第15話 エピローグ~異世界~―前―
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魔王との戦いから1カ月後。
再び、主要国の王たちがメグレーズ王国へと集められていた。
「……よく集まってくれた」
メグレーズ国王が重たい口を開く。
彼が憂鬱そうにしているのは、王たちを集めた人物にある。
主要国の王を集めるなど、どんな国の王でさえできない。だが、過去にも同じ事をした人物がおり、彼らは同じ方法で集められていた。
「全員の手にも渡っていると思うが……」
その時、部屋の隅でバチッと光が爆ぜる。
「どうやら全員が俺の招待を受け入れてくれたみたいで助かったよ」
以前と同じように招待状を出させてもらった。
誰が、どんな方法で届けたのか分からない招待状。
そんな物を受け取れば、俺が招待者だと分かって怖気づいてしまう。
「……っ、一体何の用だ!? お前たちは元の世界へ帰り、この世界も魔王が倒されたことで救われた。これ以上、お前がこの世界に関わる必要などないはず! いや、そもそもなぜいる!?」
メグレーズ国王が怒気を含んだ目を向けてくる。
が、碌に戦場へ出たことすらない男の睨みなど魔神と命懸けの戦いをした身からすれば微風にすら感じない。
メグレーズ国王を無視して話を進める。
「俺だけは世界間を自由に行き来することができる。なので、ちょっと戻らせてもらった」
『転移の宝珠』を利用して元の世界との間を行き来して様々な現代兵器を調達して戦った。
具体的に説明した訳ではないが、俺の後半における戦い方について知っている者なら予想できてもおかしくない。現に俺の言葉に驚いているのはメグレーズ国王だけで、他の王たちは予想していたのか頷いていた。
「くっ……」
味方がいない状況にメグレーズ国王が歯を噛み締める。
そもそも、勇者召喚に関するあらゆる事実が明るみになってからメグレーズ王国に味方してくれる者など皆無だ。外交による懐柔も不可能と言っていい。現在、ほとんどの国を敵に回してしまっている。もしも、メグレーズ王国の味方についた時は他の国々全てが敵に回ることになる。
そんな状況で味方になってくれる者などいるはずがない。
「で、俺が来た用件は二つ。一つは、俺たちがどうなったのかの報告。そして、俺たちがいなくなった後で何があったのか聞きたい」
魔王との戦いがどうなってのか少し気になっていた。
しかし、タイミングもあって1年近くも保留にしなければならなかった。
「魔王は討伐された」
「それはよかった」
答えてくれたフェクダレム帝国の皇帝に心からの賛辞を贈る。
こちらから何かをするつもりは全くなかったが、やはり世界が滅ぶ瀬戸際だったので気にはしていた。
「いや、それほどよくはない」
「どうしてですか? 魔王討伐は、世界の悲願だったはずでは」
「魔王討伐に際して討伐隊の8割が壊滅した」
「8割……」
通常、軍隊において3割の損失は撤退を考慮しなければならない。
そんな数の戦力が失われたとなれば現在は軍隊として機能していないのかもしれない。そうなれば派遣した側として苦しい立場に追い遣られる。
「いや、魔王の討伐だけなら半数近い損失だけで済ませることができた」
詳しい話を聞くことにする。
魔王を前にした討伐隊は死力を振り絞って戦った。自分たちの敗北は、そのままメグレーズ王国が魔王の力によって蹂躙されることを意味していた。彼らには撤退など最初から許されていない。
気迫に満ちた攻撃によって半数近い戦力を失ったことと引き換えに魔王の息の根を止めることに成功した。
とはいえ半数を損失している。
それに生き残った者たちも満身創痍だ。
魔王の戦いを終えた討伐隊は、討伐した魔王を持ち帰る為の準備や魔王城の探索を行っていた。
民衆を安心させる為にも魔王を討伐した、という明確な証拠があった方がいい。それから、魔王城には何か財宝があるかもしれない。少しでも戦いの後を考えて財源になる物を各国は求めていた。
結果から言うと、それらの行動は全て間違っていた。
