ空へと向かう。
「これは、ヤバイな……」
ゼンさんの言葉通り上空へと退避したレッドドラゴンが口を大きく膨らませて口から炎の息吹を地面に向けて吐いて来た。
「全員、伏せろ!」
「固まれ」
咄嗟にレイも抱き寄せて近くにいた4人で小さくまとまる。
同時にもっと多くの盾を取り出してドーム状に展開させる。
どうにか炎の息吹が届く前に防御が間に合い、盾に炎が浴びせられる。
「さすがは王城の宝物庫にあるような業物……」
何枚も重ねた業物の盾はしっかりと炎を受け止めてくれていた。ただ、熱までは完全に遮断できていたわけではなく、盾で作ったドームの内側は蒸し暑くなっていた。
「もう、いいんじゃないの?」
ハルナの声に盾をどける。
炎の息吹は既に止まっており、レッドドラゴンは上空に待機したまま地上の様子を伺っていた。
そうして、周囲を見てみると……。
「うっ……」
あまりの熱さと匂いに顔を顰めてしまう。
「悪いな、しくじった」
岩壁の前で地面に倒れたまま動けなくなったゼンさんがいた。
「どうしたんですか!?」
慌てて盾のドームから抜け出すとゼンさんに近付いて収納から回復薬を取り出す。もしもの時の為にと持ってきておいて良かった。
回復薬を飲んだゼンさんは息苦しさが抜けたようだったが、体を動かせるほど回復してくれなかった。
「こいつは、それほど質の高くない回復薬だな。メテカルに帰ったらその辺の目利きとかも教えてやる」
「教えてくださいよ。だから、死ぬようなことを言わないで下さい!」
人のことを勝手に召喚した連中のことは許せないが、ゼンさんはそんな奴らとは関係ないし、俺に優しくしてくれた冒険者だ。死なせるわけにはいかない。
「そういうわけにはいかない」
地面に倒れたゼンさんの視線の先には空中から地上へと降り立ったレッドドラゴンの姿があった。
少し離れた場所に降り立ったレッドドラゴンの傍には何か黒い物体が転がっていた。
「クルトの奴は炎の息吹をまともに浴びてしまったらしいな」
「なっ……!」
ということはレッドドラゴンの傍に転がっている炭化した何かがクルトさん!?
もう元の原型なんて留めていない。
「俺は岩陰に隠れてやり過ごそうとしたんだが、レッドドラゴンは炎の息吹を吐きながらこっちに飛んできたんだ。その時に体当たりをもろに受けて全身のあちこちが痛くして仕方ない」
俺の持っている回復薬では完全に治療することができない。
レッドドラゴンは炭化したクルトさんには既に興味がないらしく、生きている俺たちの方へと歩いて来る。
覚悟を決めるしかない。
「ここで待っていてください」
「なっ、まさか戦うつもりか!?」
「たとえゼンさんが食べられている間に逃げ出したとしてもメテカルまで逃げ切れるとは思えません。だったら無理を承知で戦うしかないんです」
「そんな事を言わずに逃げろ! 相手はステータスが1万を超えるって言われているレッドドラゴンなんだ。全員は無理でも1人ぐらいなら逃げ切れるかもしれないだろうが!」
「そんなわけが――」
そこから先は口に出来なかった。
いつの間にかレッドドラゴンの長い尻尾で叩かれて上空へと飛ばされていた。
「痛い――!」
痛い、痛い、いたい、いたい、いたい――!
「けど、耐えられないほどじゃない!」
やっぱりステータスがいつの間にか上がっている。
でないと、レッドドラゴンの攻撃に耐えられる理由が見つからない。
「ほら――」
ステータスを見て以前に確認した時よりも上昇しているのが分かった。
理由はいくつか考えられるけど……
「やっぱり、これが一番有力だろ」
収納からいくつもの大きな葉を取り出して地面に置くとクッションの代わりにして体を転がして着地する。
その先にはゼンさんが斬り飛ばしたレッドドラゴンの爪が地面に突き刺さったまま残されていた。
「収納!」
レッドドラゴンの爪が消える。
やっぱり俺の思った通りだ。
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レベル:3
体力:450
筋力:560
耐久:590
敏捷:390
魔力:640
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ほら、レベルが全く上がっていないのにステータスが異常なほど上がっている。