戦後の作業を始めてから十数分後。魔王城の地下で発生した爆発によって地上にいた全ての人々も吹き飛ばされて誰一人として帰ってくることはなかった。
それが損耗率8割に繋がった事故。
魔王を討伐した後での爆発によって、魔王との戦いすら生き残った歴戦の猛将すら帰らぬ人となってしまった。
「そうですか……」
少しばかり申し訳ない気持ちになる。
最後に起こった爆発。あれは、俺が『楽園への門』を回収したが為に魔神を暴発させてしまったために発生した爆発だ。
俺が地上の様子なんかを気にしていれば問題なかったかもしれない。
「けど、いい教訓になったでしょう」
「何がだ!」
クウェイン王国の国王が憤りながら立ち上がる。
彼の国は、元王子が魔王軍の四天王にまで堕ちてしまう、という失態を少しでも挽回しようと多くの戦力を投入していた。
そして、最終的に帰ってきたのは僅かばかりの戦力。しかも、負傷した一兵卒が多い。自国の経済状況を考えて、少しでも多くの財宝を持ち帰ろうと将軍自ら城の探索に乗り出していたのが要因だ。
そんな状態で「いい教訓」なんて言われれば怒る。
が、俺には本当に関係のない話だ。
「落ち着いて考えてみてください。魔王軍は俺が倒しましたが、魔王だけならあれだけの戦力を用意すれば勇者召喚に頼ることなく半分の戦力を消耗するだけで倒すことができたんです」
もしも、異世界から勇者を召喚しなければ、さらに3割を失うような事態にはならなかった。
「勇者召喚なんてしてしまったあなたたちがいけない」
『……』
全員が口を噤む。
先人たちからの伝承に従って安易に勇者召喚などに頼ってしまった。もしも、自分たちの力だけで事に当たっていれば無駄に戦力を消耗するようなことはなかった。
それでも、納得していないのがメグレーズ国王だ。
「いいや、そんな事はない!!」
勇者召喚はメグレーズ王国が主導で行った。
そんな国が『勇者召喚は間違いだった』などと認められる訳がない。そんな事を認めてしまえば非難を受けるのは自分たちになる。
「そもそも、そこまで手伝ったのだからお前たちが魔王討伐まで行えばよかった。そうすれば半数の犠牲者だって出なくて済んだ。何より、それが『勇者の役目』だろう!」
自分の言葉に自信があるのかニィと笑みを浮かべる国王。
だが、俺の心には全く届かない。
「そもそも、と言うのなら俺たちは『勇者』なんていう役割を了承していない」
「なに……?」
「いきなり、こんな世界へ連れて来られて言う事に従わなければならない状態に陥らせられただけだ。あんたらを助ける義理なんて最初から微塵も持ち合わせていないんだよ」
「お前たちの意思など関係ない!」
こちらの都合など全く気にしないメグレーズ国王。
もはや、あのようなバカのことは気にしないことにする。
--ガチャ。
そんな音が部屋に響く。
部屋にいた全員の視線が音の聞こえた方へと向けられる。
「な、何だ……?」
メグレーズ国王が視線を下へと向ける。
音は彼の首からした。
「これ、は……まさか!?」
国王には自分の首にいつの間にか取り付けられた首輪に見覚えがあった。
「奴隷の首輪だ」
奴隷に堕ちた者へ付けられる首輪。
この首輪は、所有者から命令一つで締め付けられ、最終的には捩じ切られてしまうほどの力を発揮する。
「いつの間に!?」
どこからでも物を取り出せる【収納魔法】が使える俺。ちょっと念じるだけで首に魔法陣を出現させて首輪を出すなど造作もない。
そして、この首輪の所有者は俺になっている。
「こんな事が許される訳がない!」
「許されるさ」
「なに?」
「俺にとってあんたは報酬を支払っていない債務者だ。そして、あんたの持っている資産じゃ、どれだけ頑張ったところで返せる訳がない。だから借金奴隷として奴隷になってもらっただけの話」
借金を返せなくなった者は、最後の資産である自らの肉体を差し出し、どれだけの重労働であろうとも従事して返済しなければならない。
それは、メグレーズ王国の法律にもきっちりと定められている。
ここまでするつもりはなかったが、あまりに国王の言葉が煩いので強制的に黙ってもらった。
「さて、もう一つの用件を済ませることにしようか」




